セイレーンの歌

「敵船だァァァ!!!」

クルーの叫び声とカンカンカン!と言う激しい鐘の音にシャンクスは嬉々として立ち上がった。

「よっしゃ!最近体が鈍ってたからな!」

シャンクスは剣を握ると甲板へ続く道に出る。

「待てよ!お頭!アンタ片腕無いってのに行く気か?!」

クルーの驚いた声がシャンクスを止める。

「あ?片腕無くったって大したことないだろ!」

シャンクスは楽しそうに笑うと足早にクルー達を避けて甲板へ出た。

「おォ!!!なかなかでかい船だな!」

シャンクスは無くなった麦わら帽子の代わりに残った手で日除けを作った。

「お頭、アンタ……」

「おう!ベック!小言は聞き飽きた!状況は?」

何か言いたげなベックマンを遮ってシャンクスは敵船から視線を外さずに聞く。

「……ったく。向こうから砲弾が3発。どれも威嚇射撃の様だ。全部外れた。ほら、まだ。……だが、気になる事がある」

「気になる事?」

ベックマンの言葉にシャンクスはようやくベックマンの方を向いた。

「あァ。波がおかしい。それに何か聞こえる」

ベックマンは紫煙を吐き出しながら煙草を挟んだ指を敵船へと向けた。

「何か?」

シャンクスは目を細目そちらを見ると耳に何かが聞こえた。

「歌?」

「そう思うか?」

「あァ」

シャンクスが頷くとベックマンは面倒臭そうに煙草を水面へ投げ棄てた。

「あの歌が聞こえてから、波がおかしい。この船は転覆するかもな。帆を張れ!!飲み込まれるぞ!!!」

ベックマンは慌ただしく動き回るクルー達に指示を飛ばした。

「それじゃ、まるでセイレーンだな」

シャンクスは楽しそうに笑った。

「はっ!じゃあ、相手が身投げでもしてくれりゃ助かるな」

ベックマンは呆れたように口許を歪ませた。

「お頭!高波だ!!!」

クルーの怒号が聞こえると、壁のような波が迫ってきていた。

「おー!ありゃ、ヤバイな」

シャンクスは真面目な顔でそちらを見た。

「あれは、確かにヤバイな」

ベックマンも真面目な顔で頷いた。

「仕方ねェ。一旦引く!!しかし、これじゃ相手もダメだろ」

シャンクスは指示を叫んでから敵船を見た。

「あ……」

シャンクスが見たのは高波に飲み込まれる敵船だった。

「っ!波が、引く?」

高波は敵船の姿を消すとすっと静まった。

慌ただしく動き回っていたクルー達も誰もが動きを止めぽかんと海を眺めた。





◇◇◇





「……」

○○は目を覚ました。

「……?」

自分は確か乗っていた海に投げ出されて……。
○○は混乱しつつ自分のいる状況を確認しようと目を動かした。

船の様な場所だが、乗っていた船ではなさそうだ。

数日前、住んでいた場所から人売りに浚われ、船に乗らされた。
檻に入れられていたが「良い機会だからあの船を沈めろ」と甲板へ出された。

売られるより死を選んだ自分は相手の船ではなく自分の乗る船を沈めたのだ。


ーーコンコン


「お!起きたか!」

一応のノックの後に赤髪の男が入ってきた。

「……」

○○は見た事の無い男に一瞬で緊張し、身を固くした。

「そんなに緊張するなって!」

赤髪の男は楽しそうに笑うと持っていたおぼんを○○のベッドの上に置いた。

「……」

「腹減ってるだろ?食え!」

「……」

○○は皿に置かれたパンとスープ、そして笑顔の男を見比べた。

「……」

「突然の大波。あれは人為的な物なのか?」

そろりとパンに手を伸ばした所で赤髪の男が口を開いた。○○はびくりとしてから慌てて手を引っ込めた。

「あァ悪い。まずは食え!」

赤髪の男は少しも悪びれずにパンの皿を○○に差し出した。

「……」

○○は悩んだ末に空腹に耐えきれずパンに手を伸ばし、ぱくりと食い付いた。口いっぱいにパンの甘味が広がり、思わず泣きそうになった。

「よしよし!」

赤髪の男は満足そうに笑うと近くにあった椅子を引き寄せてだらしなく座った。

「俺はシャンクス。この船の船長だ。クルーが海に漂うお前さんを見付けて引き上げた」

赤髪の男ーーシャンクスが口を開いた。

「さっきの船に乗ってたのか?」

シャンクスはじっと○○を見ながら訪ねる。

「…………」

○○はこくりと頷いた。

「そうか。…………仲間か?」

「……」

ふるふると頭を左右に振る。

「そっか。……商業の船と海賊船を足して2で割ったような外観だったな」

シャンクスは無精髭を撫でながら○○の様子を見る。

「…………」

「売られたか?」

シャンクスの問いに○○は首を振る。

「…………これからか?」

「…………」

シャンクスの問いに小さく項垂れた。

「元の島はわかるか?」

シャンクスの問いに○○はシャンクスを睨み付け、唇を開いた。

「……?っ!!」

不思議そうに○○を見るシャンクスは急に苦しみ出した。

○○は何かを歌っている様だった。

苦しみにもがくシャンクスが○○ のいるシーツを掴むと、お盆が下に落ちてガシャン!と音を立ててスープの入った皿が割れた。

「くっ!!!かはっ!!!!」

いよいよ苦しくなってきた所で○○は歌うのを止める。

「っはっ!!ゲホゲホゲホ!!!」

シャンクスは激しく咳き込むと、その場に踞った。

「私を売りたい理由。わかった?」

○○は静かに苦しがるシャンクスを見下ろした。

「ふー!……あァ、身をもってな」

「……そう」

○○は静かな声で頷いた。

「だが、わからねェ事がひとつ」

「…………?」

○○は苦しそうににやりと笑うシャンクスを不思議そうに眺めた。

「アンタの名前を知りたい」

シャンクスはにかりと笑った。









セイレーンの歌









これが赤髪の男とセイレーンとの出会いだった。

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