深夜の競争

「遅くなっちまったな」

エースは小さく舌打ちをした。
大学生のバイトとは言え、尊敬するオヤジ事白ひげのもとで仕事をするのは楽しかった。
そして最近は重要な仕事を任されるようになり、働く時間も増えた。

「またルフィが怒鳴るな。……コンビニで唐揚げ棒でも買ってくか」

バイクをコンビニへと向けた。





コンビニで唐揚げ棒を買い漁ると再びバイクに跨がる。

「さーって、帰るか」

時刻は既に深夜を指す時間。
辺りに車の姿はない。


ーーブロロロロ


信号待ちをしていたエースの隣に一台のバイクが止まった。

チラリと見るとバイクに跨がる女もチラリとエースを見た。


ーーブルンブルルン


女はヘルメットのせいで全く顔は見えなかったが、挑戦的にスロットルを回し、エンジンをふかした。

(ヤロ……なめた真似しやがって)

エースも負けじとエンジンをふかして誘いに乗る。

そして、信号が青になると同時に2台のバイクは走り出した。

(ヘン、大した事ねェな)

スタートダッシュを成功させたエースは鼻で笑った。


ーーバババババ!


爆音と共にバイクがエースの隣をすり抜けて行った。

抜かされる瞬間ちらりとエースを見た女は笑った気がした。

「っ!!クソー!!!!」

赤信号で止まったエースは悔しそうに吠えた。







「それで不機嫌なのか」

フンと鼻で笑ったのはキッドだった。

「ウルセェ!」

エースは不機嫌に牛丼の大盛りを口に運んだ。

「ハンッ!情けねェな、それで大人しく引き下がるなんてよ!」

キッドはニヤニヤと行儀悪く麻婆豆腐を食べていたレンゲをエースに指した。

「次会ったら負けねェよ!!」

エースはどんっ!とテーブルを叩くと牛丼をかっ込んだ。









(…………また来たか)

後日、仕事が終わった深夜。
同じ信号で信号待ちをしていると、同じバイクが止まった。


ーーブロンブロロン


同じようにスロットルを回し、エンジンを挑発的にふかした。
エースも「今回こそは負けねェ」とエンジンをふかした。

信号が青になると同時に2台のバイクは走り出した。
今度はお互いに一歩も引かなかった。
人気のない道を2台のバイクが走り抜ける。







そんな日が何日か続いたある日。

「で?その競争はまだ続いてんのかよ?」

キッドはニヤリとエースに聞いた。

「まァな」

エースはもぐもぐと大盛りピラフをかっ込んだ。

「良く続くな。勝負も着かないのか?」

キッドはラーメンをずずっと啜った。

「いや、殆ど負ける」

エースは気にしていないように水を飲む。

「情けねェな」

「うるせェ」

「……」

嫌みを言うキッドにエースは心なしか楽しそうに言った。

「あ!キッド!」

「お、○○」

キッドに話しかけてきた女ーー○○は笑った。

「今日家来るの?」

「あァ。オバチャンにも言っておけ」

「はいはい」

エースは不思議そうに○○を見る。

「っ!!じゃ、じゃあね!」

○○はエースの顔を見ると驚いて逃げるように去っていった。

「っ!!」

エースはガチャンとスプーンを置くと立ち上がって○○を追いかけた。

「おい!エース!!」

突然走り出したエースにキッドは叫んだ。

「全く、2人してな」

やれやれとキッドはラーメンを啜った。





「おい待て!」

エースは○○を追いかけた。

「こら!!」

難なくエースは○○に追い付き、腕を掴んだ。

「っ!!」

○○は驚いたようにエースを見上げた。

「へへ!掴まえた!走るのは遅いんだな」

エースはニヤリと笑った。

「な、何か用?」

○○は戸惑いと照れ臭さでエースから顔を背けると顔を赤くした。

「お前だろ?毎日バイクで挑んでくんの?」

エースは○○の顔を覗き込みながら聞く。

「っ!!!な、何でわかったの?!」

○○は驚いてエースを見上げた。

「何か、雰囲気?」

エースも何故自分が解ったのか不思議そうに首を傾げた。

「なァ、キッドの彼女か?」

エースはじっと○○を見て聞く。

「え?う、ううん!まさか!幼馴染みなの!家が近くて!」

○○は首を激しく左右に振った。

「そうなのか!良かった!」

エースはにかりと笑った。









深夜の競争









「何で良かったの?」

「友達の彼女は口説けないからな!」

「えぇ?!」

「○○って言うんだよな?これから宜しくな!!」

「っ!!こ、こちらこそ宜しく!!」








「で?どうだった?」

キッドはだらしくなく○○のベッドに腰かけて聞いた。

「ありがとう!キッド!!エース君と知り合えたよ!!うれしい!!」

○○はにこにこと笑った。

「始めっから普通に声かけりゃ良いだろ」

キッドは呆れながら言う。

「違うよ!バイクで競争出来たからエース君は私に興味持ってくれたの!だから良かった!」

○○は嬉しそうに笑った。






「そうかよ。エースがお前の計画知ったらどう思うかね?」

「っ!!言わないで!!」

「ハッ!言わねェよ」

「ありがとう!キッド!!」







***




8月19日はバイクの日だそうです。


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