「まったく、本当にあまねはとろいんだから」

「いつもいつも申し訳ありません」

「謝るくらいならしっかりして欲しいんだけど?……で、鞄持たないまま学校に何しに行くわけ?」


「え?あ、あああー、取ってきますー」



俺の婚約者はとろい。しかもぼんやりしてるからすぐに人に騙されるし、困ってる人のためなら自分の食事すら差し出す超がつくお人好しだ




腕時計の時間を見てから、はぁとため息を着く


時間は大丈夫だ。あまねのこういうところも計算して迎えに来てるから




10歳のとき、初めて婚約者としてあまねに逢って










『正直、こいつ大丈夫なのか?』と思った






それは今も変わらない。
要領が悪くて、一般を1にするとあまねは5ぐらいの努力が必要で
ぼんやりにこにこ笑ってるばかりだから、家柄は高いのに利用されたり馬鹿にされてて
裏切られても騙されても「困りましたねぇ」とか言いながら笑ってて




本当に本当に本当に




真剣にイラついて、心配になった。





「お待たせしてすみません」

「いいよ慣れてるから。ほらどうぞ」



息を切らせて戻ってきたあまねを車の後部座席に乗せて反対から俺も乗る
運転手が車を出してからちらっとあまねを見て――――



「ほら、走ったから寝癖出てるよ」

「わぁ、ありがとうございます」



その栗色の髪の毛が一房跳ねていたから優しく撫で付けて直してやる

直してやる最中だってのにあまねはいつも通りへらっと笑って頭を下げた



他はあまねだからと諦めて来たどんくさい婚約者を、
なんとか俺が支えて真っ当にせねば!!と怒鳴り散らし続けるうちに







そこがとても愛しく感じるようになったのは、いつからだろう



馬鹿で使えない奴は嫌いだけど
ここまでの馬鹿だと可愛らしくさえ見える

「いいよ、寝て。どうせ昨日も深夜まで勉強してたんだろ」

「いや、和樹さんにこれ以上迷惑をかけては」

「今更だろ。寝不足でまたどっかで貧血で倒れられた方が迷惑だから、寝なよ」



そこまできつく言って、ようやくあまねは申し訳なさそうに目を閉じた



顔は、凡人
要領は、凡人以下
さらに性格は、優しすぎて疑うことを知らない


なのに家柄だけは立派。





こんな苦労することがわかりきった婚約者だけど

俺は今日も彼女を守るために、金の亡者どもを蹴散らして戦うんだ





だから、





「これくらいは良いよな」




すでに熟睡した彼女をそっと引き寄せて俺にもたれかかさせる
ふれあったところに温もりを感じながら、つい微笑むと





「坊っちゃんは本当にあまね様が大好きですね」


「………うるさいよ富永」



運転手がミラー越しにちらりと見て茶化してきたけど、別に反論する気は無い





今日も守るから。守るから………


早く俺に恋をしてよあまね。




そんなことを思いながら、彼女の髪を優しく撫でた






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