気付いたら

「悪い、好きな奴が出来た」

エースがそう言ってきた。
うん、元々そんな気はしてた。

「そっか。良かったね」

私はにこりと笑った。

「あァ………」

エースは微妙にうつ向いたままだ。

「ほら、行きなよ。待ってるんでしょ?その子」

「…………悪ィ」

私の言葉に従い、エースは後ろを向くと走って私から逃げる様に去っていった。

「………………」

私は自分に当てがわれた部屋へと入る。

「くっ……ふっ」

私は声を殺して泣いた。








エースとの出会いはまだ彼がスペード海賊団を率いていた時。

彼が年上の私を気に入って拐うように船へと乗せた。

最初は5歳以上離れていた事もあり、彼の気持ちはやがて冷めるだろうと思っていた。
だが、彼の気持ちは冷める処かどんどんと大きくなっていき、やがて私を飲み込んだ。




白髭海賊団に吸収されてから、彼は同世代の美しい女性、ナース達を目にするようになる。

エースは若い。

ついには耐えられなくなり、私以外の女の人と関係を持つようになった。

それでもエースは私が好きだと言い、その言葉は本物だった。


そして…………


そして、とうとうエースは本当に好きな人が出来たのだ。
私の様に年上への憧れではなく、同世代の素敵な女の子を本当に好きになったのだ。

これは喜ばしい事だ。
私はいつかこんな日が来る事が分かっていた。


それなのに……。


それなのに私はエースの事をこんなにも好きになってしまっていたのだ。


「っひっく…………エース……」

エースの匂いが残るベッドで私は朝まで泣き続けた。



今だけ

明日からまた笑って過ごすために

エースと笑って話せるように

今日だけは思いきり泣かせて欲しい











「どうしたよい?その目は」

声をかけてきたのは独特のヘアスタイルがとても似合うマルコ隊長。

「隊長聞いてよ?睫毛が3回も目に入ったの!信じられる?もう、痛くて痛くて」

私はマルコ隊長に近付いて笑った。

「……そいつは不運だねい」

マルコ隊長は呆れながら声を出す。

「あ、エース!おはよう」

私はマルコ隊長の向こうに見えたエースに笑いながら手を上げた。

「お、おう」

エースは明らかにぎくりとする。


……失礼な坊っちゃんね。


「じゃあ、マルコ隊長。私仕事に行ってきます!」

私はマルコ隊長ににこりと笑った。

「お、おい」

エースの声が聞こえた気がするがさらりと無視をした。

さすがに笑顔で挨拶をするのが限界。
まだ仲良くお喋りが出来るほど私も割り切れていない。








「…………○○」

仕事が一段落した所で後ろから声をかけられた。

「……エース。どうしたの?」

私は出来るだけ普通に話しかける。

「この目……」

エースは私の頬に手を添える。
まるで恋人にする様な事をエースは私にする。

「ふふ、エースには関係ないわよ。自意識過剰過ぎじゃない?」

私は笑いながら冷たく言い放つ。

「っ!……」

エースは驚いた顔をしてから沈んだ顔をする。

「それじゃあね、エース」

バイバイと手を振る。


あの子はダメだ。
私との事は若さゆえの過ちと解ってない。

仕方がない。
私はエースの視界に入らない様にする事にした。








私がエースを避けるようになり、1ヶ月が過ぎた。

エースは新しい彼女と上手く行っている様だ。

もう少しかな?

私はもうエースの特別ではいけないのだ。










気付いたら









私はエースを目で追っていた。

これじゃあいけない。
もう、私はエースの特別ではないのだ。

私はもう過去の女なのだ。

私は深いため息をついてから、気合いを入れ直した。



「○○」

エースがこちらに気付いて近付いて来た。

「どうしたの?」

私はにこりと聞いた。
久しぶり話すのに、私の胸は高鳴る。

「…………」

エースは黙り込む。

「ほら!あの子待ってるんじゃない?相談事はその子にしなよ?勘違いされて困るのはエースでしょ?ちゃんと大切にしてあげなよ?」

私は我が儘を言う弟の様にエースに接する。

「……あいつとは、付き合ってない」

エースはポツリと呟いた。

「へ?」

私は不思議に思いエースを見る。

「俺の方が年下だし、○○が俺の事好きか分からなくて、ちょっと嫉妬して欲しくて」

エースがポツポツと話し出す。

「だから、次の日○○が目を張らしててさ、やった!と思ったら、○○が俺を避けて……」

エースは辛そうに表情を歪める。

「……」

私はあまりにも子供じみた行動に驚いて声も出せずにいた。

「だから……好きな奴が出来たって嘘なんだ。俺は○○以外の女を好きにはならねェ」

エースはじっと私を見つめる。

「なァ、○○は俺の事どう思ってるんだよ?」

エースは不安そうに私を見つめ続けた。









気付いたら










「別れを言われて一晩中泣くくらいにはエースが好きよ」

「それって凄く好きって事だろ?」

「嬉しそうな顔で言うのね」

「当たり前だ!」

「なら、もうこんな事しないでね」

「あァ!しねェ!!!」

「エース」

「ん?」

「私を離さないでね」

「っ!!あァ!!当たり前だ!」

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