今日は母様がいない。私はもう虎の神使じゃないんですけどってかなり怒りながらも、お前がいると便利なんだよって言った龍哉さんに連れていかれた


一晩だけ。あまりに重要な仕事らしく母様も父様も渋々龍哉さんの頼みを飲んだんだ



けれど、
そんな大人の事情を飲めない子だっている



「………虎卯にも探索を頼んでも良いですか?こんな夜更けに子供を外に出すのは不安だけど、相手は二人なので」

「うん、たぶん亜虎なら見つけられると思う」

「すみません情けない父親で──」

「そんなことは無いよ。僕は父様のこと本気で尊敬してるし」

「ありがとう、虎卯」


夜も遅いのにもぬけの殻の布団が二組
僕の妹達は今夜はいない母様を探して失踪していた─────



落ち着いて考えてから行動する僕と正反対で、突発的に何をしでかすかわからない兎季は探索面ではとても不利だ

なにせ、何を考えてるのかよくわからない


けれど亜虎の行動ならわかりやすいくらいわかる。



ほら……………




暗い暗い村の入口で
小さくうずくまる妹



「亜虎、ここで待ってても母様が来るのは明日の昼だよ」

「……かあさま、待ってるの…」

「暗いし父様も心配してるよ。今夜はお家に帰って、また明日母様を待とう?」

「かあさま待ってるのぉぉ」

ふるふると今にも泣き出しそうな亜虎に苦笑いが込み上げる
単純な兎季とは違い、亜虎はこういうときはとても頑固だ


「亜虎がお出迎えしてくれたら、母様は喜ぶと思うな」

「……かあさま、すぐに帰ってくるもん」

「うん。母様は凄く強いから、悪いやつなんて直ぐにやっつけちゃうね」

「………かあさまぁ」

「でも亜虎が夜にこんなところで待ってたら、母様心配しちゃって戦えないかもよ?亜虎が心配で心配で、母様怪我しちゃうかも」


ぴくり
小さな身体が震える
実際は母様に亜虎のこの状況を伝えるすべはないけど
母様が知ったら、母様は心配して戦いとかに集中出来ないだろう


「────亜虎は母様が怪我してもいいの「やだあっ!!」」


「やだやだやだ、かあさまが怪我しちゃうのやぁだぁ………お家に帰るぅ…」


ぽろぽろと泣きながら抱きついてくる亜虎を抱き上げて
本当に良い娘だなぁと感心した
産まれた時間は然程変わらないけど、亜虎も兎季も紛れもなく僕の可愛い可愛い妹だった








=====






茅葺き屋根の上に
月光を受けてきらきらと輝く、小さな子うさぎ


『──探しましたよ、兎季』


いつの間にか僕の身体の半分以上の大きさになった兎季の隣に立つと、兎季は小さな身体をもじもじと寄せてきた

『何をしていたんですか?』

『お月さまにね、お願いしてたの!!たつやとかあさまが早く帰ってきますよーに!!って。お月さまは兎と仲良しなんでしょ?』


本当に良い子だ
後先を考えないで回りに心配をかけてしまうけれど兎季も……もちろん亜虎も虎卯もいい子だ

三人は、僕と利虎の自慢の子供達だ


月を見上げて
前足を上げて、優しい月光を集める

虎が風の術を使えて
龍が水の術を使えて
鳥が炎の術を使えるように


力ある兎は、月の術を使うことが出来る


くりくりの目を見開いてわあああ、と声を漏らす兎季の頭から

きらきらと光輝く月光の粒子をかける



『きれいー!!』

『お月さまに僕からもお願いしたから、これできっと大丈夫ですよ』

『ありがとうとおさま!!』


どんっと突っ込んで来た兎季を受け止め損ねてふらりとよろめくも、なんとか堪えて小さな頭をぺろりと舐める



『さぁ、お部屋に戻るよ。明日はみんなで利虎を迎えに行こうね』

『うんっ』










────今日はみんなで仲良く寝ようか。ほら三人ともおいで?一緒に寝よう

────僕は良いよ

────だめぇ!!ほらこうちゃんもうさたん!!

────えと、私も虎になるの?

────うん。亜虎もおいで










「……………っ、」


叫びたくなった
老体に鞭をうち、一晩中飛び回り予定よりだいぶ早く家に帰ると


亜虎と虎卯を抱き締めて眠る來兎様
その首元には兎季がうまってて



大好きな大好きな來兎様
大切な大切な子供達


まさしく私の幸せがそこにあった



外套も脱がずに私も四人のすぐそばに転がる
…………無理をしてでも良かった。



そんなことを思いながら、私はゆっくりと眠りについた。



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