豆まきは愛を込めて
「あ!ロー!」
○○が嬉しそうにローを見付けると手を振った。
「うぜェ、消えろ」
「あ、相変わらず辛辣だね」
あまりの言いぐさに○○から苦笑が漏れる。
「それでもお前は俺から離れねェだろ」
ローはニヤリと笑う。
「ま、まぁね。でもその言い方私がマゾみたいだから止めて!」
○○がため息混じりに言う。
○○はローに並んで歩く。
「違うのか?」
「違うよ!」
「じゃあ、俺限定か」
「………………そうなるのかな」
ローの満足気な顔に○○は疑問を抱く。
「いやいや、私はローに愛して欲しいんだってば!」
○○はそう思い返す。
「だから、抱いてやるって何度も言わせんな」
ローは呆れた顔で言う。
「だから!それじゃあ意味がないんだって!ってか、ローは人の愛し方を知らないの?」
○○は拗ねた様に声を出す。
「知らねェな。それじゃあ何が良いんだよ」
ローはやれやれと聞く。
「だから!デートとか!」
「ふーん?」
「映画とか、遊園地とか行くの!」
「で、帰りにホテルだろ?」
「うー」
○○は小さく唸る。
「デートの流れで行くのは良いよ?でも、それ目的が嫌なの!」
「男なんざ、皆それ目的だ」
ローがため息混じりに言う。
「もー!」
いつもの押し問答が終わる頃、ローのマンションに着いた。
「ところで、それ何だ?」
ローが○○の持つスーパーマーケットのビニール袋を指差す。
「これ?」
2人並んで玄関へ入る。
「へへ!豆まきの豆!売ってたから!」
○○はスリッパを履き、豆を袋から取り出した。
「節分か」
ローは着ていたパーカーを脱いでクローゼットにかけた。
「そうそう!ほら!鬼のお面!」
もうひとつ入っていた紙で出来た鬼の面を出す。
「…………お前やれよ」
「えー!!!」
ローの言葉に○○は不服そうに声を出す。
「あのな、この部屋を汚すんだろ?なら、それ相応の事をしろ」
ローがどかりとソファーに座る。
「…………わかったよ」
○○は仕方なく頷くとキッチンへ向かう。
「珈琲」
「はーい」
○○が頷いた。
珈琲メーカーをセットする。
その間に升と輪ゴムを用意する。
こぽこぽと珈琲を2つ用意し、ローの待つソファーへ向かう。
「やっぱり寒いね。コタツ欲しくない?」
「部屋が汚れるから要らねェ」
ローが珈琲に口を付ける。
「はい!」
○○が升に買ってきたら豆を入れる。
「これ、佐野厄除け○師でお祓い済みだって!」
パッケージに書いてある売り文句を読み上げる。
「へぇ」
ローが興味無さげに珈琲をすする。
「やろう?豆まき!」
はい!と豆の入った升をローに差し出す。
「ほら、○○はこれな」
ローがニヤリと笑って鬼の面を差し出した。
「…………うー」
嫌そうにするが、すでに輪ゴムで面は完成していた。
「はい」
○○が鬼の面をする。
「鬼は外ー」
ローはやる気の無い声で豆を○○に投げる。
「うう、痛い」
○○は崩れ落ちる。
「痛くねェだろ。軽く投げたんだ」
ローはぱらぱらと○○に豆をかける。
「ううぅ、こんなに可愛い鬼に苦手な豆を投げ付けるなんて、貴方は鬼より鬼らしいですね」
面をずらし、うるうるとした目でローを見つめる○○。
「…………」
ローはしばらく考える素振りを見せてからニヤリと笑った。
「あァ、俺はどうやら鬼より鬼らしいみたいだな」
「へ?ろ、ロー?っ痛っ!」
ローは○○を床に押し倒した。
○○の後頭部が鈍い音を立てた。
「じゃあ、鬼でも喰らうか」
あーんとローは大きな口を開けた。
豆まきは愛を込めて「ろ、ローは鬼は鬼でも鬼畜だ!」
「ほう、それはなかなか上手いな」
「嫌だ!その顔嫌だ!」
「楽にしろ」
「何それ、怖い!」
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