コロラトゥーラのはじまりで

沖田×百音(3Z設定)
マイナー上等






閉ざされて切り取られた空間。防音されたこの部屋は私の大好きな場所だった。学校の音楽室。
吹奏楽部に所属しているため、放課後はたいていこの大好きな場所にいられる。だが今日は吹奏楽部は休み。毎週金曜日はどの部活も休みにするよう校則で決められているため、必然的に吹奏楽部も休みになってしまう。
学校がいつもに比べ少し早く終わり、次の日が休みなこの日は宿題を後回しにして暗くなるまで友達と遊びに行く者が多い。実際、私の姉である阿音(いや、別に掛けてはいない)も今日は友達とカラオケに行くと言っていた。私も誘われたが行く気になれなかった。今日は音楽室にいたい。同じ防音された空間でもカラオケと音楽室では訳が違う。


溜息をつくと息がくわえている木製の管を通ってピーと高いソプラノを響かせた。その音は空気に乗って部屋中に届くが外に漏れることは決してない。ソプラノリコーダは私のお気に入りだった。吹奏楽ではあまり使われることがないため部活の時は別の楽器を担当しているが、口下手な私はたいていこの楽器をくわえていることが多い。
口下手は私の悩みの種だった。一週間前に始業式を向かえ2年から3年へ進級し新しいクラスになったのだが、今だ姉以外と口を利けていない。中学の時から半分引きこもりだった私は他人と関わるのに苦手意識を持っている。
そんな私にとって音楽室は唯一の居場所であり逃げ場でもあるのだ。


オレンジに染まった空を窓越しに見ながらまたピーとリコーダを鳴らした。

ガラリ

突然、音楽室の後ろでリコーダ以外の音がした。遮断されていた部屋が外と繋がった音だ。開かれたドアから見覚えのある栗色の毛が見えた。

「はあ…めんどくせぇ…」

同じクラスの沖田総悟。いつも神楽さんや土方さんと喧嘩しているか寝ているイメージしかない。

あまりに突然彼が現れ思考が追いつかない私はただ彼を見つめたまま突っ立っていた。


「あー…」

私を視界に入れた彼は何か言いにくそうに頭を掻いた。


「あんた俺のファンか何かですかィ?まさか自分のリコーダ舐められてるところに遭遇しちまうなんてどう反応すりゃあいいかわからn」「違います。」


これが私の新学期初の同級生との会話である(姉を除き)。ただ彼の発言には口下手な私でも口を挟まない訳にはいかなかった。今時誰がそんな中二じみたことしますか。


「じゃあそれ自分のリコーダ?ほとんどの生徒がゲーセン行ったりカラオケ行ったりしてるこの金曜日に一人音楽室でリコーダ吹いてるとか世の中には変わった人がいるもんだ。」


ぺらぺらと勝手に喋っていくこの人。返事をする暇もなく、変わった人という答えを出されてしまった。


「貴方も、何で音楽室に?」
「俺?今日の音楽の時間にリコーダ忘れちまってね、取りに来たんでさァ。月曜日リコーダのテストやるとかほざいてたでしょ?あのハゲ。恥かくの嫌なんで家で練習しようと思いましてね。あのハゲぜってぇ殺す。」

因みにハゲとは、音楽の教師のこと、だと思う。彼は私の質問に何倍もの言葉で返しながらゴソゴソと一つの机の中を漁り、私が持ってるのと同じリコーダを取り出した。

「あ、もしかしてアンタもリコーダの練習ですかィ?」
「…違います。」

違うと言ってから、面倒臭いからそういうことにしておけば良かったと少し後悔した。

「じゃあ何で?」
「音楽室が好きなんです。」

また後悔する。絶対変な子に思われた。

「へー、アンタ面白いですね。」
「……」

一体この人は、私の何処に面白さを見つけたのだろうか。

「アンタの姉ちゃん、キャラ濃いからねェ、いっつもアンタの存在薄くなってますから。喋ると意外と電波ちゃん?」
「意味が分かりませんわ。」

褒められたのか馬鹿にされたのか全くわからない。

「あ、言っとくけど貶した訳じゃないですぜィ?褒め言葉でさァ。」


私の渋い顔を見て言うと、彼はリコーダを鞄に突っ込んだ。

「アンタ名前は?」
「……百音」
「何だ…姉が阿音って名前だから期待したんですけどねェ…」

すみませんね、普通で。
心の中で厭味を言っていると、彼は音楽室のドアを開いた。背中を見つめていたら振り返った彼と目が合った。

「もう暗いですし送って行きましょうか?」

彼の言葉に窓の外を見ると、さっきまでオレンジだった空は藍色に染まっていた。

「俺チャリですし、後ろ乗せますぜィ。」

そう言って彼は私の鞄を掴み音楽室を出ていった。どうやら私が彼に送られると言うのは決定らしい。
彼は私と全く違うけど、彼だって私と同じ変な人だ。私の中の沖田総悟のイメージに新しく書き加えられる。
そんな事を考えていると「置いていきますよー」と気怠げな声が開けられたままのドアから聞こえた。

他人と話すのは苦手。関わるのは面倒臭い。でも、彼の話しを聞いているのは嫌いじゃないかもしれない。


曖昧な想いを胸に、遮断された部屋から踏み出した。












End
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予想以上に長くなった…
マイナーCP…この二人好きです。
捏造多くてすんません←


タイトルはHENCE様からお借りしました。

1/5−なこ


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