惚れるが負け

ジュラキュール・ミホーク。
王下七分海にして、世界一の大剣豪。

彼は誰とも組まず、一匹狼として小さな棺桶船でただ一人航海をする。


そんな彼は、今悩みを抱えていた。







「………………」

彼が寝倉にしている古城に帰り、その無惨な光景を見て音のないため息をつく。

「あ!お帰り、鷹の目」

本来ならその部屋にとても似合うはずの豪奢な赤いソファの上に一人の女性がだらしなくうつ伏せで本を読んでいた。



彼の悩みの種はこの○○だ。



「…………」

彼女の言葉に返事をせず、部屋を見渡す。

ごみがあちこちに散乱し、食べっぱなしの皿やコップもそこかしこに。

脱ぎっぱなしの服や下着もその辺に散らばる。



「…………何故、こうなる」

ミホークはその鋭い目を○○に向ける。

「えー……前に片付けたら怒ったじゃない」

悪びれもせずに本のページをペラリと捲る○○。



前に同じ事を言ったら、彼女は頑張って片付けた。

しかし、すればするほど、ガラスが割れたり、秘蔵のワインボトルが無惨な姿になっていたりと、それはそれは見る事の出来ない状態になっていた。

「……まァ、それはそうだな」

ミホークはそう言うと黙々と部屋の片付けを始める。

「変な猿がいてこの城から出られないし、この本にも飽きたわ」

○○はぽいとミホークが綺麗にした床に本を投げ捨てた。

「…………」

「あら?怒った?」

ミホークの鷹の目と称される鋭い視線を受けてもクスクスと笑う○○。

「…………いや」

「良いわよ?私を手放せるならね」

否定の言葉を口にしたミホークにクスリと妖艶に笑う○○。

「料理も出来ない。片付けも出来ない。大して話も面白くない」

○○は立ち上がるとミホークにゆっくりと近付く。

「捨てちゃえば?こんな女」

○○はクスクスと笑いながらミホークの首に腕を巻き付けて口付ける。

「ね?」

美しく微笑み可愛らしく首を傾ける。

「それが出来たら苦労はないな」

ミホークはニヤリと口に笑みを浮かべ、自らも○○に口付ける。


それは生易しいものではなく、呼吸さえ全て奪うほどのそれ。



「ふふ、なら、諦める事ね?」

○○はクスリと楽しそうに声を出す。

「そう容易く諦められるものではない」

ミホークの言葉に○○はキョトンとミホークを見上げる。

そして、楽しそうに笑い出す。

「そう?なら、分担制ね。得意な人が得意な事をするってのはどう?」

○○はにこりと笑う。

「……」

「まず、片付けと、掃除と洗濯は鷹の目よね?」

「……」

「私、料理も出来ないし」

「俺も出来ん」

「なら、買ってきてね」

○○はにこりと声を出す。

「それから、ゴミ捨ても外に出られないから鷹の目ね!えっと、それから」

○○は可愛らしく首を傾け、指を折りながら次々と声を出していく。

「待て」

「ん?」

「ならば、お前は何をするんだ?○○」

「私?」

○○はにっこりと妖艶に笑う。

「私は鷹の目を気持ち良く癒してあげる係りね」

クスクスと笑いながらミホークに口付ける。

「ならば、してもらおう」

ミホークは○○を横抱きに抱き上げる。

「あら?お疲れ?」

「あァ、誰かのせいでな」

ミホークはニヤリと笑う。

「そう?私のせいなら、ちゃんと責任は取るわ」

○○はミホークの首に巻く腕に力を込めて抱き付いた。

「そうしてくれ」









惚れるが負け










「ふふ、鷹の目可愛い」

「お前の方が可愛いであろう」

「そう?」

「あァ」

「ありがとう」

「あァ」

「鷹の目」

「何だ?」

「愛してるわ」

「………………俺もだ」

「ふふ、嬉しい」

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