そのときはじめて
無表情だった男が、はにかむように笑った
「お前に、守る力をやるよ。俺の命と力を全部やる」
「っ、はぁ!?」
「元よりお前は闇の生き物として生きるにしては、8年前にやった命の量が少ないからな」
「い、いや、そんなことしてあんた大丈夫なのか?」
「死ぬな」
あまりにあっさり言うから、どう言えば良いのかわからない
けれど男は柔らかく笑っていた
「俺と同じ境遇のお前に、まだ愛する人が残ってるお前に、俺の命をつかって欲しい。人を助けて死んだのなら、あいつもきっと文句言わないだろうからな……」
そこから先は俺の意思なんかなかった
ただ男は、俺に目に見えないけど巨大な何かを移して
嬉しそうに笑って、灰になった
『隠れるなら幽霧の森へ行けよ。あいつらお人好しだからきっと助けてくれるだろうよ』
とりあえず
まだこの身体にみなぎる感覚もなにもかもがわからないけれど
「あ、アキルゥ……」
「巻き込んでごめんミフレ。でもがんばって守るから、
俺と逃げてくれる?」
そして俺たちは人間を捨てた
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