亭主元気で留守が良い(中編)
「お前さんが○○かい?」
○○が庭で小さな畑を耕していると、海賊団の船長が話しかけてきた。
「…………えぇ」
何となく嫌な気配を感じて、緊張気味に頷いた。
「へぇ、あんたがね」
船長は無遠慮に庭に入り、○○に近付く。
「何かご用?」
○○は真剣な顔付きで船長を見た。
「今、俺達の船に張ってある海賊旗はこの前倒した敵の海賊旗なんだよ」
船長は突然そんな事を言いながら港の方角を見た。
「だから、今略奪行為をしても俺達は捕まらねぇな?」
船長はニヤリと下品な笑顔を見せた。
「…………何が言いたいの?」
○○は船長を睨み付ける。
「あの、赤髪の女ならヒューマンショップで高く売れるだろうよ」
船長は声のトーンを落とした。
「それか、ここには若い女も多いしな。その全員を売っても良いんだぜ?」
なぁ?と舌舐めずりをした。
「…………卑しい」
○○は嫌そうに顔を歪めた。
「俺達は海賊だぜ?最高の褒め言葉だ!!」
がははははと船長は高笑いをした。
「お前をこれから船に乗せる。村の奴等には気付かれない様に自分から乗ると言え。断ればこんな島簡単に沈めてやる」
ニヤリと船長は笑った。
「一応聞くけど、ここ、赤髪海賊団の縄張りよ?」
○○は恐怖を感じたが、自分が行かなくてはこの島の平和は無くなってしまうのだ。
「あぁ!分かってる!四皇なんざ怖くも痒くもねぇな」
船長ががははははと叫んだ。
「え?○○!あんた海賊と一緒に行くの?」
元ウエイトレス仲間が驚いて声を出す。
「うん。ここを出たら大頭との関係もなくなるしね」
○○は笑いながら言うと右手で人差し指を立て、くいっと曲げた。
「っ!!!そう。わかった。気を付けてね」
ウエイトレス仲間は真剣な表情を一瞬見せたがにこりと笑った。
「うん。ありがとう!後の事宜しくね」
○○はにこりと笑った。
「おい!行くぞ!」
「はい」
○○は海賊団の船に乗せられた。
「まさか○○が自分からこの島を出ていくなんてね」
おばちゃんがガッカリした様に声を出した。
「まさか!早く赤髪の大頭に知らせなきゃ!」
ウエイトレス仲間が叫ぶ。
「え?」
「あれ、指をくいってやるの酒場では『変な客に絡まれてる。助けて』の合図なの!」
「そ、そりゃ大変だ!!」
村人達は慌ててでんでん虫に群がった。
出航して数時間。
○○は鍵のかかった檻に入れられていた。
腕には枷も付けられている。
ーーガチャ
「やぁやぁ、どうだね?居心地は?」
船長と数人の部下がニヤニヤと部屋に入ってきた。
「最悪ね」
○○は吐き捨てる様に言う。
「うーん。しかし、何で赤髪はお前を選んだんだろうな?酒場には美人も多かったが」
船長が不思議そうに地べたに座る○○に合わせてしゃがんだ。
「さぁ」
○○はツンと答える。
「まぁ、良い。ヒューマンショップまでは長旅だ。仲良くヤろうぜ」
ニヤニヤと船長が下品な笑いで檻の鍵を開けた。
○○の体がゾワリと震える。
「私は赤髪海賊団の大頭、シャンクスの妻です。私に手を出したらどうなるか……」
「それはあの島の中での話だろ?」
船長がニヤリと笑った。
「聞いたぜ?あの島は独自の戸籍で縛られて、婚姻関係もあの島だけに通用する物なんだろ?一歩でも出てしまえばそれは無効。ちょっと大袈裟なおままごとだ。なら、赤髪もお前を助けるためにわざわざ来るかね?」
船長の言葉に部下達が馬鹿笑いをする。
「来ねぇよ!あの島に来た時は新しく女囲うだけだろうよ!!」
「げはははは!!」
「………………」
男達の馬鹿笑いに唇を噛んで耐えようとする○○。
本当は自分が良く分かっていた。
きっと彼は助けになど来ない。
私は数ある囲っている女の一人にしか過ぎないのだ。
それでもーーー
「ほら!」
「嫌ぁ!!」
船長に檻の中で押し倒され、全身が拒絶反応を起こす。
そして、思い知らされる。
自分がどれ程あの男に溺れていたかを…………。
「良いぞ!泣き喚け!!」
ニヤニヤと笑うと男達に吐き気すら覚える。
嫌だと縛られていない足で蹴ろうとしたが、容易く足を捕まえられた。
伊達に新世界まで来た海賊団ではない。
女一人の抵抗など赤子の手を捻るように簡単な事だった。
破れる服、痕の付く肌。
「や、だ!しゃんく」
ーードーン
「っ?!」
「なんだ?!」
「どうした?!」
凄まじい爆音と揺れ、そして壊れる音が響く。
「船長!!!あ、ああああ赤髪海賊団の船が!!!」
「な、何ぃぃ?!!」
海賊が異変を知らせに走ってきた。
「…………大頭が?」
○○が不思議そうに声を出した。
「来い!お前は人質だ!」
船長が無理矢理○○を立たせて腕を引く。
○○は乱れた服装のまま引きずられる様に走った。
○○は我が目を疑った。
確かにそれはレッドフォース号であった。
「赤髪ぃ!!!」
船長がレッドフォース号に向かって怒声をあげた。
「よう!お前だな?俺の縄張りで暴れたのは」
シャンクスがからりとした笑顔を見せる。
「俺は暴れてねぇよ!」
船長が言い返す。
確かにあの島では良い海賊団を演じていたし、海賊旗も違ったのだ。
「なんだ?そうなのか?」
シャンクスは少し残念そうな声を出す。
「お前の横にいる女は俺の嫁だな?」
シャンクスが○○を指差す。
「ここはあの島じゃねぇんだ!お前の嫁でもなんでもないだろう!」
船長がニヤリと言い返した。
「……そりゃ、そうか」
シャンクスがうーんと考えてから頷いた。
「…………大頭……」
○○はがっくりと項垂れた。
「まぁ、なんだ。あの島の連中に助けを求められたしな。取り合えずやられてばかりは腹が立つな。沈めろ」
シャンクスはくいっと手を下に曲げた。
「え……」
○○が驚いている間もなく、ドーン、ドーンと立て続けに大砲が船を直撃した。
衝撃に○○はその場に座り込む。
「……大頭……」
○○は絶望に支配された。
やはり、自分を助けに来た訳ではなく、自分の物にちょっかいを出されたのが悔しかっただけの様だ。
「本当にお前は役立たずだな!!」
船長は○○の胸ぐらを掴んだ。
完全なる八つ当たりだった。
「おい」
すぐ近くで低い声がして船長と○○が振り返る。
「あ、あああああ赤髪ぃ!!」
「おおがしら……」
いつの間に跳び移ったのか、シャンクスがすぐ近くに立っていた。
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