我が儘女と甘やかし男(後編)
「ただいまー……」
時刻は割りと早く午後10時。
「あら?シャンクス。早かったのね?」
夜でも美しい○○が驚きながらシャンクスを出迎えた。
「早いか?」
シャンクスは不思議そうに言いながら靴を脱いで部屋へと入る。
「……どうした?」
「てっきり彼女と宜しくやって午前様かと思ったわ」
シャンクスの驚いた声を無視して○○はクスクスと笑った。
「○○、これは何だと聞いている」
シャンクスは地を這う様な低い声で○○を見た。
「何って?見てわかる通り荷造りよ」
○○はにこりと妖艶に笑い大きなキャリーバックを撫でた。
「……どこかに行くのか?」
「そうね。荷造りとはそう言うものよ」
シャンクスの怒りを孕んだ言葉にも○○は楽しそうに答えた。
「どこへ」
「うーん。まだ決めてないけど……。あ!シャンクス!この人達なら誰がお金持ち?」
○○はパーティーで貰った名刺の束をシャンクスに見せた。
「……そん中なら俺が一番金持ちだな」
「ふふ、シャンクスはもうダメでしょ?」
○○は耐えきれずに笑った。
「何故急に」
シャンクスは眉間にシワを寄せたまま唸った。
「急?急かしら?」
○○はくすりと笑った。
「シャンクス、あの人から『好きです。付き合ってください』とか言われたでしょ?」
「……言われたが、それが何だ」
シャンクスは○○を射抜くように見た。
「だから私はもうお邪魔虫でしょ?」
○○は真剣な顔でシャンクスを見返した。
「断った」
「何してるの?それはシャンクスはお馬鹿さんなのかしら?」
○○は呆れたようにため息をついた。
「馬鹿じゃないだろ?お前がいるのに何故」
シャンクスは真剣な顔のままだ。
「あのね、シャンクス。私が言うのも何なんだけど、あの子の方が結婚に向いてるわ。貴方もいつまでも若いわけじゃ無いでしょ?早く身を固めろって言われるんじゃない?自分の事でしょ?ちゃんと考えなきゃ」
○○はため息交じりに言う。
「……お前はどうするんだ」
シャンクスの感情の籠らない声がした。
「あら、別れ行く女にも気をかけてくれるのね?」
○○はくすりと笑うだけだ。
「じゃあね、シャンクス。またどこかで」
○○はにこりと笑うとキャリーバッグを持った。
「っ……何してるとか、聞いて良い?」
玄関へ行こうとシャンクスに背を向けると、そのまま乱暴に抱き締められた。
「行くな」
「嫌よ。私修羅場は嫌いなの。だから愛人とかは嫌」
○○はしっかり声を出す。
「ならねェよ」
「いくらシャンクスが気を付けても浮気ってバレるものよ?」
「浮気しなきゃ良いだろ」
シャンクスはギュッと抱く力を強くした。
「どうやって?そんなの」
「俺はお前しか要らねェ」
シャンクスの言葉にも○○の胸は高鳴った。
「あのね、シャンクス。私は私の性格がわかってるのよ。我が儘で傲慢。外見だけで今まで生きてきた様なものよ。友達なんていないし、要らない。愛なんて信用してない、要らない。欲しいのはお金と贅沢」
○○はクスクスと笑った。
「なら、そんな女の末路はどうなる?」
シャンクスの言葉に○○は眉を潜めた。
「……美しくなかったらそこで終了?まぁ、金持ちのじじ様にでも拾って頂ければ良いけど」
○○はわざと明るく笑った。
「させねェよ」
「シャンクス、だから」
「俺はお前を愛してるんだ」
シャンクスはゆっくりと声を出す。
「お前の好きな金と贅沢なら俺がやる。だが、他の男にお前を触らせるのは気に喰わねェ。ここでお前を縛り付けて逃げられねェ様に監禁して、ここから二度と出さねェ」
シャンクスの声は真剣で、それが本気だと簡単に分かった。
「……愛、してる、か」
○○は力なく笑った。
「シャンクス」
「ん?」
「私は貴方を愛してないわ」
○○は振り返りながらシャンクスを見上げた。
「なら、惚れさせるまでだ」
シャンクスは挑戦的に笑った。
「……そう?なら、頑張って」
○○はシャンクスに寄りかかった。
「あァ、存分に甘やかせてやるよ」
シャンクスは満足そうに笑った。
我が儘女と甘やかし男「言っておくけど、私にそこまで言った男は貴方が初めてよ、シャンクス」
「そいつは光栄だな」
「言い忘れたけど返品不可だから、二度と私から逃げられないと思う事ね」
「上等!」
「あ!シャンクス、私新しいネックレスが欲しい」
「は?要らないんじゃないのか?」
「なに?甘やかせてくれるでしょ?」
「そうだな」
「なによ、その笑い」
「いや、早く俺に惚れろよ」
「さぁ、どうかしら?」
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