純粋と不良
「いーい?最近不良が多いから気を付けるのよ?」
●●が美しい顔できりりと言った。
「大丈夫だよー。私、逃げ足は速いから」
○○がへらりと笑った。
「あのね、あんた50m走13秒が何言ってるの?」
呆れきった顔の●●。
「う……」
「初めから危ない道は通らない」
「で、でも、あそこ通ると近道」
「と・お・ら・な・い」
「…………はーい……」
●●の言葉にしゅんとしながら○○が答えた。
「じゃあ、私は先に帰るけど、良い?ちゃんと明るい道通るのよ?」
「…………」
「返事は?」
「はーい」
「短く!!」
「はい!!」
○○は●●の迫力に負けて敬礼で返す。
「じゃあね」
●●は心配そうにしながらも夕暮れの道を帰って行った。
「私はもう1限かぁ」
○○は仕方無く講義教室へ向かった。
「うへ、見事に真っ暗」
講義が終わると外は既に暗かった。
「みんな反対方向だし……。早く帰ろ」
○○は駅までの道を小走りで進んだ。
「こっち通ると近道なんだよねぇ」
チラリと見るとの●●が通るなと言った暗くて不良が出ると噂の通路。
しかし、ここを通ると10分は短縮できるのだ。
「…………よし!行っちゃえ!」
○○は肩掛け鞄を胸に抱くと一気に走り出した。
「よし!何もない!」
駅前の明るい光が見えてホッとした。
そして、辺りを良く見ていなかったのだ。
ーーガツン
「痛っ」
「痛ェな姉ちゃん!!」
何かに蹴躓いたと思ったら人の足だった様だ。
「ご、ごめんなさい。急いでて……」
見ると人相のいかにも不良です!と言う制服姿の男達が5人程いた。
「ごめんじゃねェよ!!人の足ふんずけておいて!!!」
ガツンと飲食店のゴミ箱らしき物を思いきり蹴飛ばした。
「っ!!く、暗くて見えなくて」
○○は恐怖に刈られながらも何とか口を開く。
「あァ?!知らねェよ!!……お、姉ちゃんあそこの大学生か?」
不良がにたりと笑った。
「なかなか可愛い顔してるじゃねェか。おい!あいつら呼べ!」
「嫌っ!!」
不良が○○の手を捕まえた。
にたにたと笑いながら人気のない公園に連れ込まれる。
「お!今回は年上か」
「なかなか可愛いじゃん!」
「あそこの大学生?エリートかよ!」
集まってきたのはひとクラス分の不良。
30人程の不良達が○○を取り囲んだ。
「っ……」
「これから姉ちゃんには俺達全員と相手して貰うぜ?」
「…………ぜ、なん」
カチカチと震える口はちゃんとした言葉を出さない。
「もちろん、性教育的な?」
「「「ギャハハハハ!!!」」」
不良達から馬鹿笑いが起こった。
「…………」
○○の顔が恐怖に歪む。
「じゃー誰から行くか?」
「俺!」
「おれ!」
「オレ!」
「うっせェ!!」
「あーもー、面倒だ!早い者勝ちってので良いか」
不良達がにたりと笑うと、○○に群がった。
「やっ!!」
「仕方ねェな」
不良達が○○の体を拘束する。
「嫌っ!!嫌だ!!だ、誰か、助けて!!!」
○○が必死に声を出す。
「えー?この人数で誰も来ねェよ!」
「ギャハハハハ確かに!」
「なぁなぁ、何楽しそうな事してんだよ?」
○○を中心に和になっていた不良達がいっせいに突然その中心に現れた赤髪の男に釘付けになる。
「だ、誰だ?テメェ!!!」
「ん?俺か?」
赤髪の男が○○のすぐ近くで立ち上がった。
「名乗るほどの者でもねェよ」
ニヤリと楽しそうに笑った。
不良達が呆気に取られていると赤髪の男はもう一度座り込み、地面に押し倒されている○○を覗き込んだ。
「姉ちゃん、大ピンチだな。助けが必要だな?」
にかりと赤髪の男が○○に笑いかけた。
「っ!は、はい!」
○○は天の助けだと頷いた。
「よし!つー訳でさ、俺に譲ってくれる?この人」
