なんだか今日は、帰りが遅いなぁ
飲み会とは聞いていた。けれどいつもならもう帰って来ていてもおかしくはない


ふむ、と考えていると



暗黒騎士の登場音が聞こえた。伊吹からの電話だ………――






















あ の ば か は !!


夜中に車を走らせながら軽く殺意が込み上げてくる


『すいません、斎藤の彼女さんですよね?』


居酒屋はわりと近く、近くの駐車場に止めて車のキーとお財布だけを持って入りたく無いが居酒屋の中に入る



『斎藤が泥酔しちゃって……斎藤狙いの女子に持って帰られそうなんで、迎え来てくれませんか?』

「……行かなきゃダメですか」

『いやもし一晩の過ちなんか起きたら、斎藤自殺とかしそーじゃないっすか!!』


…………

あいつは職場でどんなイメージを持たれているんだ




タバコと酒の臭いが漂う居酒屋で、電話をくれた同僚さんの名前を出すと私はすんなりと団体の個室に通された


が、入る前からもう帰りたくなった




『なちと結婚するんだあああああああ』



「…………」


『わーったから!!抱きつくんじゃねぇよ斎藤!!』

『なっちいいいいい!!!』

『もーぅ、斎藤君こっちきてよー』

『なちるううううう』




もうやだ


Uターンをしようと思ったが、運悪く伊吹に抱きつかれていた同僚さんが微妙に透ける扉越しに私を発見してしまったからそうもいかなくなった



「あー!!なちるさん!!そんなとこいないで早く助けてくださいよ!!」



渋々と扉を開けると、女性二人のきつい睨みと男性四人のすがりつく視線が集まった


もうやだ(二回目





なのに馬鹿は酔っぱらいながら電話をくれた同僚さんに絡み付いて気づいてないし



「俺ねー、なちと結婚するんだー。子供は三人ほしいなぁ、でもなちるがいれば何も要らねぇー」






マジで、もうやだ(三回目




「伊吹」



仕方がないから、バカの名前を呼ぶと



伊吹は嬉しそうに笑い両手を広げて抱きつこうと私にむかって千鳥足で歩いてきた



「なち、なち、なちいいいいい」





その手が私にたどり着く一瞬前に







「婚約、解消されたい?」


にっこり笑ってそう言うと、伊吹が目の前で崩れ落ち跪いて私の足に絡み付いてきた



「やだ!!やだやだやだ!!それは、それだけはやめてください………」



そして、泣き出した







もうやだ(四回目






「お、俺は、なちるが大好きなんらよ?」

「……知ってる」

仕方がないからしゃがんで伊吹と目線を合わせてあげるけど、本気で皆さんの視線が痛かった

「もうさ、きもちわるいくらい、ずっとずっとなちるさんが、だいすきなんらよ?」

「うん、知ってる」

「もう、は、はきそうな、くらい、大好きなんですよなちるさああああん」

「うん、トイレ行こうか」

「なぢいいいいいい」


がばりと抱きついてくる重いバカを抱き返して、一緒に立ち上がる

「好きだよなちるうううう」





「……………うん、大好きだよ伊吹」





一瞬だけ笑みを消して、さっきから睨んできていた女性二人を睨み返すと彼女達は気まずそうに目を逸らした




まったく、めんどくさい



「篠崎さんすみません、車まで馬鹿運ぶのを手伝って貰えませんか?」


「あ、いーっすよ。あぁ斎藤の荷物も持ちますから」


「すみません」









『とりあえず明日の朝はお仕置きだね』










「牽制っすか?意外とやりますねぇなちるさん

「…………ま、一応これは私の婚約者ですから」」



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -