貴方の望むまま

「こ、これは?貴方は誰ですか?!」

私は思わず目の前に現れたその人を凝視した。

「誰って、エースだけど」

その人はエース隊長と同じ名前を言う。

「…………」

いや、確かにエース隊長と似ている。服装とかも似てる。

でも、それでも。

「っ!!!オヤジさぁぁぁん!!!」

私は驚きながらそう叫んでしまった。

「待て待て、叫ぶな。まァ、気持ちは解らねェでもねェけどよ」

自称エース隊長は私の口を片手で難なく塞いだ。

「とにかく落ち着いて俺の話を聞け。じゃねェとお前を攻撃しなきゃなんねェ」

自称エース隊長は逆の手に炎を出してにかりと笑った。

「…………」

私は恐怖を感じながらこくこくと頷いた。

「よし、じゃあ離すぞ」

自称エース隊長は私の口から手を離した。

「ど、どうしたんですか?その、凄くお年を召されている様な……」

先程から私が≪自称≫を付けているかと言うと、目の前にいるエース隊長はどう見ても30は軽く越えていた。

「あ?あァ、それな。秘密だ」

にかりと笑うエース隊長にクラクラする。

「でさ、あんま時間ないんだけどよ、一緒にちょっと来てくれるか?」

エース隊長は私の手を引いた。







「って!何で倉庫」

「シー!」

私の声にエース隊長は慌てた。

「あった!これだ!これ!」

「あ、これは……」

エース隊長が取り出したのは敵船から奪った高級な薫製肉。

「ま、まさかこれの為に過去へ?」

私は呆れた声を出す。

「まァな。ほら」

「もぐっ」

私はエース隊長に無理矢理肉を食べさせられた。

「へへ、お前とこれを食べるって約束したのによ、何か知らねェけど無くなってるしさ」

エース隊長は思い出した様に不機嫌だ。

「…………これってエース隊長が未来から来て食べたせいじゃないですか?」

私は呆れながらエース隊長を見上げた。

「…………そっか!」

エース隊長はなるほどと手を叩く。

「まァ良いや。俺がここに来るのも最後だしな」

エース隊長はにかりと笑った。

「え?」

「いや、何、気にするな」

エース隊長は少し哀愁漂う顔をした。年取ったエース隊長もカッコイイなぁ。

「さて、後さもうひとつ心残りがあるんだよ」

エース隊長はにニヤリと笑った。

「へ?っ!!」

エース隊長は屈むと私にキスをしてきた。

「っ!!」

逃げようとする私の顔をガッチリと両手で掴まれてしまい、逃げ出せない。

それどころか口付けは深くなっていく。


あ、ヤバい、


そう思った時には体の力なんて入らなくてずるずると床に尻餅をついた。

「可愛いな」

エース隊長の声にぞくりとする。
怖々見上げるとやはり寂しそうなエース隊長と目が合った。

「エース隊長……」

「……」

エース隊長は答えずにもう一度口付けをした。








「あれ?何やってんだ?」

こちらのエース隊長が入ってくる時にはあちらのエース隊長は消えていた。

「ううん。なんでもないです」

「な、泣いてんのか?腹でも痛いか?!」

エース隊長の慌てた声に私は自分が泣いている事に気付いた。

「…………隊長」

「お、おい」

何が悲しいか解らないが、私は泣いた。








こうして今、貴方の墓石の前に立つ。

もしかしたら、貴方は私の代わりに死んでしまったのかしら。

もしかしたら、私が代わりに死ぬ方法もあったのかしら。





「ねぇ、貴方は私に生きていて欲しかったの?自分が死んだとしても」

あの時の年取ったエース隊長に会えない悲しさをまだ実感できずにいた。








貴方の望むまま








それでも、私は生きていくと思う。それが貴方の望みなら。

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