ある、サッカー日和に

青い空、白い雲、生徒達の声ーー

追いかけるのはサッカーボール。





校医であるローはぼんやりと校庭でサッカーに勤しむ女子生徒達を何気無く目で追っていた。

「ロー先生!ガーゼ補給しておきました!」

実習生のシャチが口許に笑顔を乗せて保健室へと入ってくる。

「……そうか」

ローは校庭から目を離さずにぼんやりとしていた。

「今日は3年女子はサッカーですか!ワールドカップもやってるし!俺も混ざろうかな?」

シャチはローに並ぶように窓際に立つ。

「静かになるから賛成だ」

「酷っ!!」

「だが、犯罪で捕まるなよ。面倒だ」

「…………ロー先生ェ〜!!!」

ローの辛辣な言葉にシャチは泣きそうに口を開いた。

「あ」

「?あ!!」

ローの呟きに何だろうと校庭を見ると女子生徒が一人倒れていた。

「あらら、痛そうですねェ」

シャチはあーあ。と声を出した。

「……だな」

ローはその場を動かずにその様子を眺めていた。







○○は運動神経はまぁ、良い方だった。バリバリの運動部にはもちろん負けるが、それでも体育の授業では目立つ方だった。

「パース!!!」

仲間からパスを受け取るとドリブルをしながらゴールへと向かう。
バレー部の英子が視界に現れたのでとっさに向きを変える。

「きゃっ!」

「え?!あっ!!」

向きを変えた先に可愛くてどんくさい美伊子がいた。
○○は美伊子に怪我をさせないために必死に体を避ける。

「っ!!!」

だが、運悪く足の近くにキープしていたサッカーボールの上に足を乗せてしまい、そのまま流れる様に○○のバランスは崩れぶざまに倒れた。

「っ!いったー!!」

ずざぁっと酷い音がして、○○の声が重なる。

「○○ちゃん!ごめんなさい!!大丈夫?!」

美伊子が可愛らしい声で心配そうに○○を見る。

「うん!大丈夫!」

○○は痛みを我慢して笑顔を向けた。

「大丈夫か?おい!血が出てるぞ!誰か!保健室へ連れてってやれ!!」

審判をしていた体育教師が声を出した。

「なら!私が!」

保健委員の美伊子が素早く手を挙げた。

「そうか。なら任せたぞ!」

「はい!立てる?」

「うん」

美伊子は○○を支えようと必死に歩いた。






「トラファルガー先生!」

美伊子が保健室のドアを開けながら声をかけた。

「あァ、見てた」

ローは言いながら美伊子に椅子に座らせるように指示を出す。

「本当にごめんなさい。私のせいで……」

美伊子は心配そうに○○を見る。

「大丈夫!大丈夫!!」

○○はにこりと笑った。来る前に水道で足を軽く洗ったが、とても痛かった。

「お前は帰れ」

「でも……」

「いても邪魔だ」

「……失礼します」

ローの冷たい言葉に美伊子は静かに保健室を後にした。

(ふむふむ。美伊子ったら、このイケメン校医に憧れてるな!美伊子なら美人だからお似合いかも)

○○は美伊子の様子を勘良く察知していた。

「……酷いな。痛いが我慢しろ」

ローはまず水で流し切れなかった泥を洗瓶で洗い落とす。

それから銀の皿を用意するとピンセットを構えた。

「っ!!」

「うわー!痛そう!!!」

こびりついた小さな石を丁寧に取っていく。
ローの後ろでシャチがチラチラとその様を見て顔をしかめながら声を出した。

「シャチ!邪魔だ、出ろ」

ローは振り向きながら鬱陶しそうにシャチを追い払う。

「うう、また何か用があったらいつでも呼んでください!」

シャチは悲しそうにそう言うと保健室を後にした。



ーーカラン……カラン……



傷口から取り出された小石が音を立て皿へと転がった。

「良し」

ローは小さく声を出した。その声にホッと○○は息を付く。
消毒液をもう一度丁寧にかけ、薬を塗ってガーゼをあて、テープを貼った。

「これで良い」

「ありがとうございました」

ローの言葉に○○は小さく礼を言う。

「痛かっただろう」

「え?」

ローの言葉に驚いて○○は顔を上げた。

「あれだけ派手にスッ転んで石をたくさん溜め込んだんだ。泣き言ひとつ言わないのには恐れ入った」

「……」

ローの顔と声色があまりにも穏やかで○○は驚いていた。
美伊子やシャチへの態度でローと言う男は怖い校医であると思っていたからだ。

「い、痛かった……です」

「だろうな」

○○の言葉にローは口許を緩ませて同意した。カチャカチャと道具を片付ける音さえ○○には心地よく聞こえた。

「あ、ありがとうございました!!痛っ!!」

「っ、大丈夫か?」

立ち上がった瞬間、先程まで忘れていた痛みが甦った。
バランスを崩して前のめりになった○○をローが危なげなく受け止めた。

「だ、大丈夫です!なんか、痛くて……」

○○はローにしがみついたまま声を出す。とてもではないが、一人で立っていられない痛みだ。

「転んでから感覚が麻痺していたんだろう。少し休んで行け担任には俺から言っておく」

「……はい」

○○は確かにここからも歩けないとベッドへと視線を向ける。

だが、体は全く動かなかった。

「……チッ」

ローは舌打ちをひとつすると○○を抱き上げる。

「うわっ!」

「重い」

「す、すみません!!!」

言葉とは裏腹にローは軽々と○○をベッドまで運んだ。

「寝てろ。担任に言ってくる」

ローはそれだけを言うとカーテンを閉めた。


「……なるほど。美伊子がハマる訳だ……」

静かな保健室で○○はポツリと呟いた。
冷静な言葉とは裏腹に○○の顔は真っ赤に染まっていた。

(ヤバイ。胸がドキドキする。もしかして……)

○○は静かに目を閉じた。









ある、サッカー日和に









「先生」

「なんだ?」

「私、痩せた方が良いですか?」

「そうだな。年を取ってからは痩せにくいぞ」

「先生の好み?」

「……まぁ、メスは通しやすいな」

「め、メス…………ですか?」

「あァ」

(変なのに恋をしてしまったかも……)

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