Per tutti una tragedia



 水戸洋平は春子と名前の会話を偶然聞いてしまった。
 桜木花道と親友とも呼べる関係にある洋平は名前のことももちろん知っていた。
 双子の兄である名前と花道は同じクラスになることはなかった。暗黙のルールといったものがあるらしく、双子はクラスを別々にされるらしい。
 小学生の時から一度も同じクラスになったことはない、という話を一度聞いたことがある。
 確かに、その通りなのかもしれない。同じ顔が二つあれば紛らわしいだろうし、双子であるからゆえのただの兄弟ではない依存というものが大きくなってしまうからだともどこかで聞いたことがある。
 洋平は花道とは同じクラスになったことはあるが、名前とは同じクラスになったことがなかった。名前と会話する様になったのはここ最近だ。
 花道から自宅で遊びに誘われれば会って会話をすることもあっただろうが、昔の花道は少々ささくれた時代を過ごしていたのだ。
 自宅へ帰るが余り家に寄り付きたくはないようで、洋平の家で何日か過ごすことも多々あった。
 今でこそ花道は兄である名前のデレデレっぷりを甘受しているが、中学時代、名前への反発心はすごいものだった。
 その理由を知っている洋平は春子にした名前の話に口の端が上がってしまわずにはいられなかった。
 花道がグレる前、名前はそれはもう壮大にグレていた。花道以上に手に負えない凶暴さだったのだ。
 にへらと笑って近所の中学、高校、絡んでくる奴らをノシていた。
 ある日、花道と花道軍団で帰途に就いていた時だった。この辺りではある意味有名な高校の制服を着た男たちが立ちふさがったのだ。

「手前……桜木だな」
「あぁ?」

 花道が応えるや否や、男たちが襲いかかってくる。何をやらかしたんだよ花道。と洋平たち桜木軍団も喧嘩の加勢をした。
 そこからだった。その日を境に、和光中の桜木花道、水戸洋平、他として名前を知られるようになったのは。
 そのきっかけとも呼べる喧嘩の理由に身に覚えのない花道だったが、売られた喧嘩は買ってしまうのも花道なのだ。あと、大楠達が呷るのがいけなかった。
 日に日に増えていく、ゴロツキ共に疲弊していた時だ。
 きっかけになった喧嘩相手が人数を倍以上集めてやってきたのだ。

「この前はよくもやってくれたなぁ。桜木名前よ」

 その言葉を聞いた花道がぶちぎれた。それは普段以上に暴れていた。人数を倍に増やしても、絡んできた奴らには関係なかった。全てが終わった後ですら手に負えない花道を抑えることの方が大変だった位である。
 余り記憶力がいいとは言えない花道であったが、面倒な日々に身を置く羽目になった原因が自分の兄であると知り、その日から髪の毛を赤くしてしまった。
 髪の毛を赤くしてしまった為にターゲットにもなりやすい。花道と名前を勘違いする奴らは少なくなったが、今までの喧嘩のツケや、髪の毛絡みで絡んでくる奴らのお陰で和光中の桜木と言えば花道を指す位に有名になってしまった。

「名前にこれで間違われない!」と自信満々に言う花道であったが、間違われようとれまいと、こと喧嘩においては既に名前とは関係ないところに位置している。




「あーあ…花道かわいそうに」

 名前のうれしそうに話す姿を見て洋平は呟いた。
 絡んで来た男の勘違いと花道の勘違い、そして名前の勘違いが絡み合い、今の桜木兄弟があるというわけである。
 この話題に関してはずっと自分の胸に留めておこうと思った洋平であった。




ある悲劇の全てについて



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