新しい家族が増えました。
シャンクスはその日一緒に暮らしている○○へ飲み会で遅くなると連絡を入れた。
一緒に暮らし始めて1年半。
特に結婚する予定もなくシャンクスは彼女と暮らしていた。
少し強気の彼女と暮らすのはシャンクスにとって楽だった。
お互いに愛してるかは謎だったが、する事はしていた。
特に「付き合おう」も「好き」「愛してる」などの言葉も無いまま気の合う者同士で生活しているだけと言う感じだった。
お互い何の仕事をしているかも知らなかったし、知ろうともしなかった。
なので、この後にある爆弾発言にシャンクスは驚く事になる。
「たっだいまー」
「お帰りー」
酔ったまま帰ってきたらシャンクスは返事があった事に驚いた。
いつもの○○ならとうに眠っている時刻。
「起きてるなんて珍しいな?」
シャンクスは居間にいた○○の隣に座り込んだ。
「あのね、話があるの」
○○が正座をしたのでシャンクスは思わず姿勢を正した。
「これ」
○○は文庫本サイズの本をローテーブルに置いた。
「…………これって……」
「……赤ちゃんが出来たの」
シャンクスは思わず退け反ってからローテーブルの母子手帳に視線を戻した。
「え?俺の子?」
「他に誰がいるのよ」
シャンクスの言葉に声が低くなる○○。
「だっ!だってちゃんと避妊してたじゃねェか!」
シャンクスは○○の声の低さに慌ててフォローする。
「……一回あったじゃない。ゴムが破けた事」
○○は小さく呟いた。
「…………あー……」
何ヵ月か前に異様に気持ちが良く、抜いたらゴムに穴があった事があった。
「…………」
シャンクスは赤髪をかきながら無言で思考を巡らせた。
「っ!お金ならある」
どんっ!と○○は百万円の札束(ピン札に白のテープが貼ってあるもの)をローテーブルに置いた。
「……」
シャンクスは札束、母子手帳、そして○○の顔を見た。
彼女にしては珍しく肩が震え、不安そうな顔でシャンクスを睨んでいた。
「確認するが」
シャンクスはようやく重たい口を開いた。
「産みたいのか?」
シャンクスは真剣な顔をして真剣な声を出す。
「っ!……うん」
○○は絶望的な顔で驚き、項垂れた。
「出来たらシャンクスには認知して欲しい」
○○は弱々しくポツリと呟いた。
「はぁ……」
シャンクスのため息に○○の目には涙が浮かんだ。
「じゃあ、結婚すっか?」
シャンクスは諦めたように笑った。
「っ!……良いの?」
○○は怖々シャンクスを見た。
「俺の責任だしな」
シャンクスはにかりと笑った。
「……ありがとう」
○○の顔は涙と鼻水でいっぱいだった。
あれから1年半。
○○は無事に出産を終え、子供はようやく夜寝るまでになった。
「……はぁ」
○○は抱っこと子守唄でようやく眠りについた我が子にため息をついた。
真っ赤な髪は父親譲り。と、言うかどこに行っても「お父さんそっくりね」と言われる始末。
悪阻を乗り越え、妊娠の重さに耐え、出産の痛みを体験し、子育ての辛さを体感した。
シャンクスは結婚したと言っても籍を入れただけで特に変わらない。
いつも飲み会で遅くなるし、酒臭い。我が子は抱くがそれたけ。オムツ換えもしなかった。
「……」
○○は悩んでいた。
我が子の為に結婚はしたが、結局式も挙げない、子育ての手伝いはしない(言えばするが)、もちろん妊娠してから体を重ねる事もしなかった。
「…………よし」
○○は思いきってシャンクスに電話をする事にした。
シャンクスの電話番号は知っていたが、特に今までした事がなかった。
ーープルルルル、プルルルル
『はぁい!どなた?』
○○の鼓膜を揺らしたのは甘ったるい女の声。
「え?あ、あの。これシャンクスの電話番号ですよね?」
○○は慌てて声を出した。
『ええ、そうよ』
女はくすりと笑った。
「シャンクスいますか?」
○○は会社の人かなと聞いてみる。
『待ってね。今起こすわ』
女の言葉にどきりとした。電話の向こうでは『シャンクス、電話よ』と言う甘ったるい声とシャンクスの寝惚けた声がした。
『はいー、誰だ?』
寝惚けてはいたが確かにシャンクスの声だった。
「…………○○です」
○○は固い声を出した。
『え?○○?どうした?こんな時間に?!』
明らかに動揺したシャンクスの声に○○は一気に冷めた。
「何してるの?」
『いや、その』
「まぁ、聞きたくないわ」
『っ!○○!俺はだな!』
シャンクスは焦った声を出す。
『シャンクスー!お風呂入るでしょー?』
女の甘ったるい声が背後から聞こえた。
「……今までお世話になりました」
『ま、待て!』
ーーぷっ、ツーツーツー
○○は通話を終了させると携帯を壁に投げ付けた。
大きな旅行鞄に着替えや必要な物を詰め込み、食料品やオムツなどを車のトランクに詰め込んだ。
○○は眠る我が子をチャイルドシートに縛り付けると車を発進させた。
「…………」
○○はイライラが最高潮になっていた。
そのまま遠く離れた実家へと行き着いた。
