理想と現実
よく、結婚は人生の墓場って言うじゃない?
今の私はまさにそれ。
それは今私の隣でだらしなくテレビ見て笑っているこの男ーーシャンクスさんのせい。
仕事が休みだか何だか知らないけど、よれよれのシャツに趣味の悪いハーフパンツ。無精髭にボサボサの赤い髪。
結婚1ヶ月の新婚の家じゃないよ、これ。
私は結婚と言う物に小さい頃から凄い憧れを抱いていた。
と、言うのも父が大会社の社長だったから、小さな時から「お前の結婚は会社の為にある」と聞かされていた。
それが別に重荷だった訳ではない。
蝶よ花よと育てられず、幼い頃から「良妻賢母」を目指して育てられた。
だから、その見返りとしていつも「お父様!結婚相手は王子様の様な人が良い!」と言い続けた。
父も「解った。任せておけ」とか言っていたのに…………。
お見合いの日、彼が私の前に現れた。
綺麗な赤い髪が印象的だった。
鋭い眼光も素敵に見えた。
「これが私の王子様!これが私の旦那様!」と胸も踊ったけど……。
2人だけになった時私はあれこれ彼に質問したわ。
そしたら何て言ったと思う?
「二日酔いなんだ。そうキャンキャン騒ぐなよ」
ですって!
人生が決まる日に二日酔いよ?!信じられる?
私は聞き間違えかと聞き返したわ。「お仕事?」って、そしたら、
「いやー、昨日は久し振りに友人と飲みまくってさ!だっはっはっ!」
呆れて口も塞がらない何て事、人生で初めて。
私は「嫌」と言い続けたけど、1ヶ月前に結婚式を挙げて今は一緒に暮らしている。
何の為に私は良妻賢母の修行を重ねたのかしら……。
「お水です」
私は居間のローテーブルに水の入ったグラスを置いた。
「おう!悪いな!」
シャンクスさんはにかりと笑った。
はぁ……。
私は頭痛のする頭を押さえた。
「どうかしたか?」
シャンクスさんが座ったまま私を見上げる。
「え?いえ」
私は慌てて首を左右に振ると洗濯物を畳むべく隣の和室へ行く。
シャンクスさんのスーツや私の服はクリーニングに出しているので、タオルや下着などだけだ。
「……どうかしましたか?」
いつの間にか私の側にいたシャンクスをさん不思議に思って今度は見上げた。
「うーん、いやー」
シャンクスさんは私の隣に胡座をかいて座った。
私はそれを放っておいて洗濯物を畳終える。
あ、そうだ。どうせ暇だから編み物でもしようっと。
私は襖を開けると編み物セットを取り出した。
「…………なァ」
編み物を始めようと指に毛糸を絡めたところでシャンクスさんが話しかけてきた。
「あ、お茶ですか?」
私はシャンクスさんを振り返る。
何かやっていても話し掛けられたら手を止めて旦那様を見るよう育てられた。
「何やってんだ?」
シャンクスさんは私を不服そうに見る。
え?なんでそんな顔?
「え?あぁ、編み物をしようかと。せっかくですのでシャンクスさんのセーターでも編もうかと思いまして」
私はにこりとシャンクスさんを見た。
「……まだ夏前」
「えぇ、暇なので」
不思議に思いながら私は口を開く。
「……なら、今じゃなくて良いな?」
「え?はい」
シャンクスさんの言う意味は解らないが頷いた。
「よし!なら出掛けるか!」
シャンクスさんはにかりと笑って立ち上がる。
「お帰りは何時頃ですか?お昼と夕飯は用意しますか?」
私は聞くべき事を聞く。
すると、何故かシャンクスさんは思いきりコケた。
「一緒にだよ!」
シャンクスさんは笑いながら言う。
「?一緒にですか?」
私は意味がわからない。
お互いに恋愛感情無く結婚したのだ。
これまで一緒に出掛けた事などなかった。
「ほら、そろそろ夫婦っぽい事もしなきゃだろ」
シャンクスは頭をかきながら言う。
あぁ、
「夜の事でしたらそんな事気にせずして良いんですよ?」
私はシャンクスさんをじっと見た。
「え?」
「夫婦になったなら子供を作るのも当たり前です。感情がなくても出来るでしょう」
私はにこりと笑った。
男の人は浮気をする。そう習った。地位も名誉もある男の人だと女性が放っておかないらしい。
それに余裕を持たなければならないのだから。
シャンクスさんは両手で顔を隠してしゃがみこんだ。
「ど、どうかしましたか?お腹でも痛いんですか?救急車呼びますか?」
私は急にしゃがみ込むシャンクスさんを心配に思って一緒にしゃがむ。
「しゃ、シャンクスさん?」
私はゆっくりとシャンクスさんに手を伸ばす。
「浮気とかしねェよ」
「はい?」
シャンクスさんが何かを言い始めた。
「俺さ、前に○○を見てさ。一目惚れしたんだよ。そしたら大会社の令嬢だろ?釣り合うようにってかなり頑張ったんだ。○○の親父さんに頭下げてさ。色々条件出されたが、何とかクリアして。ロジャー社長にも根回しして貰ったんだよ」
シャンクスさんはペラペラと喋った。
「…………」
私は思わず固まった。
へ?それってどういう事?
「だからさ。俺は○○の事を政略結婚の道具とか思ってない。愛があると思ってる。解るか?」
シャンクスさんは私の目を見た。
その真剣さがひしひしと伝わってきた。
「好きだ。愛してる。だから、俺に惚れろ」
シャンクスさんの言葉に私の顔はボッと熱くなった。
理想と現実「返事は?」
「…………わ、私」
「ん?」
「お、王子様と結婚したかったの!」
「…………は?」
「だ、だから、王子様になって」
「…………王子様って柄じゃねェな」
「……」
「ど、努力はする」
「た、楽しみにしてます!」
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