03.無理矢理の出発



 とうとう来てしまった。ゴンが、この島から旅立つ日は数分前にやってきたばかりだ。
 結局あれからミトさんとキチンと話し合ったのだろうかと名前は思った。
 二人の様子を見ているとまだだろうと感じていたからだ。
 ミトさんから逃げている部分もあった上、名前が口を出すことではないと思ってはいる。
 思ってはいたのだが……。

「やっぱ、ほっとけないっしょ」

 名前はミトさんの部屋のドアをノックした。
 堅めの木がコンと乾いた音を出した。

「ミトさん。俺、名前。開けてくんない?」





「ゴン。お前」
「だってナマエこうでもしないと一緒に来てくれないでしょ」

 名前は目が覚めると同時に不機嫌になっていた。
 なぜならば名前は今、でっかい風呂敷に包まれてゴンの背中に背負われている。
 ご丁寧に名前の荷物らしき物も一緒らしい。
 ゴツゴツしたもんやら布っぽい物が足下にある様に感じていた。
 ちなみにゴンの荷物は名前を背負っている所為で前に背負っている状態だ。
 よくやったであろう、子供の時ジャンケンで負けた奴がランドセル一人で持つというやつに似ている。

「…あのなぁ、ゴン」

 はぁっとため息をつき名前はゴンに話しかけた。
 こんな事されなくてもきちんとハンター会場まで一緒に行くと決めていたからだ。
 昨日のミトさんとの会話の最中ミトさんに頼まれたのである。
 名前のハンター試験応募カードにサインをしたのはミトさん本人だったのだ。
 言われてみると当然とも思えた。

 自分の応募カードも出せないゴンに俺の応募カードを出すなんて、よく考えたら無理な話。
 それに昨日の夜ミトさんから言われちまったらなぁ。

 ゴンを頼むって。

 ミトさん本当に意地っ張りだ。

 昨日の事を思い出したら少しほほえましくなって名前は口元に笑みが浮かんだ。

「あ、この人暴れると思うから注意してね」
「おいおい。坊主、こんな綺麗な嬢ちゃんをいいのかい? こんな扱いしちまって」
「うん。ナマエだから平気だよ」

 って、人が物思いにふけっている間に何勝手に話し進めてやがる!

「うあああああああ。出せー! こっから出せー!」

 逃げない! 逃げねぇからこのだっさい格好を何とかしてくれ。
 注目度大だ。恥ずかしすぎる!

「あいよ。とりあえず坊主の部屋に持って行くな」

 おい! そこの漁師っぽい親父。既に俺は荷物扱いか?!
 名前はゴンの背中からゴツイおっさんの肩へと移動させられる。
 名前が居なくなり、背中が空いたのでゴンは先程まで前に背負っていた鞄を背中へと移した。

「はは。ナマエちゃん相変わらずだね」
「元気な子二人がいっぺんに居なくなるのは寂しいねぇ」
「直ぐ戻ってくるよ」

 おっちゃんやらおばちゃん。よくミトさんの店をごひいきにしてくれていた近所の漁師の若いもんもゴンを囲む様にしている。

「うぉおおおお。ナマエちゃーん!!!!! 愛してるー!」なんて聞こえたのは気のせいだろうか。
 うああああ。逃げねぇ。
 本当に逃げないんだ。だからこの風呂敷を解いてくれ!

「うおおおお」
「うわっ、暴れるなって。嬢ちゃん!」
「俺は……嬢ちゃんじゃねぇえええええええ!!!!!」

 体を思いっきり揺さぶる。
 元々持ちにくい素材この上ない俺を包んだ風呂敷は漁師の親父から離れる。

 お! 成功した!

 と思ったのもつかの間。
 支えを失った名前は重力に逆らえずドスンと下へ落ちる。
 名前は景色がスローモーションで見えた気がした。
 逆さに移った俺の視界に移ったのは泣き顔のミトさんとゴン。

 そして、名前は意識を失った。



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