全てはオヤジのために
割りと近い縄張りで、抗争があると情報が入り、一番隊隊長のマルコがあっと言う間に解決して帰ってきた。
3日振りに見る我が家、モディービック号がやたら綺麗になっているのに気付いた。
「おい、サッチ」
「お!お帰り!マルコ!」
サッチはマルコに片手を上げる。
「異様に綺麗になってねェか?」
マルコは不思議そうに甲板を見渡す。
確かに普段掃除はしているので、それほど汚れてはいない。
しかし、ここまで綺麗な事も珍しい。
「あァ、これな、○○って解るか?」
「○○?」
マルコは聞き慣れぬ名前に首を傾げる。
「ビスタんとこの一番下っぱの女なんだけどよ」
サッチは楽しそうに3日前の事を話し出した。
マルコが偵察に立って、すぐ。
甲板掃除の5番隊はいつも厳しいマルコがいない事を良い事にサボり気味であった。
しかし、○○だけは必死にブラシで床を擦っていた。
「おい!○○!毎日ちゃんと掃除して、大体綺麗だ!適当で良いぞ!」
平隊員がニヤニヤと真面目に働く○○を見た。
「…………何か、汚れてるのが嫌で」
○○は困った様に笑った。
「なんだ?潔癖症か?」
「海賊が潔癖症!!!」
ケラケラと笑い出す隊員達。
「いえ、そう言う訳じゃなくて」
「じゃあ、どう言う訳なんだよ?」
「例えば」
○○は静かに呼吸をした。
「今、掃除をサボった所に敵船が来たとして」
「返り討ちだな!」
その様子を遠くから各隊長達も見ていた。
「……もし、この甲板まで乗り込んで来るとするじゃないですか」
「まァ、あり得ない話では無いからな」
「その時に「なんだよ!白髭の船ってどんもんかとおもったら、汚ぇでやんの!」とか言われて」
「「「っ!!」」」
「「これじゃあ、白髭って男の器が知れてんな!」とか言われたら、オヤジさん大好きな私に取っては凄く辛いと言うか……」
「「「っ!!!!」」」
○○のうるるとした目かクルー全員の胸に突き刺さる。
「「白髭にゃあ、勝てねぇが、綺麗さなら負けねぇ!!!ハハハハ!!」とか高笑いとかされたら、私…………オヤジさんに合わせる顔がなくて……」
○○の演技に固唾を飲む、白髭の子供達。
「よ、よし!」
「掃除しよう!」
「オヤジの面を俺らが汚せないな!」
「滅茶苦茶綺麗にしてやろう!」
「よし!!!!!」
クルー全員の心がひとつになった瞬間であった。
「って事があってさ!俺達隊長が先立って掃除さ!」
サッチは呆れた様に、しかし楽しそうに笑った。
「まァ、いくらモビーがデケエからっても、俺達も数はいるからな。因みに掃除はさっき終わった所だ」
サッチは「疲れたー」と良いながら腕を回す。
「ヘェ。意外に骨のある奴が乗ってるじゃねェか!この船は」
マルコは上機嫌で笑った。
「だろ?もうな、○○は俺達のアイドル的存在よ!」
サッチがケラケラと笑った。
「お前が○○かよい?」
「ま!ままままままマルコ隊長!!!」
マルコに話しかけられ、○○は食堂で食事をしていたが、ビシッと立ち上がる。
○○は下っぱの下っぱ。
自隊のビスタ隊長にすら話かけられる事は希である。
それが、不死鳥のマルコと言えば白髭海賊団実質上No.2!
そんな雲の上の存在に話し掛けられて緊張しない筈がない。
「そう、緊張するなよい。まァ、食事の続きでもしてくれ」
マルコはそう言うと隣に椅子を持ってきて座る。
○○も座りはしたが、落ち着きなくもぞもぞする。
「まず、モビーが綺麗になった事に感謝する」
「っ!!!!い、いいいいいえ!!!皆でやった事ですし!隊長達が先人切ってやっていただきましたし!私は何も!!!」
○○は顔を真っ赤にして首を激しく横に振った。
「いや、お前さんの発破がなかったら、あいつら動かねェよい」
マルコはニヤリと笑う。
「いえ!あの!オヤジさんの船を綺麗にしたいって気持ちは皆同じだと思います」
ようやく、それだけ言うと○○は真っ赤な顔のままうつ向く。
「まァ、ねい。あ、これ、やるよい」
マルコは立ち上がりながらポイと小さな袋を投げる。
「え?何ですか?」
○○は不思議そうに振り返る。
「ナースにでもやろうかと思ったけど、考えたらひとつしかねェし、今回の功労賞って事で取っときな」
マルコは「じゃあな」と食堂から出て行った。
「なんだろ?」
○○が開けると中から青い石で飾ったアンクレットが出てきた。
「っ!!!!あ、ありがとうございます!!!」
○○は姿の見えないマルコに頭を下げた。
全てはオヤジの為に「…………○○の付けてるアンクレット。お前のだろ?」
「まァ、ねい」
「抜け駆けー!!!マルコずりい!!!」
「うるせェよい」
「あ!○○転んだ」
「足上げると目立って良いねい」
「ムッツリ」
***
Happy birthday マルコ!!
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