願わくば君と
「着いたぞ」
港に着き、ミホークが声を出した。
「……ん、おはよう」
ふあっとあくびをしながら目を覚ました。
「……」
「っわっ!!」
ミホークは寝惚けた○○を担ぎ上げた。
そして、ぽーんと棺桶船から陸へと跳んだ。
「あ、ありがとう」
「行くぞ」
○○を下ろしたミホークはすたすたと長い足を動かした。
「あ!待って!」
○○は慌ててミホークの後をついていく。
いつもの様に高級ホテルに入り、いつもの様に札束をカウンターに出し、いつもの様にスイートルームに通された。
「……この生活に慣れそうで怖い」
○○はポツリと呟いた。
「慣れたいのなら、止めんが」
ミホークはどかりとソファーに座り、ワインを開け始めた。
「……?」
ミホークの言葉の意味が解らずに不思議そうにする○○。
「俺に抱かれてみるか?」
「え、遠慮します」
ミホークの意外にストレートな言葉に○○は冷や汗をかいた。
「そうか」
全く感情を込めずにそうミホークは頷いた。
会話が終わればいつも通りやってくるのは沈黙。
最近は慣れたとは言え、やはり重たくてそわそわしてしまう。
「そう言えば鷹の目っていつが誕生日なの?」
話題に困ったらするのが誕生日の事。これはかなり鉄板だ。
「3月9日だ」
「へぇー!サンキューの日だね!」
○○はふと、部屋にかかるカレンダーを見た。
「…………鷹の目!!」
「なんだ、騒々しい」
ミホークは若干うるさそうに○○を見た。
「今日!」
「……なにがだ?」
「だから、今日だよ!3月9日!」
○○は慌てて言う。
「そうか」
「そうかじゃなーい!!」
○○は大きな声を出した。
「もー!何で今まで言わなかったの!」
○○がミホークに詰め寄る。
「必要か?」
「必要!!」
○○は仕方ないと鞄を掴んだ。
「出掛けるのか?」
「出掛けるのよ!」
○○はミホークを残して部屋を出た。
昼過ぎに、腹が減ったミホークは帽子をかぶった。
それと同時にドアががちゃりと開いた。
「え?ミホークどこか出掛ける?」
○○は少し慌てて聞いた。
「あァ。腹が減ってな」
ミホークは頷いた。
「良かった!なら、帽子取って!」
○○はにこりと笑って、ワゴンを部屋へと運んだ。
ミホークは帽子を取り、テーブルへと座った。
「お待たせいたしました!○○シェフのバースデーメニューです!」
○○はミホークの前に次々と料理を並べていく。
「…………ぬしが作ったのか?」
少し驚いた表情をミホークは見せた。
「うん!なかなか綺麗に出来たでしょ?」
○○は上機嫌に笑った。
「じゃーん!ケーキもあるんだよー!」
○○は真っ白なクリームに赤いイチゴが乗ったケーキを差し出した。
「…………」
ミホークは黙り込んだ。
「今、ローソクの準備するね!」
○○はケーキのローソクに火をつけて、部屋の明かりを消した。
昼間なのでカーテンをひいても、光は漏れてしまったが、まぁ、問題はなかった。
「では!歌います!はっぴばすでーとぅゅー♪はっぴばすでーとぅゅー♪はっぴばすでーでぃあ鷹の目〜♪はっぴばすでーとぅゅー♪」
○○が歌い終わる。
「……」
ミホークは動かない。
「鷹の目、願い事してローソクの火を吹き消すの!あ、願いは心の中でね!」
○○がこそりと教える。
「……」
ミホークは火を吹き消した。
「おめでとうー!!!」
○○は一人のりのりで手を叩いた。
カーテンを開けて、○○はにこりと笑った。
「ねぇ、何を願ったの?」
○○は興味津々と聞いた。
「…………」
ミホークは無言を貫いた。
「ま、いっか!さ!食べよう!」
○○も席につくと、取り皿をミホークに差し出した。
願わくば君と「……赤髪か?」
『おォ!鷹の目!珍しいな!』
「そちらは宴のようだな」
『あァ。何か祝ってくれるんだと!』
「……」
『どうした?』
「…………いや、たまにはこんな誕生日も良いものだ」
『なんだよ?それ』
「では、切る」
『は?』
「起きても困るからな」
『お、おい!一体なに』
「…………ふぅ」
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