願い叶って?
「エース!見てみて!」
嬉しそうにやって来たのは高校からの友人の○○だった。
「どうしたー?」
俺は一人暮らしの狭いアパートで読んでいた参考書を閉じた。
一応明日からテスト週間だからな。
「ほら!見て!名前付いてる役!」
○○は嬉しそうにちゃっちい本を持ってきた。
「は?」
俺はそれを受け取ると読む。「秋子」と言う名前にピンクのマーカーが付いているので、どうやらこれが役名らしい。
○○は高校の頃から知っていて、女優になるのが夢だ。
俺は不良だったが、「不良の気持ちを知りたい!」と言う変な女だった。どうやら演劇部の役柄が不良少女と言う設定だった。
まぁ、色々合ったが仕方なく付き合っている。
うん、全然好きとかではなくてだな。
……って、誰に弁解してるんだか、俺。
俺はちゃっちい本こと、台本を捲る。
どうやら深夜ドラマらしく、エロ付きのようだ。
「お前、これやるのか?」
俺は台本から○○の顔に目を移す。
「うん!あ、これ見せパンだから大丈夫!」
○○は台本を指差す。
「お前、男に押し倒されてるぞ」
俺は呆れた顔をして指をさした。
「そうなんだよね。酷い話よね!ヒロインの相手役の男!色んな女の子と毎回「あわわ」シーンがあるんだよ!」
○○が腕を組んで怒っている。
「あわわってなんだよ、あわわって」
俺は呆れながら読み進める。
うわ、ダメだ。これ、○○がやると思うと鼻血が……。
……認める。そうだ、俺は何やかんやあった時から○○が好きだ。
告白とか出来てねェけどな。
「どんな役でも初めての名前役だよー!!嬉しい!!」
○○は嬉しそうに頬を染めて笑った。
あ、ヤバイ。その顔。
「だな。おめでとう」
「ありがとう!!」
○○の笑顔に俺はニヤリと口許を歪めた。
「どんな役でも全力の○○だ。練習しとくか?」
「そうだね!」
力強く頷く○○の腕を掴んだ。
「なら、泣くなよ?」
「へ?」
不思議そうにする○○をそのまま床に押し倒した。
「エース?」
○○の俺を見上げる顔が焦った様に見える。
あァ、ヤバイヤバイ。そんな顔されると止まんねェや。
「他の男に押し倒されてる○○を見るのはムカツクな」
「お、お芝居だよ!それに何にもされないもん!」
焦った様に○○が言い訳を始める。
「それでも「秋子」は男にやられるんだろ?」
「そ、そこはご想像にお任せして……」
「なら、その前に「秋子」を食っとかなきゃな」
ニヤリと笑う俺に恐れをなしたのか、○○が何かを必死に考えるようにしている。
「うーん、うーん。え、エース」
○○が顔を真っ赤にして俺の名前を呼んだ。
「ん?」
「ず、ずっと言えなかったんだけどさ」
「あ?」
急に話し出す○○に俺は思わずポカンとする。
この状況で何を話すんだ?
「わ、 私ね、エースの事ずっと好きだったの!」
「っ!!」
○○の突然の告白に思わず俺は仰け反った。
「だ、だから、出来ればもう少しムードのある……」
俺が怯んだ隙に喋りながら俺と距離を取る○○。
「……お前、俺から逃げたい一心で適度な事言ってたら怒るぞ」
俺はムッとした顔で声を出した。
「ち、違うよ!いくら役柄って言っても不良に近付く訳ないじゃない!」
○○は台詞でならどんなに恥ずかしい事も言う癖に、自分の言葉を言う時はいつも決まって顔を真っ赤にする。
「…………ほ、本当か?」
俺の声は驚いていた。だって、あの○○が俺を?
「私だって本当はエースから言って欲しかったんだもん。でも……」
○○は寂しそうに顔を伏せた。
「いや、悪い……」
俺はばつが悪く頭をかいた。
「ううん。良いよ!」
○○はくすりと笑った。
願い叶って?「じゃあ、続きするか?」
「えー!ちゃんとエースも言ってよ!」
「あー、好きだ、○○」
「私も!」
「じゃあ」
「じゃあ!試験勉強しようか!」
「…………は?」
「明日からテスト週間だもん!成績落ちたらドラマ出られなくなっちゃう!」
「…………」
「エース!夢のために頑張ろう!!」
「…………はぁ、そうだな」
[ 48/72 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]