たかがお前の命ごとき
「ぱん!」

その部屋の主はつい先程部屋に招いたと言うよりは拉致した男を皮張りのソファーに座らせ、自分はその男の膝の上に向かい合うように座っている。
そして、何食わぬ顔でテーブルの上に置いていた"ソレ"を手に取り、相手の眉間へ突き付けた。

「何の真似だ?イザヤ君よォ……何で拳銃なんか持ってんだ。」

「そんなことどうだって良いじゃない。ただちょっと知り合いの家に仕事の関係で寄った時に目に入ったから拝借してきただけだよ。」

大丈夫だよ、使い終わったらまたちゃんと返すから。そう付け足した目の前の男に、今だ眉間に拳銃を突き付けられたままの男は、いきなり銃口を向けられているこちらにとっては全くどうだって良いわけないこと、拳銃を持っている知り合いのこと、使い終わったら返すなど相手に濡れ衣着せる気満々なこと、大丈夫な要素が一つも無いことなど、つっこみたいことは山ほどあった。
しかし、一言返せば何十倍もの言葉を返してくるであろうこの男。それを考えると面倒臭い事この上ないので黙ったままでいた。

「ねぇ、シズちゃん。ロシアンルーレットって知ってる?」

"ロシアンルーレット"
リボルバー式拳銃に一発だけ銃弾を装填し、適当にシリンダーを回してから自分の頭に向けて引き金を引く単純なゲーム。


「それがどうした…」

「シズちゃん、やってみて。」

池袋から拉致された時から浮かべる胡散臭い笑みを崩すことなく淡々と言われた。

「ただし、ルールは俺のオリジナル。シリンダーを回すのは俺、本当のルールには不発だと思ったら天井に向けて撃つっていうルールもあるんだけど…それじゃあ面白くないから無し。引き金を引くのは当然俺だよ。因みにこの拳銃には6発入るんだけど、当たらない確率の方が高いなんてつまらないから銃弾は5発積めといたよ。」

なんて自分勝手なルールだろうか。どう考えても自分に有利な条件をぺらぺらと並べていくその男に対し、それを黙って聞いていた男はいつもならとっくにキレていてもおかしくないのだが、言い返す事も暴れる事も、ましてや相手を数メートル先まで殴り飛ばす事もせず、ゆっくりと口を開いた。

「やってやろうじゃねーか……」

口の端を吊り上げ不敵に笑ったその男を見て、拳銃を突き付けた男もまた、口の端を吊り上げて、先程までの貼付けたような笑顔とは違う、まるで新しい玩具を手にした子供のような笑みを浮かべた。


「その代わり、俺がもし生きてたら同じルールでお前にもやってもらう」

ピタリと一瞬、拳銃を持つ男の呼吸が止まり、驚いた顔をした。しかしそれも一瞬。すぐに笑顔を取り戻せば「目をつぶって」と相手に指示を出し、相手が瞼を下ろしたのを見て、カチカチとシリンダーを回していく。

適当に数回回し終え、目をつぶっている相手の顔を脳裏に焼き付けるように数秒見つめれば、また拳銃を相手の眉間に突き付けた。

「バイバイ、シズちゃん」

そう呟けば、銃口を相手の眉間に押し付け戸惑う事なく引き金を引いた。






カチン−−−


部屋には気の抜けた無機質な音が響いた。
「え………」

まさかの不発……銃弾を眉間に受ければ、流石のこの化け物も死んでくれるだろうと思っていた。しかし、この男はどこまでも自分の予想の遥か上を行っていたのだ。
目の前の男が自分の知らない間に銃に細工したわけでもない、ましてや自分自身がわざわざ不発を謀ったわけでもなく、これは完全に目の前の男の"運"が齎した結果だった。
全くこの男は……どこまで俺の期待を裏切ってくれるのか。その人間離れした力が気に食わないのは勿論、自分の思い通りに事を運ばせてくれないというのも、池袋であらゆる事件を起こしてきた黒幕的な存在の情報屋がこの化け物を好きになれない理由の一つであった。


改めて、目の前の男の恐ろしさを思い知った時、いつの間にか目を開いていた男に銃が奪われ、銃口が自分の眉間にあてがわれているのに気づいた。

「俺の勝ちだな……」


そう呟いた男は、ニンマリと笑顔を作り引き金を引いた。















賭けたところで何が面白いのか







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久々&DRRR!!初アップ!!!!
そんな訳で無駄にフリー!!!(いらね

とてもとても楽しかったです。いっぱい書いていきたい……

タイトルは濁声様からお借りしました。

4/15−蒼空


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