言われて気付く恋もある

「お!おおおおお頭!!!」

「おっ!何だよ?○○!どもり過ぎだぞ」

我等が赤髪海賊団船長シャンクスが笑いながら○○に近付いた。

「あ、あのですね!」

「ん?」

「そ、その……」

「なんだ?進路先に何かあるのか?」

準航海士である○○の焦る顔にシャンクスは自然と顔が固くなる。

「へ?い、いやいやいや!いたって順調であります!!」

○○は海軍の様にピシリと敬礼をする。

「そうか。なら、どうした?」

シャンクスはホッとひと安心した所で○○に聞き返す。

「あの、その、……………………好きです」

「………………ん?」

「お、お頭の事を……だ、男性として……好きです」

「………………」

○○の言葉に面を喰らった様にシャンクスは黙る。

「…………悪ィ。○○の事はクルー以上には見れねェ」

「っ!!!…………はい」

シャンクスの言葉は○○の予想したものだったが、それでもショックを受ける。

「あの!すみませんでした!気にしないで下さい!そ、それであの」

「船を降りるとかは言わないよな?」

○○の声をシャンクスが遮る。

「へ?」

「お前は俺の船にとって大切な航海士だ。その、なんだ。……振られたからって、降りないでくれよ」

シャンクスは不安そうに○○を覗き込む。

「っ………………は、はい」

まさしく、船を降りようと思っていた○○はシャンクスに先手を打たれた。

「分かりました!女とは見られなくても、お頭に必要とされている限り頑張ります!宜しくお願いします!!」

○○はぺこりと頭を下げた。

「おう!宜しく頼むな!」

シャンクスはにかりと笑うと○○の頭をぽんぽんと叩いた。

「っ!!!で、では!失礼します!!」

○○は慌てて走り去る。





○○はその日、失恋の痛みに泣き


シャンクスに必要とされている事だけを心の支えにした








それから数週間。
ようやく船は次の島へと着いた。

「今回は長かったな」

ベックマンが煙草に火をつけながら言う。

「はい。久し振りに甘いお酒が飲みたいです!」

○○はにこりとベックマンに笑いかける。

「あァ、そんなモンこの船には無いもんな」

ベックマンは苦笑する。

「そうなんですよ!別にラム酒やビールが嫌いな訳じゃないんですけとねぇ。たまには果実酒とかカクテルとか飲みたくなります!」

「よし、なら我が準航海士殿にたまには奢ってやる」

「へ?」

「最近元気もないだろ」

「っ!!!」

さすが、副船長。
○○の空元気を見抜いていた様だ。

「…………露骨でした?」

「いや。気付いてる奴は他にいないだろう」

ベックマンは紫煙を吐き出す。

「そうですか」

○○がホッとため息をつく。

「何があったかは聞かないが、少しでも元気になれるようにな」

ベックマンはニヤリと笑う。

「……ありがとうございます」

○○は泣きそうになるのを堪えて笑った。

「楽しみにしてます!!」

「あァ」

「じゃあ!着替えて来ます!」

「行ってこい」

○○は部屋へ向かって足早に去った。







「………………」

島に着き、着替えを済ませてベックマンのもとに戻ると、その隣にはシャンクスの姿もあった。

「お、○○、来たな。可愛いの着てるな」

シャンクスがにかりと笑いかけてきた。

「……変ですか?」

「似合ってる。珍しいな!そんな格好」

元々シャンクスと(もしも上手く行った時に)出掛ける為に前の島で買った服を着ている。
ちょっとお洒落なミニスカートのワンピース。

シャンクスに「似合ってる」と言われるのは嬉しい。
ダメだと分かっていてもトクンと胸が鳴る。

「あ、ありがとうございます。えっと、あー、ほら!せっかくの副船長とのお出掛けですからね!これくらいのお洒落はしないと失礼かと!!」

○○はあははと誤魔化すように笑う。

「なら、行くか」

「はい!」

ベックマンに促され、3人は船を降りて街へ向かう。


○○は振られても、今でも想いを寄せるシャンクスが一緒で、気分は少し落ちる。



