クリスマスイブの配達

「あー、疲れた……」

○○はだらしなく鞄をベッドに放り投げた。
そのまま電話へと手を伸ばす。

『いつもにこにこ白ひげピザ!注文担当のサッチでーす!』

いやにテンションの高い男が電話口で叫んだ。

「あの、特製オリジナルピザを1枚」

○○は緊張気味に口を開いた。

『はい!ありがとうございます!特製オリジナルピザ1枚!』

名前や電話番号を聞き、電話を切った。

「やったー!クリスマスイブだし!ピザだーー!!」

○○はわざとらしくテンションを上げるとそのままベッドへとダイブした。

仕事の忙しさから○○はそのまま目を閉じた。








ーーピンポーン


「……ん…」

チャイムの音で目が覚める。


ーーピンポーン


辺りはすっかり暗くなっていた。

「ちわー、白ひげピザでーす!」

そんな声と共に乱暴に叩かれるドア。

「あ!はーい!!!」

○○は慌ててドアへと走り寄る。

「お待たせしやした。特製オリジナルピザ1枚お持ちしました」

無表情のサンタが目の前にいた。

「あ……はい」

○○は少し照れた様に財布の中身を探る。

(今日もカッコイイなぁ)

実はいつもピザを配達にくるこの若い男に○○は密かに憧れを抱いていた。

癖のある黒髪にそばかす。不機嫌そうな目。それでいて実は優しいところがあったりする。

月に2回は呼んでその姿を堪能していた。

「……彼氏とお家デートですか」

珍しく彼から事務的以外の言葉が出た。

「へ?い、いえいえ!まさか!せっかくのクリスマスイブなのに一人寂しくピザですよ!アハハハ……」

(って、私は何を余計な事を!!!!)

自分の言葉に恥ずかしく、情けなくなりながら金を取り出した。

「おつりです」

彼がつり銭を差し出す。それに合わせて手を差し出すと彼は○○の手を掴んだ。

「っ!?!」

チャリーンと小銭が転がる音が狭い玄関に響く。

「……」

「……」

2人は無言で見つめ合う。

彼の目が熱を持ってる様に見てくるので、○○の、心臓は壊れそうなほど速く鳴る。

「……エース」

「え?」

「俺の名前」

彼ーーエースが真剣な顔のままそう呟いた。

「えー」

「きゃははは」

○○が口を開きかけた時に同じフロアの人達がやって来た。

「おつり」

エースは○○の手を離すと何事も無かったようにおつりを拾い上げて手渡した。

「あ、はい」

○○は火照る顔を隠すように手を頬に当てた。

隣のとなりでドアが閉まった。

「明日も暇?」

「え?」

エースはピザを入れていた袋を肩に担ぐ。

「……」

「あ、夜なら」

無言のエースに○○は素直に答えた。

「なら、迎えに来る」

「へ?」

エースは○○に背を向けた。

「お洒落して待ってろよ」

ニヤリと顔だけを振り返るとそのまま歩き出した。








クリスマスイブの配達









「うわー!何だったの?!今のあ、電話?」

『もしもし。エースだけど』

「え?な、何で?!」

『店に電話してきてるだろ』

「職権乱用!!」

『何か問題あるか?』

「……いいえ」

『明日暖かい格好しておけよ!』

「……う、うん!」

『じゃあな』

「…………キャー!!!!」

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