04 - ただの嫉妬



「全く嫌な子供でしたよ」

 茶をすすりながら、私は会話を始めた。
 何を言おう、利吉のことであった。山田先生と会話する機会があったので昔の思い出話をしていたら、利吉の話になったのである。

「ちょこまか私の後を着いてきては、私のやろうとすることに手を出してくるのです」

 そういうと、山田先生は苦笑いをした。そういえばと思い返してみれば、当時から滅多に家に帰る人ではなかった。
 近所に住んでいたこともあってか、私は幼少時、利吉の遊び相手をしていたのである。
 忍術学園へ通いだした頃から必然的に利吉と会うことはなくなっていたが、長期休暇の際は毎日の様に遊びにでかけていた。
 私の母上と、利吉の母上が仲良くしていたこともあってか年が離れていようとも互いの家へ遊びへと向かうことが多かったからだ。
 休暇中の課題や、個人の鍛錬で利吉との約束の時間を過ぎることもあった。
 その時からだ。利吉のことが苦手になったのは。

「見て下さい!」

 あれは確か、火薬の配合をしている時だった。利吉がいつの間にか家に入り、私の忍具を弄っていたのだ。
 幼い子供には危ないと、取り上げる前に利吉が手裏剣を壁に貼っていた的に投げた。
 見事に的にあたった手裏剣をみて、ただの偶然かとその時は思う位で、利吉を叱るだけで留まったが、後日利吉の行動に目を見張ることとなるのである。
 火器の扱いの練習をしようと山へ入っていったのだが、何度追い返そうとも利吉がついてくるのだ。仕方ないと、火器を扱う際は離れている様に告げ着いてくることを許したのだが、どうにも興味津々な目で見つめてくる。
 どれ、簡単な作業くらいはやらせてみるかと利吉に道具を渡したら

「既に完璧にこなしているんです。やり方を教える前に、そりゃもう完璧に仕込みをしておりました。私の成績はいい方ではありませんが、10にも満たない子供に劣るのかと、その日は劣等感に冴えなまれて眠れませんでした」

 茶をすすりながら、視線を移す山田先生。視線の先は利吉がいる。
 私は利吉を目の前にわざと利吉との過去を話していたのである。

「山田先生には伝わっていたか分かりませんが、その次の休みの時です」

 利吉が私の後を着いてくるのは当たり前なことであったが、どうにも煩わしさを感じる様になった。年の離れた子の方が自分より火器の扱いが優れている等とそういった点が私のプライドを傷つけたのである。
 一応その時、利吉は既に忍者の卵として学校へと通い出したので、休みが被った時のみであったが、そのわずかな期間であるにも関わらず私の後を着いてくる。何度逃げようとも、いつの間にか後ろにいるのだ。
 あまりにも離れようとしないので、着いてくるなと利吉に条件を出した。条件をだしてしまえば、それが出来なければ利吉は律儀な子ではあったのでもう構われることはないだろうと考えていたからである。
 それが火縄銃で的を連続で当てることで、絶対にこの年の子では無理な事だからと条件をだしたのであった。
 だが、しかし

「あろうことか、次の日には、次の日には、ですよ。あやつはその条件をやってのけたのです。屈託のない笑顔で、的を見せてきましたよ。これで苗字先輩が卒業されるまでの休みの時は一緒にいれますねと。ぞっとしましたよ。末恐ろしさも相まってか、無邪気というのはこれほど怖いものかと」

 つい私は、当時のことを思い出し、茶を机の上にたたきつけるように置いてしまう。

「もう止めて下さい……」

 過去の自分の行ったことに耐えきれず、私に懇願する利吉。
 だが、奴のことを構うほど私は穏やかではないのである。色々と芋の蔓を引っ張るかのように、過去にあった利吉との事が思い出されていく。ついでだとばかりに、他の話も山田先生へ伝えようかと考え出した時である。

「苗字先生、当時からすみません」
「いえ、謝らないで下さい、山田先生」
「大体こやつが生意気だったのです、年上を立てると言うことを知らない」

 隣に座っていた利吉の背中を叩くと、利吉が先ほどより申し訳なさそうにしていた。

「苗字先輩、当時は子供だったのですよ」

 つい言ってしまいたくなったのだろう。確かに利吉は私よりも年が離れていたが、私の子供時代はもっとしっかりしていたような気がする。

「また、先輩などという。一度たりとも私は先輩になったことなどなかったではないか」

 私は忍術学園へ入学したが、利吉はこの学園で学ぶことはしていなかった。ただ忍者の卵として先に学園へ入った私を勝手に先輩と呼んでいたのである。

「それに、今は利吉は超売れっ子フリー忍者ではないか。立場が何に置いても対等なところにいるのだよ。名で呼びなさい」
「なんというか、ずっと慣れというものがありまして」

 なかなか抜けませんと続ける利吉である。既に名で呼ぶようにと言い続け2年が立つが未だに利吉の癖は抜けない。
 参ったなとため息をつけば、やはり山田先生が苦笑をしていた。
 そして湯飲みを持ち、立ち上がる山田先生に、ありがとうございますと私は告げる。

「さて、苗字先生、そろそろ私は授業なので。息子の相手お願いしますよ」
「ええ、楽しい時間を過ごさせて頂きました」

 頭を下げ、また山田先生と話がしたいと申し出ると優しい笑みで返される。この方は相変わらずだと嬉しく思い、自然と顔が綻ぶ。
 何より、利吉と似ていないところが私は山田先生の一番好きなところだ。
 今も昔も山田線背に、憧れの視線を向けてしまう。私の恩師であり、理想であり、そして一番の人である。
 忍術の腕や、人間としての大きさ、忍びたる忍びなのだ。

「利吉、本当におまえは恵まれてるな」
「はあ…、せん、名前さんは父の事を好いておりますからね」

 ああ、と納得したようにいう利吉。私の心情が見透かされているのは利吉と長くいたためだからだろうか。
 だが、確かにそうなのだ。利吉の事が憎いと思う理由の大半が山田先生の息子だからという理由だったりするのである。
 ああ、私も山田先生の様な立派な父親が欲しかった。父は父として存在していたが、やはり、山田先生の様な父に憧れるものなのだ。


(この後輩の噂を聞く度に思わずにはいられない、ああ先生の息子さんだと)

 だからこそ憎いと思ってしまうのだ



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