久しく使われていなかった実家は掃除が必要だったが、朝焼けが始まった時間帯にそれは叶わずに寝てしまった。
子供の泣き声で目が覚める。
「……ごめんね」
○○は持ってきたバスタオルの上でオムツを換え、おっぱいをあげる。
パックの離乳食を与え、落ち着いた所でおんぶをした。
窓を全て開け、掃除機をかける。
布団を干し、水道局や電気会社に電話して水や電気を通してもらった。
子供の這いそうな所は雑巾がけをした。
ホッと一段落すると綺麗になったフローリングに我が子を下ろす。長くおんぶをしていたせいで、ご機嫌に寝返りを打つ。
「…………これからどうしよう」
○○は途方に暮れた。
産休を取っているので仕事は復帰できるとして、我が子に父親がいなくなってしまったのだ。
「……そうだ。役所行って離婚届貰わなきゃ」
ずきりと胸が痛んだ。
○○はシャンクスの事が好きだった。だから、子供が出来て本当に嬉しく思っていた。
しかし不倫をされていたなど、気付かなかった。
「そう言えば、シャンクスって何の仕事してんだろ?」
○○は自分がシャンクスを知らなかった事にようやく気付いた。
「愛のない結婚ってダメだなぁ」
○○は我が子に涙を見られない様に泣いた。
子供の泣き声で目が覚めた。
「……あぁ、寝ちゃった」
テレビの音と、子供の泣き声に頭痛のする頭を何とか覚ます。
「お!起きたか!寝てて良いぞ?」
男の声に○○はギョッとした。
「……何でいるの?」
○○はシャンクスを驚いてみた。
そして、シャンクスの腕には泣き続ける我が子。
「っ!!返して!」
「っと、」
○○はシャンクスから我が子を奪い返すと隈の残る目で我が子をあやし始める。
お腹を空かせていた様で、○○はその場に座るとおっぱいをあげ始める。
子供はようやく泣き止むと勢い良く吸い始めた。
「…………なに?」
ホッとしてからシャンクスの視線を感じてシャンクスを睨み付けた。
「もしかして、この子を奪いに来たの?親権は絶対渡さないから!」
○○は我が子を庇いながらシャンクスに敵対心剥き出しの顔を向けた。
「いや、それ俺の子だろ」
シャンクスはため息混じりに言う。
「いいよ、もう認知してって言った私が間違ってた。気にしなくて良いから離婚届貰ってきて」
○○は玄関を指差す。
「嫌だね」
シャンクスは子供の様に舌を出した。
「っ!!今まで子育てもしないで散々遊んでたじゃない!」
「だったら、これからはやるよ。つーか、やらせてくれなかったのは○○じゃねェか」
シャンクスは怒る○○に呆れたように言う。
「何よ!その言い方!どうせ彼女なんて沢山いるんでしょ!その人に産んで貰いなさいよ!」
○○はシャンクスに怒鳴った。
「嫌だよ。俺はこいつが良い」
シャンクスは○○の乳を飲む我が子のほっぺを突っついた。
「………………お願い、私からこの子を奪わないで。慰謝料もいらないから……何でもするから」
○○は糸が切れた人形の様に泣きながら頭を下げた。
「いや、俺はこいつをお前から奪う気も離す気もない」
シャンクスは困ったように笑った。
「…………無理だよ。私はもう貴方を愛せないもん」
○○はボロボロと泣き崩れた。
「そんな事言うなよ。それにお前は勘違いしてる」
「勘、違い?」
○○はボロボロと涙を流しながらシャンクスを見上げた。
「俺が愛してるのは○○だけだ」
シャンクスは真剣な目でそう言うと○○の手を握った。
「仕事も忙しくてな、なかなか子育てに参加できなくてごめんな。そんなに思い詰めてたなんて気付かなかったんだ」
シャンクスは真剣な眼差しのまま語りかける様に話した。
「…………で、でも、女の人が……」
○○は泣きながら戸惑った声を出す。
「ん?あァ、あれは秘書だ」
「秘書?」
「あァ。パッと見美人だが、男だな」
シャンクスはハハハと笑った。
「え?シャンクスってホモだったの?」
「温厚な俺でも怒るぞ」
シャンクスは気持ち悪そうに顔を歪めた。
「…………そっか」
○○は腫れ物が落ちたように項垂れた。
いつの間にか我が子は眠っていた。
「疲れてるだろ?少し寝ろ。抱いててやるから」
シャンクスは両手を差し出した。
「……シャンクスって私の事好きだったんだね」
○○は眠たそうに我が子をシャンクス預けた。
「何を今更?!え?俺そこから疑われてたのか?」
シャンクスは思わず転けそうな程驚いていた。
シャンクスが振り返ると既に○○は眠っていた。
「お疲れ様。悪かったな」
シャンクスは眠る○○にキスをした。
新しい家族が増えました。「そう言えばシャンクスって何の仕事してるの?」
「え?それも今更?!」
「うん」
「むしろ○○の俺への愛が疑わしい」
「えー、だって聞くの悪い気がして」
「んな事ねェよ。赤髪の社長だ」
「へぇー、そうなんだ。あ、だから秘書か!」
(…………こいつ絶対ェ赤髪知らねェな)
「ちょ、なに笑ってるのよ?!」
「いーや、なんでもねェよ」
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