耳元でする声
同窓会の幹事である友人から声がかかり、クリスマスも近いのでプレゼントを買って来て欲しいと電話があった。
『ほら!高校の時憧れてたベンくんにでも電話して手伝ってもらいなよ!』
友人は「名案!」と笑った。
「いや、迷惑でしょ」
『迷惑なら断るわよ!良いじゃない!些細な事でもチャンスにするのよ!』
「わかった?宜しくね!」と言う声と共に友人は電話を切った。
「…………う、そ、そうね!せっかくのチャンスを生かさなきゃね!」
○○は気合いを入れた。
「まず『高校で同じクラスの□□です』それから『同窓会行きますよね?少しお願いがあります』よし。『プレゼントで男子の意見も聞きたくて、幹事の子に勧められて』…………よし!こんなものかな?」
手元の紙には聞きたい事、言いたい事をまとめた。
「大丈夫!上手く行くから!」
自分を奮い立たせると携帯の「ベン・ベックマン」のアドレスを開く。
高校時代にアドレス交換していらい、初めて使うその番号にドキドキと心臓が鳴った。
「うわー!緊張する!」
○○はわざと明るく声を出した。
「……よし!」
○○は勢いに任せて受話器ボタンを押した。
ーープルルルルル、プルルルルル
耳元で鳴る呼び出し音を聞きながら先程の紙を見た。
何度も何度も頭の中で反芻する。
ーーガチャ
(来た!まずは□□)
『○○か?』
「…………」
耳元でする声に○○は頭が真っ白になった。
(え?名前で呼んだ?私の事?あれ?一度も電話なんかした事ないし、むしろあんまり喋ったこともないし、そもそもちゃんと私の事覚えて)
『おい?どうした?』
混乱している○○に電話の向こうのベックマンが更に声を重ねた。
「あ、あの……」
(何年経ってたっけ?高校卒業してから、あ、やっぱり良い声)
○○はなかなか声が出なかった。
『やはり○○か。どうした?』
事も無げに言うベックマンの落ち着き払った声に○○の頭はパニックを起こしていた。
「す、」
『す?』
ベックマンが声を返す。
「好きです!付き合って下さい!!!」
『…………』
思わず出てしまった言葉に電話の向こうのベックマンは言葉を無くした。
シーンと言う表現がこれほど合う場面があるだろうか?
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
「はっ!!す、すみません、とつぜ」
『良いぜ』
我に返った○○が顔を真っ赤にして声を出す。
手にかいた汗のせいとベックマンの言葉のせいでで携帯電話を落としそうになる。
「は?」
『良いと言ったんだ』
ベックマンは笑いを堪えた様な声を出した。
「……い、良いんですか?」
『あァ』
○○の疑問にベックマンはもう一度肯定する。
「あ、じゃあ、次の土曜日とかお暇ですか?」
○○は紙に目を落として用意していた文章を読んだ。
『昼過ぎなら大丈夫だ』
ベックマンはかさりと何かを捲る音を立てた。
「えーっと、じゃあ、午後1時に駅でどうですか?」
○○の心は妙に冷静になっていた。
『そうだな……』
ベックマンは駅名を指定してきた。
「なら、午後2時にそこで」
○○は紙に場所と時間を書き足す。
『解った。じゃあな』
ーーぷ、プープー
「…………」
○○の手から携帯電話がポロリと落ちた。
「うわー!!!!どう言う事?!え?デート?!ふ、服!!服買おう!メイクは?あ!髪の毛!美容院予約して!!!」
○○は、その日一睡も出来ずに興奮をしていた。
耳元でする声「あー!靴が!!新しいの買おう!」
「これだと似合うアクセサリーが……」
「こ、これだと派手?!」
「あー!!!!もう朝になっちゃう!!!」
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