理由は




「赤髪海賊団の船長ってもっと取っ付きにくい人かと思ってましたわ」

「本当に、副船長さんも男前」

シャンクスとベックマンは酒場であっと言う間に美女に囲まれた。

いくら、振られてもシャンクスの回りに女の人が群がるのはやはり見ていて切なくなる。

「はぁ……」

「大丈夫か?○○」

○○のため息に気付いたベックマンが声をかける。

「へ?大丈夫ですよ!」

「どこか調子でも悪いのか?」

「いえ!元気ですよ!お酒も美味しいですし!」

○○は楽しそうに笑うとぐびりと甘い酒を飲み干す。

「失礼いたします」

タイミング良くウェイターが○○の前にカクテルを置く。

「え?頼んで無いですよ?」

不思議そうにウェイターを見上げる。

「あちらのお客様から」

ウェイターは置くに座る男を指差す。

その男は○○に向けて手を振る。

「……」

○○はぺこりとその男に頭を下げる。

○○はグラスを持ち上げる。

「ん?」

紙のコースターに何か書いてあるのをみつけた。

「『少しお話しませんか?』…………き、気障だ!」

○○はクスリと笑う。

「……なるほど」

ベックマンがコースターを覗き込む。

「行くのか?」

「うーん。取り合えずトイレに行ってきます」

ベックマンの言葉に笑いながら答え席を立つ。






トイレから出るとシャンクス達のテーブルには美女が増えていた。
なので、○○は先程の男の席へ行く。

「こんばんは」

「こんばんは。まさか、来ていただけるとは」

「そうですか?」

○○はにこりと男の隣へ座る。

男はなかなかの話上手で2人は盛り上がる。
このお掛けで少しの間シャンクスの事を忘れていた。




「ねぇ、抜けない?」

男は○○の耳に唇を寄せて聞く。

「うーん」

○○は迷う。

○○はシャンクスをチラリと見る。
シャンクスは美女達と楽しそうにお喋りをしこちらなど見ない。
ベックマンはチラリとこちらを見てニヤリと笑う。

「…………良いよ」

「じゃあ」

男は笑顔で○○を促し席を立つ。






「……ここで?」

「もえるだろ?」

○○は人気の無い廊下の壁に押さえ付けられる。

「うーん……どうかな?」

○○は困った様に笑う。

「大丈夫だって」

男はニヤリと笑う。

「っ!!」

急に男は泡を吹き、白目になって崩れ落ちる。

「ちょっ!え?覇気?」

○○は慌てて男を見る。

「………………お頭?」

思い当たるのは我が船長シャンクスしかいない。覇王色の覇気など使える人間など限られるからだ。

「…………お前な……」

呆れ顔のシャンクスが姿を現す。

「俺の事好きとか言っておいて、この程度の男にフラフラするなよな」

シャンクスの声はいつもの軽い調子だが、顔は怒ったように真剣だった。

「へ?も、もうお頭には振られてるので、私が誰と何しようと関係無いじゃ無いですか!」

○○は拗ねた様に声を出す。

「関係あるさ!この程度の男と俺とを一緒にするな」

シャンクスはがんと右手で○○の頭上の壁を叩く。

「は?」

「俺じゃないなら、俺と同等な男に惚れろ」

シャンクスは○○に思いきり顔を近付ける。

「っ!?……って!四皇並の男って選びようが無いじゃ無いですか!」

○○は間近なシャンクスの顔に身体中を熱くさせる。
それを隠すように大きな声を出した。

「あァ、そうだな」

シャンクスはニヤリと笑う。

「なら、俺に一生惚れてろ」






言われて気付く恋もある







「……な、なんて我が儘!!」

「わが?!」

「何ですか?!それ!私は一生恋もするなと?!」

「いや、じゃなくて……」

「私だって彼氏ほしいです!イチャイチャしたいですー!」

「だから、お」

「お頭」

「なんだ?」

「嫌いです」

「っ!!?」




とっとと素直に




「早く告白でもしろ」

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