赤髪の男が楽しそうに笑った。
「っざけんなぁ!!!」
赤髪の男に一番近い不良が殴りかかった。
「うりゃ!!」
「ぐはっ!!!」
赤髪の男は繰り出された拳を軽く弾き飛ばすと左拳を叩き込んだ。
「なっ!」
「くそっ!」
「お!好戦的だな!そう来なくっちゃな!」
赤髪の男は楽しそうに笑うと襲い掛かる不良達を次から次へと殴り飛ばし、蹴り倒した。
「つ、強い!」
「俺、聞いたことある!」
「なんだ?」
「赤髪のシャンクスの話!」
その言葉に不良達がぶるりと震えた。
「あれって、都市伝説じゃねェのかよ!!」
「知らねェよ!現実に今やられねるじゃねェか!」
「なら、勝てる訳ねェよ!」
「に、逃げろ!!」
残った不良達が戦意喪失とちりじりに逃げ出した。
「なんだよ!もうおしまいかー」
赤髪の男は少し不服そうに笑うとズボンのほこりを払った。
「大丈夫か?」
「は、はい」
○○は圧倒的強さの男にびくりとした。
「怖い思いしたくなかったら、こんな道通るなよー」
赤髪の男は怖がられた事に苦笑しつつ、立ち去ろうと背を向けた。
「あ!待って!!!」
○○はその背中に声をかける。
「ん?」
驚いて振り返ると座ったまま○○は頭を下げていた。
「礼なんか要らねェよ」
赤髪の男が苦笑しながら言う。
「こ、腰が抜けて立てないの!!」
「はっ」
○○の赤い困った顔を見て赤髪の男が動きを止める。
「だっはっはっはっはっ!!!!」
赤髪の男は突然大笑いを始める。
「姉ちゃん面白い人だな。普通俺が怖いだろ?」
赤髪の男は○○の側まで行き、目線を合わす様に腰を下ろした。
「え?」
○○は不思議そうに目を大きくした。
「え、って……」
「何で貴方が怖いの?助けてくれたのに」
○○は心底不思議そうにした。
「…………ははは、参った」
赤髪の男はクスクスと楽しそうに笑った。
「ほら、運んでやるからおぶされ」
赤髪の男は背を向けてしゃがみ直した。
「お手数おかけします」
○○は素直に赤髪の男におぶさった。
「…………柔けェ」
「え?」
「いや、何でもないよ」
赤髪の男は歩きながら笑った。
「本当にありがとうございます」
「いやいや」
「ヒーローみたいでした?」
「ヒーロー?冗談じゃねェ俺はヒールのが似合ってるよ」
○○の言葉に赤髪の男が苦笑した。
「カッコイイですね!爽やかな悪者!」
「そうか?ありがとよ」
○○はのんきに笑った。
「ほら、着いたよ。どうだ?立てるか?」
駅に着くと赤髪の男は○○をそっと下ろした。
「はい、本当にありがとうございました」
○○はぺこりと頭を下げてから明るい場所で赤髪の男をまじまじと見た。
「そんなに見られたらさすがの俺も照れるんだけど?」
赤髪の男はにかりと笑った。
「ど、どうしよう」
「ん?」
○○は顔を赤くして赤髪の男を見上げた。
「す、好きになってしまいました」
○○は思った事を口にした。
「………………」
赤髪の男は口をあんぐりと開けて固まった。
「す、スミマセン。でも、こう、胸が……」
○○はギュッとなる自分の胸を抱いた。
「…………俺はシャンクス。あんたは?」
赤髪の男ーーシャンクスは真剣な顔で名乗る。
「あ、○○です」
○○はシャンクスと口の中で繰り返した。
「○○か」
シャンクスはぐっと○○に近付いた。
「俺も好きになったかも」
純粋と不良「これからは宜しくな?○○!」
「え?え?!」
「えって何だよ。付き合うんだろ?」
「え、えぇ?!」
「なっ!嫌なのか?」
「ま、まさか!そんな!」
「なら、宜しくな!」
「うん!宜しくね!」
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