明るさと暗がりの間

「くわっ!ふァァァ!!!」

シャンクスは大きくアクビをしながら体を伸ばした。

「っ!!びっくりしたー!何でいるんだよ?」

自分だけがベッドにいるのではなく、○○がスヤスヤと気持ち良さそうに寝ているのが目に映る。

シャンクスは自分の頭をかきながらそっと布団を持ち上げて確認をする。

「ふむ」

「……ん?……」

目を覚ました○○はシャンクスの顔を見たとたん機嫌悪そうに目を細めた。

「何でお前ここにいるんだ?」

シャンクスはまだ起きないまま自分を睨み付ける○○に声をかけた。

「貴方が私をここに引きづり込んだんでしょ」

○○は不機嫌そうに声を出すとそっぽを向いて布団をかぶった。
どうやら寝直す様だ。

「……俺達一線を……」

「越えてないわよ!」

「だふっ!」

シャンクスの言葉に○○は怒りに任せて枕を投げ付けた。

「なー!おれ腹減ったよ」

シャンクスは枕を抱えて○○を見る。

「行ってくれば?」

○○は面倒臭そうに冷たく声を出す。

「一人じゃ行けねェだろ!」

シャンクスは拗ねたように唇を尖らせた。

「……子供じゃないんだから」

○○はシャンクスに背を向けたまま目を瞑った。

「ガキだろうが、大人だろうが俺はお前から離れたら死ぬじゃねェか!!」

シャンクスは突っ込みのように手を素早く動かした。

「………………ゴメンナサイ」

○○はちらりとシャンクスを見る。

「人に向けて歌ったのは初めてだったから、まさか貴方が私から離れると息が出来なくなるなんて思いもよらなくて……」

○○はむくりと起き上がるとシャンクスへ頭を下げた。

「…………まァ、やっちまったもんはしょうがねェ」

シャンクスは俯く○○に困ったように頭をかく。

「うん!仕方ないよね」

○○はくるりと背を向けて寝転がる。

「って!甘い顔するとすぐこうだ!ったく!」

「っきゃ!!」

シャンクスは○○を荷物を担ぐように抱き上げた。

「俺は腹が減った!もう我慢できねェ!!!」

シャンクスはむすっと怒ったように声を出すと片手で○○を担いだまま足で部屋のドアを開けた。

「ちょっ!下ろして!」

「それは聞けねェな、セイレーン」

○○の抵抗むなしくシャンクスはにやりと笑うと食堂へと足を進めた。






○○は小さな時から歌う事が好きだった。
だが、○○が歌うと海が荒れた。
いつしか○○はセイレーンと呼ばれていた。

そんな噂を聞き付けた海賊や人拐い達が希に来たが、そのたびに父親が追い払った。
父親はとても怪力で強かった。人間が束になってかかってきても決して負けはしなかった。

しかし父も年を取り、昨年に他界した。その時出生の秘密を知り妙に納得したことを○○は覚えている。

体の弱かった母は○○が幼い頃に死んだ。

朧気にしか覚えていない母の顔。


『良い?貴女は人に向けて歌ってはいけない。ただひとつ。ひとつだけ歌って良い時があるの、それはーーー』






「人を魅了して海に沈めて殺す。殺せなかった時はセイレーン自体が死んでしまう。それがセイレーンの伝説だ」

ベックマンが紫煙を吐き出しながら軽く言う。

「ん?俺は生きてるし、こいつも生きてる」

シャンクスは朝食を頬張りながら自分と○○を指差した。

「ほら、セイレーンは良い男しか自分のものにしないから!」

○○はクスクスと笑った。

「ほー?それはどう言う意味だ?」

シャンクスは売られた喧嘩を買いながら○○に顔を近付ける。

「えー!良い男じゃないから生き延びたんでしょ?」

「良い男だろ?!」

「え?どこ?」

「ほら!お前の目の前!」

きょろきょろと何かを探す仕草をする○○にシャンクスは自信満々に自分の胸をどんと叩く。

「……無精髭マイナス30点!趣味の悪い服!マイナス40点!顔の傷マイナス20点!片腕マイナス10点!あれ?点数残ってないわね?」

○○はクスクスとシャンクスを見る。

「……まったく!可愛い顔して素直じゃねェな!」

シャンクスは悔しそうに顔を歪ませながら○○を見た。

「ふふ、ありがとう!」

「褒めてねェよ!」

シャンクスは食事を再開した。

「お頭楽しそうだな」

ヤソップがにやにやと笑いながらやって来て、近くの椅子に座った。

「そうか?」

シャンクスは不思議そうにヤソップを見る。

「おう!セイレーンが来てからやけにな」

ニヤニヤとヤソップは○○を見た。

「……絶対この人私が来る前からこんなだったでしょ?」

○○は普通に声を出すがシャンクス以外にはまだ緊張感があった。

「確かに!」

ヤソップはケラケラと楽しそうに笑った。

「お前らは俺を一体何だと思ってるんだ?」

シャンクスは呆れながらヤソップを見る。

「あん?お頭はお頭だ!」

ヤソップはニヤリと笑うと朝食を食べ始める。





「島が見えるぞー!」

クルーの声に飛び出したのは○○だった。

「あ!おい!!っ!!」

「お、お頭!!!」

○○と離れてしまったシャンクスは苦しそうにしながらも「大丈夫だ」と心配そうなクルー達に言うと、○○を追って甲板へと歩いた。

「島だ……」

○○はポツリと呟いた。

「そうだな。ったく、俺を置いてきぼりにするな!」

「痛っ」

シャンクスは呆れながら○○の頭を軽くこずいた。

「お前の島か?」

「…………ううん」

○○は小さく頭を左右に振った。

「……ねぇ」

「ん?」

「耳塞いでて」

「何故?」とは聞かずにシャンクスは○○の言葉に素直に従った。







明るさと暗がりの間






その日、少しだけ海が荒れた。

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