04. 農作業とは大変なものなのだ



「ああ〜俺の女神〜様〜」

 女神様こと、俺の愛しのバイクを拭きながら、作詞、作曲をした歌を口ずさむ。
 日課である女神様を磨くことを終えると、お世話になっているおばさんの元へ向かう。始めは俺が何か手伝ったりすると慌てていたおばさんや、村のおっさん達であるが、俺もいい加減、タダ飯を貰うわけにはいかない。働かざる者食うべからずという信条に乗っ取って、俺も畑仕事を手伝うことにした。
 たまに、槍や弓などをもって村の外へ狩りに向かう厳ついおっさん達もいるが、猪とかを捕まえてくるので俺は同行することはない。そんなところに素人が行っても何もできないことは分かるし、初日にみた足パックリいった姿を見ていれば必然的に狩りイコール怖いになるのである。
 村はのどかで、将来こうした村に住むのもありだなあと考えてしまう。
 鍬を持ち、畑を耕すのは大変だけれども、自分が育てるのを手伝った野菜だと思うと余計に食事は美味く感じられるし、現代社会の様な(いや、確かに現代社会ではあるのだが、どうにも時代錯誤を感じてしまうので過去の世界にいるのではないかとも感じるのだ)隔離されたコミュニティーとは違い村社会は必ずと言っていいほど横との繋がりがある。
 言葉が通じないという部分を除けば、俺はこの生活に満足してしまったことだろう。いや、すでに言葉が通じずとも満足しているあたりで環境への適応能力の高さに自身で驚く。
 俺こういうやつだっけ? みたいな。
 インターネットなし、テレビもない、漫画だってもちろんない。娯楽といったら女神様を磨くことと、近所のがきんちょの相手をするくらい。畑作業も楽しいが娯楽に部類するものではない。
 百八十度異なる生活をいざやってみると、案外慣れるものだったりする。我が家に帰った途端、また元の生活に戻るのだろうけれども、体を動かして生活するということがどういうことが分かっただけでも有り難い経験だ。
 アルバイトも肉体労働ではあったが、死んだように眠るなんてことはない。
 俺が何気なく食べていたものたちが、こうして出来ているのを知っただけで生きていることについて考えることとなる。
 いやはや、人間ってすごいね! でももっと効率的な作業でもいいんじゃないかな。
 この村はどこか不思議で機械の類がない。耕すのも手作業、種を撒くのも手作業。もちろん収穫も全て手作業で行われるのだ。
 耕耘機なりトラクターなりあればいいのに。一応普通自動車免許を持っているのでトラクターも運転出来るのだから、そうした手伝いだって出来るのに肝心のトラクターがないのだ。
 無農薬栽培法に拘った、完全手作り農業。美味いのは認めるが、少子高齢化で年金問題があげられている中で生産性はかなり低い為、彼らの収入の心配をしてしまう。
 無農薬栽培でつくられた野菜は確かに高く売買されるが、そもそも栽培量があまりに少なすぎる。
 詳しくは知らないが、本当にこれで生活できるものなのだろうか。それとも俺が毒されすぎなのだろうか。そもそも電気製品もないこの村で掛かる費用は……

「そうだ、そうだよ。電化製品もねえんだ」

 当たり前に生活してるから違和感なくなったけど、そういえば電化製品が全くない。ライトですらないのは少々常軌を逸している。
 夜の明かりは灯火だけだし、そもそもその灯火すら俺のお世話になっている家でしかみかけない。夜になると本当にこの村は闇へと包まれるのだ。

「不思議な村だなあ」

 言葉が通じないことを良いことに声に出して呟く。まあ一時的に厄介になっているだけだし深く考えることはやめた。
 巨大ミミズと戦いながら、今日も俺は畑仕事に勤しむのだ。
 それでも、そろそろ家に帰りたいなあと思うのは女神様の事があるからである。
 工房の奴らにどやされるなあ。「海水に浸けた?! てめえなめてんのか。バイクと海水の相性最悪だって言ってんだろうが」なんて声が脳内に響く。
 俺だって不可抗力だわい。こんな辺鄙な村に来てしまって、右も左もわかんねーし。
 一人心で会話して、あ、俺寂しい奴みてー。と思ったところでやめた。
 地図すらないこの村で、どう家に帰るか。言葉さえ通じれば道も分かるのだろうが、相変わらずサッパリ通じない。何となく意思の疎通はできていたようで、おっさんもおばちゃんも首ふってたんだが、果たしてきちんと通じているのか。自宅の地名言っても通じないってどういうことよ。と笑うしかない。
 土下座されながら、恭しくされたので、俺もその時は有り難うの意味を込めて地に正座したらその段階で村人達が正座することすら止めろって立ち上がらされてしまって、それ以来土下座をされることも無くなったんだが、ほっとした。
 そういう文化なのかと思って習っただけなんだけど、やっぱりよそ者だからか、俺はしなくていいみたいだ。俺がやるからか、村人達もやらなくなったけど、なんか疎外感感じてしまうなあ。





(そう言えば土地名って訛りは関係あったっけ?)
2009.11.07



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