遠回りして帰ろうか
肌寒い防波堤の上を歩く。海の風が頬に突き刺さるようでひりひりした。

「落ちないでね。」

苦笑混じりの声がする方に視線をやると、いつもより低い位置に彼の顔があった。大して身長に差はないけど、今は僕が彼を見下す形になってる。いい眺め。
今日は少し遠いスーパーでお買い物。先生の気にしていた新商品の発売日だったからわざわざ買い出しに来た。先生は仕事で来れなかったから仕方なく彼、基圭君と二人だ。仕方なく。
本当は先生の方が心配だったけど、いつものヤギ絡みじゃ無いから俺一人で大丈夫だと、朝から一人で仕事に行ってしまった。

バスに乗っていつもより遠いスーパーで、お目当ての商品をゲットして会計をしてる時に目に入ったのは、何十年と前から同じデザインであろう懐かしのドロップ。幼稚園の時に缶が物珍しくて買ってもらった記憶がある。中の飴なんか食べ切れないくせに、振るとカラカラ鳴るのが楽しくてとても魅力的に感じた。
なんだか久しぶりにその甘味を味わいたくて、気づいたらレジに置いていた。
せっかくだし、ゆっくり歩いて帰ろうかという話しになった為、帰りは歩きだ。海沿いを歩いてここまで来るのに大分歩いた気がする。その証拠に、缶の中のドロップは少なくなってきていた。
口の中に少し残っていた苺味に飽きてきたのでガリリとかみ砕く。次の飴を出す為に少し固めの蓋を開けた。
昔は食べ切れなかったのに、気づいたら一人で半分以上食べていた。やだな、太ったらどうしよう。だからって圭君にあげる気なんかないけどね。
だってこんなに飴の減りが早いのは二人の間に会話が無いからだ。圭君が先生みたいに面白い人だったら良かったのにな。全く、気が利かないんだから。ただ前を向いて歩く。こんなのロボットにだってできる簡単なこと。でも僕はその簡単なことを圭君の隣でやるのが何故か落ち着かなくて防波堤に上がった。
これを最後にしよう。残りは事務所に着いてから。苺味の次はメロンの気分。カラリと缶を振れば出てきた半透明は白。ハズレ…薄荷か。この味は昔から好きになれない。でも今はまずいからって食べられないわけじゃない。僕も少しは大人になったかな。心の中で胸を張りながら口にほうり込む。うん、やっぱり美味しくない。

「寒くない?」

「へーき。」

「風強いね。」

「圭君、飛んでっちゃうかもね。」

「飛ばないよ!」


飛んでっちゃえばいいのに。と軽く毒づけばぎゃーぎゃーと騒ぐので煩いよと冷たく言った。ガーンと後ろに効果音が付きそうな顔をした圭君は僕から見ればドロップのように魅力的だ。

「俺は優太君の方が飛んでいっちゃいそうだと思うんだけど…」

確かに僕の方が小柄だしか弱いしね。飛んでいったら海に落ちちゃったりして。流石にこの時期の海は僕にもきついかな。

「僕が海に落ちちゃったら圭君助けてくれる?」

「俺が助けなくても優太君なら大丈夫だと思うけどなーって痛い痛い!ごめん!蹴らないで!」

圭君を海に突き落としたくなっちゃった。あーあ、最後と思ってた飴も大分小さくなっちゃったし。薄荷の味が口の中に広がって、嫌になってきた。


「じゃあ、良いこと考えた。」

「なに?」

圭君が僕の手を掴んだ。
その手の温かさにドキリと心臓が揺れた。

「これなら俺も飛んでいかないし、優太君も落ちないでしょ。」


あー…成るほども、馬鹿じゃないのも、言える言葉はいくつも思い浮かぶのに言葉にならない。それに今の僕は圭君の手を握り返すことも、ましてや振り払うこともできなくて、ただ手を掴まれていることしかできない。

それがなんだか嫌じゃない。


だから僕から一つの提案。







遠回りして帰ろうか
(少しだけ、口の中が甘くなった気がした)




END




8000hitが大分遅くなってしまいました。本当に申し訳ございません。
せっかくアンケートに協力して下さった皆様に顔向けできません。明日から山奥に篭ろうかと思いまs(ry

どうやら蒼空は飴ネタが好きなようです←
こんな圭優で良かったのでしょうか…皆様の望む圭優になっているかとても心配です…(ガクブル)


タイトルはhmr様からお借りしました。




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