笑って、




※Attention
死ネタです。
















今だに怒声が聞こえるが、携帯の電源ボタンを押すことで強制終了した。



池袋の町は夜にも関わらず賑やかだ。人が溢れ、その一人一人が奏でている小さな音が空気中で一緒になり、屋上にいる俺の耳まで届いてくる。俺はその音の中には参加できない。実に残念だ。こうして捨てられたビルの屋上で一人静かに人間を奏でている。心臓の音や呼吸の音、風に靡くジャケットの音、自分の口角が上がる音。
これらの音を止める方法をずっと考えていた。自分の中で鳴り響く音が煩くて夜も眠れない。こうして高い所で耳を澄ませても、大好きな人間達の奏でる音がちっとも聞こえないのである。
今しがた、この一人だけのコンサート会場に客を招いた所だ。電話の相手が俺だと分かった途端に怒鳴り始めたので、このビルに来るようにとだけ言って通話を切った。ついでに電源も。


下の方で鎖が契られた音がした。
見ればドアの中に消えていく金髪。どうやらドアノブに巻かれていた鎖を引き契ったらしい。これだからシズちゃんには困ったものだ。
口から少し笑いを漏らしながら、屋上の淵に乗る。風が強い。少し伸びてきた髪が鬱陶しい。


下を見れば真っ暗闇。その間も俺の中の音は鳴りつづける。それどころか激しさを増していった。


ドクドクドクドク――…………


煩いな…何も聞こえない。



バタンと、別の音が聞こえた。振り向けば息切れをしたバーテンダーが立っていた。


「やあ、シズちゃん。良い夜だね。」
「ああそうだな、どっかのノミ蟲のせいで10分前に最悪な夜になったがな。」
「それって俺が電話した時?だったら正確には11分23秒前だよ。」
「うぜぇんだよ。どうでも良いんだよ。んなことは…だから俺は今から自分の手でノミ蟲をぶっ殺して最高の夜を作り出すことにしたんだ。ぶっ殺す。」


笑い、ドアに手をかける男に溜息をつく。


「シズちゃん、なんだか煩くない?」
「ああ、てめぇがうざい。」
「うん。俺も自分が煩くて煩くて仕方ないんだ。俺の中の音が煩くて、夜も眠れない。最近じゃ、君の怒鳴り声も聞きづらくて反応が遅れる。お茶を飲むか聞いてくれる秘書の声も聞こえない。後ろから走って来る妹達の足音も、帝人君の明るい挨拶も、紀田君のあからさまな厭味も、杏里ちゃんの怒りも、なにも聞こえない。」
「……どういう意味だ?」
「俺の中の、心臓の音が煩く感じてならない。俺はね、シズちゃん。この音を止めたいんだ。だから君を呼んだ。君の手を患わせる気はないけどね。」
「安心しろ。今すぐ止めてやる。」


俺の言う煩い音が分かった途端、消えていた笑みを取り戻し、片手でドアを外した。


「だからシズちゃんの手を患わせる気はないって。俺は自分で止める。」
「あ?何言ってんだ?だったらなんで俺を呼んだクソ蟲。」


――それにてめぇの言う止めるって


「俺は人間を愛してる。でも、悲しんだり、絶望してる顔はもう見飽きた。だから俺はね、最後は人間の嬉しそうな笑顔を見たいって思ったんだよ。俺が最後を迎える時、一番嬉しそうな顔をするのはシズちゃんだ。だから今だけは君を人間と認めてあげるよ。」


――――まさか



今まで認められなかった存在を、こんなに簡単に認める日が来るなんて…君を人間と認めたんだ。最後くらい……
空を見上げて笑った。後ろの人間の手から外されたドアが落ちる音が聞こえて笑ったまま振り返る。人間は俺に向かって何かを叫んだ。自分の笑い声のせいで、大好きな人間の声が聞こえない。


「……笑って、愛してるから。」




後ろに倒れるように、俺の体は下に広がる闇に溶けていった。








○月×日
俺の心音が止みました
煩かった音は止んだのに
今度は何も聞こえません
最後に愛すことのできた人間は
笑ってはいなくて
泣きそうな顔で
俺に手を伸ばしていました



ずっと告げたかった愛してるを
君に言えたのが嬉しい
でもそんな顔が見たかった訳じゃない
手を伸ばして欲しかった訳じゃない
ただ、俺はいつも君を怒らせてばかりだったから
最後は君の笑顔を見たかったんだ






「笑えるか…馬鹿野郎。」








END
****************
臨也が死んでしまったのに一番驚きを隠せないのは静雄…ではなくなこです(書いた張本人)


*補足
臨也はずっと静雄を認めたかったのに認められなかった。人間と認めてしまえば愛してるって簡単に言えるのにと思ってた。でも実は静雄に対しての「愛してる」は別物だった。実は好きだった。実は両想いだった←衝撃の事実(笑)


収まり切らなかった…伝わんなかったですよね残念無念←


久々の更新がこんなんですみません…○月×日っていつだよ←






11/02/19−なこ


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