亭主元気で留守が良い(前編)
ここは新世界の中では珍しく、気候の良い島。
そして、赤髪海賊団の縄張りでもある。
「赤髪海賊団が来たぞー!!」
灯台守りの男が叫びながら村の大通りを行く。
「ゲッ……また来たの?」
○○はため息混じりに嫌そうな声を出した。
「何言ってるの!あんたの旦那でしょ?出迎えに行きなさい!」
村のおばちゃんに叱咤される。
「いや、ただ紙切れ一枚の関係だし……」
○○は少し反論する様に声を出す。
「つべこべ言わずに行く!あんたが機嫌損ねてここが赤髪の縄張りじゃなくなったら、こんなに平和に暮らせないのよ!!」
おばちゃんは怒りながら○○の尻を叩いた。
「っうー!わかった!わかったわよ!行けば良いんでしょ?行けば!」
○○は「こうなりゃ、自棄だ!」と言わんばかりの足取りで港へと向かった。
遡る事、数年前。
まだ○○が酒場で働いていた頃。
赤髪海賊団の奢りと言う事で数人のウエイトレスと共に酒を飲んだ時の事だ。
「良い?今から早飲み競争して、一番遅かった人がこの紙に書いてある事をあの大頭に言う事!」
ウエイトレスの一人がにこりと笑った。
そして、ジョッキ一杯の酒を一番遅く飲み終えた(数秒の差)○○が真っ赤な顔と紙切れを持ってシャンクスの目の前に立ち、
「私を貴方の嫁にして」
と叫んだ。
呆気に取られた大頭のシャンクスと大爆笑の取り巻き。
○○は恥ずかしさから頭を下げた。
「あァ、良いよ」
まさかのシャンクスの答えに○○は目を丸くして、回りの人間達も酒を吹き出した。
「行こう」
シャンクスに手を引かれ、○○はそのまま宿屋に連れて行かれた。
あぁ、そう言う事か。
まぁ、四皇に抱かれたとなれば箔が付くし良いかと一夜を共にした。
しかし、翌朝シャンクスに村役場に連れて行かれ、婚姻届を書かされた。
この婚姻届はこの島独自の物で、この島を一歩でも出てしまえばそれは無効。
だから、シャンクスに取っては全く関係ないのだが、この島に住む○○にとっては違う。
不倫や浮気は罪になり、○○はシャンクスが離婚届を出さない限り他の人間と結婚出来ないのだ。
「お!○○!!元気にしてたか?!」
港に出迎えに来た○○を見付けてご機嫌なシャンクス。
「うん。そりゃ貴方が来る前までは」
○○は少々うんざり気味に声を出す。
「だっはっはっ!!相変わらずつれねェなァ!!」
シャンクスは上機嫌で笑うと○○の肩を抱いた。
「おう!お前達!後は好きにしろ!ベック、任せた」
シャンクスはそうクルー達に言い残すと、慣れた足取りで○○の家へと向かう。
「はい、お茶」
「さんきゅ!」
○○はシャンクスに熱いお茶を出した。
「ほい、今回は3ヶ月だからな。色付けて100万ベリーな」
シャンクスはポンッと札束をテーブルの上へ置く。
「……ありがたく頂戴いたします」
シャンクスは月30万ベリーを○○へ生活費として出していた。
「家に金を入れるのは夫の役目だろ?」と冗談とも本気とも取れる事を言うのだ。
○○の住む家もシャンクスが結婚した時に買い与えた物なのだ。
「ねェ、そろそろ私達」
「お?ガキでも作るか?」
シャンクスはニヤリと笑った。
「じゃなくて……」
○○は何度も「別れよう」と言おうとするも、四皇である男の機嫌を損ねて殺されてしまうのも怖くて、結局は何も言えないでいた。
「○○、浮気はしてないだろうな?」
シャンクスがニヤリと笑う。
「も、もちろん」
シャンクスのこの顔に○○は弱かった。
「貴方は何人抱いてきたの?」
○○はいつもと同じ言葉を口にする。
「俺にはお前だけだよ」
なんて、臭い台詞を吐きながらシャンクスは○○に口付けるのだ。
抱いてないとは言わない。
これ程の男を女が放っておくはずもない。
きっと私のような女が至る所にいるんだと○○は思っていた。
「はぁ……」
結局、今回も別れを切り出せぬままシャンクスは航海へ出て行った。
シャンクスは決して女を船には乗せない。
ましてや愛した女なら尚更で、危険な目には合わせられないと言っていた。
「別に連れて行って欲しい訳じゃないんだけど。こうやって放置するなら心は解放して欲しいな」
抱かれるのが嫌な訳ではない。
でも、心を縛られてしまうと、他の人を好きになれない。
せめて、婚姻関係を切ってさえくれれば良いのに。
○○はそう思いながら海を眺めていた。
「…………なに、あれ」
沖に見えるのは間違いなく海賊船。
しかも、赤髪海賊団の船、レッドフォース号ではない。
「っ!知らせなきゃ!」
○○は灯台守りに走り、知らせ、鐘を鳴らした。
「こ、ここは赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団の縄張りです!」
村長がそう声を張り上げた。
「分かってる。酒と食料を積みたい。金ならある!!」
海賊達はそう叫んで上陸してきた。
それならばと村人達は酒や食料を用意した。
割りと大人しい海賊団達は数日滞在し、また航海へと出掛ける準備をした。
「ところで、この島には何か特別なもんでもあるのかい?」
船長が酒場のウエイトレスに聞く。
「え?例えば?」
「赤髪がハマった酒とか、上質の金が採れるとか」
「いいえ!そんな事ないですよ」
ウエイトレスは不思議そうに首を振る。
「赤髪がこの島を贔屓にしてるのは有名でさ。何がそんなに良いのかと思えば、特にこれと言って名物がある訳でもなし」
船長が不思議そうに酒をあおる。
「あら!なら○○だわ」
くすりとウエイトレスは笑った。
「○○?」
「ええ。○○と大頭は夫婦ですもの」
「へぇ!そいつは初耳だ」
ウエイトレスの言葉に船長はニヤリと笑った。
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