勇気を出して

今、この島に停泊中の海賊船は泣く子も黙る四皇赤髪のシャンクスが率いる赤髪海賊団。

「ここには来ないものね」

○○はショーケースを拭きながらぽつりと呟く。

ここは○○が営むケーキ屋さん。
食べる場所はなく、テイクアウト専門店。

そんな店に海賊達は見向きもしないのは当然の事。

「私も酒場とかやれば良かったかな」

○○はため息混じりに声を出す。

昔、もう10年以上前の頃。
彼女は一度赤髪のシャンクスに会っている。
○○が海賊に襲われていた時にたまたま通りかかって助けてくれたのだ。

きっと彼は覚えていないが、それでも○○はシャンクスにきちんと礼が言いたいと常々思っていたのだ。

そして、チャンスは巡ってきた。

しかし、○○とシャンクスが会うには○○が自分から動かなくてはならない。

「…………仕方ない。夜に酒場にケーキでも持って行こう」

それでついでに会えれば良いや。と○○はブランデー入りのケーキを焼き始める。






酒場からは宴の様な笑い声が聞こえてくる。
○○はドキドキしながら酒場のドアを開ける。

「こんばんはー」

○○は小さく声をかけながら素早く辺りを見回す。
彼女に気付かずに海賊達は騒ぎ続ける。

「あら!○○ちゃん!いらっしゃい」

酒場の女主人が声をかける。

「これ、今日焼いたので良かったら」

○○はブランデーケーキをカウンターに置く。

「良い匂いだな」

「へ?っ!!」

隣から男の声が響く。
振り返るとそこにはお目当てのシャンクスがいた。

「だろう?○○ちゃんのケーキは絶品なんだよ!」

女主人がシャンクスに笑いかける。

「そうなのか!是非食べてみてェな」

シャンクスは○○を振り返る。

「……」

○○は口を開けず、真っ赤になって俯く。

「あれ?俺なんか悪い事言ったか?」

シャンクスは不思議そうに○○の顔を覗き込もうとする。

「やめておやりよ!この子は照れ屋なんだよ」

女主人はシャンクスに苦笑する。

「そうなのか。悪いな」

シャンクスは○○の頭をぽんぽんと叩く。

「っ!!」

○○は驚きと共に顔を更に真っ赤にしてシャンクスを見上げる。

「…………あれ?お前、前に……」

シャンクスは○○の顔を見て不思議そうに声を出す。

「っふわぁ!!」

○○は真っ赤な顔のまま酒場を逃げ出した。

「…………なんだ?」

シャンクスは不思議そうに○○が出て行った先を呆然の見た。







「はぁ……」

夜が明けて、○○はいつもの様にケーキの並んだショーケースを拭きながらため息をもらす。

「せっかくのチャンスだったのに……」

○○は自分が情けなくなり、またため息をもらす。
せっかく、シャンクスから話しかけてくれたのに、それを自分で無駄にしてしまったのだ。
「昔助けて貰ったんです。ありがとうございました」と言えば済む事なのに。○○は小さくまたため息をついた。


ーーカランカラーン


「あ、いらっしゃいま……せ」

来客を知らせるドアについた鐘が鳴り振り返るとそこにはシャンクスが立っていた。

「よう!やっぱりこの店か!」

シャンクスはにかりと楽しそうに笑った。

「へ?あの……」

○○は驚きながら慌ててショーケースの裏側に回り込む。
そして、ショーケース越しにシャンクスを見た。

「いやさ、昨日のブランデーケーキさ!無理言って食わせてもらったんだよ!そしたらすげェ旨くてさ!だから、他のも食ってみたくてな!」

シャンクスはにかりと笑うと、ショーケースを覗き込む。

「あ、ありがとう……ございます」

○○は真っ赤な顔で何とか礼を言う。

「なァ!オススメあるか?」

「えっと、季節の木の実を使ったケーキ。後、チーズケーキには少し自信があります」

小さな声でポツポツと説明する。

「あー、じゃあ、それとー」

シャンクスはショーケースをじっと見つめながら選ぶ。
○○はそれらのケーキをトレーに乗せていく。

「なァ!食うとこないか?船に持って帰ったらすぐにあいつらにバレて食われちまう」

シャンクスは苦笑気味にトレーに乗ったケーキを指差す。

「あ……それなら」






店のドアに「close」の看板を出し、○○はシャンクスを自宅に招いた。
恥ずかしがり屋で人見知りな○○にしては大胆な行動だ。

「悪いな!茶まで淹れて貰って!」

シャンクスは嬉しそうにテーブルに並べられたケーキと紅茶を眺めた。

「あの……いえ。食べてみて、ください」

○○は俯き加減で進める。

「ん!!旨い!!この木の実の酸味と生地の甘さがちょうど良いな!」

シャンクスは嬉しそうに叫ぶ。

「良かった」

○○はホッとしたようににこりと笑った。

「……」

その笑顔にシャンクスはもぐもぐとケーキを食べながらじっと見る。

「え?あの、なにか?」

○○は戸惑った様に自分の顔を手で触りながらシャンクスから視線を外す。

「やっぱり、前に会った事ないか?」

シャンクスはチーズケーキを口に入れ「旨い!」と叫ぶ。

「あ、あの!」

「ん?」

「前に……じゅ、10年くらい前に……その、助けていただいたんです!」

○○は真っ赤な顔のまま勢い良く言葉を口にする。

「あ?あ!そうか!あの時の!!あれだろ?海賊に襲われててた!」

「そ、そうです」

シャンクスは思い出した様に笑い、○○が首を縦に振る。

「あん時も確か顔真っ赤だったよな!あの顔が可愛くて覚えてる」

シャンクスはにかりと笑った。

「っ?!……あの、あの時は。ちゃんとお礼も言えず、すみませんでした」

ぺこりと頭を下げる。

「いや、なに!しかたねェよ!怖い思いしたんだしな」

シャンクスは手をヒラヒラと振る。

「ほ、本当に、その、あ、ありがとう、ございました」

○○はぺこりと頭を下げる。








勇気を出して







「…………やっぱり可愛いな」

「へ?」

「なァ!海賊やらねェか?」

「……はい?」

「俺、お前が気に入った!」

「いや、か、海賊なんて……」

「大丈夫だって!俺がいる!」

「いや、あの、でも……」

「よし!ここは海賊らしく、拐うか!」

「へ?き、キャッ!」

「へへ!これから宜しくな!○○!!」

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