わんこな君
疲れた……。
早く帰ってお風呂入って……。
「ただいまー」
玄関を開け、中に入る。
「○○!!お帰りー!!!」
中から出て来たのは大学生だと言うエース。
性別・オス。
「はぁ、今日も疲れたぁ」
「風呂沸いてるぞ!入る?」
エースがにかりと笑いながら聞いてくる。
「あー、うん。入る。偉いねぇ、エースは」
よしよしと背の高い彼の頭を撫でるのも一苦労。
エースは少し頭を下げて撫でやすいようにする。
「だろ!あ!夕飯も作ったぞ!」
エースはエッヘンと胸を張る。
「本当?!凄く嬉しい!!!」
大袈裟に喜んであげると「まぁな」と少し照れた様に笑う。
「じゃあ、温め直しておくから、先に風呂入って来いよ」
「そうさせて貰うわぁ」
エースに促され、私はバスルームへ向かった。
「わ!炒飯!!良い匂い!!」
ローテーブルに並べられた炒飯とお茶を見て私の顔は緩む。
「旨いぜ!食べよ!いただきます!」
「いただきます!」
礼儀正しく手を合わせるエースに習い私も手を合わせる。
「ん!美味しい!!」
「だろ?今日のポイントはちくわだ!」
「ちくわ!だから、少し甘味も出てるんだね」
「さすが○○!解ってんな!」
エースはにこにこと上機嫌に笑う。
「あ!じゃがいもも入ってるの?」
私は不思議に思い、エースに訪ねる。
「そうだ!腹に溜まるし、食感も良いからな」
エースはエッヘンと鼻を高くする。
「店開けるよ!」
「じゃあ、○○はホールな!」
「あはは!御用聞きね?」
「言い方が古臭ェ」
「酷っ!!!」
ケラケラと2人で笑いながら食事をする。
「はぁ!ご馳走さまでした!美味しかったです!」
エースに頭を下げる。
「お粗末様でした」
「それも古臭くない?」
「うるせェ!!」
エースの少し照れた顔に微笑みかける。
あぁ、幸せな一時。
「さて、仕事でも片付けなきゃ!」
○○は鞄から資料を取り出し、パソコンをつけ、眼鏡をかける。
「えー……。また仕事かよ」
エースはつまらなそうに口を尖らせる。
「仕方が無いじゃない。早く終わらせちゃうからね!」
○○はにこりとエースを見る。
「…………俺もレポートでもするか」
エースは珍しく鞄からレポート用紙と筆箱、分厚い教科書を出す。
「エースも頑張って!目標A+!!」
「おう!任せろ!」
○○とエースは笑い合い、それぞれの仕事に取り掛かる。
「よーし、終わり」
○○は仕上がったデータを保存する。
「あらら、エース。こんな所で寝てたら風邪引くよ?」
エースはレポートの上に突っ伏して眠っていた。
「まったく……」
○○はクスリと笑う。
ある日、道端で血だらけで倒れていたエースを拾って帰って来てから妙な共同生活が始まった。
どうやら、ヤバイ男の女に手を出した(誘ったのは女)エースはボコボコにされたらしい。
「なんかさ、女が出した酒飲んだから力が入らなくてさ」
と話すエースはきっと睡眠薬などの薬を盛られたらしい。
「普通なら絶対ェ返り討ちなのによー」
と拗ねた姿が不覚にも可愛かったのだ。
それから○○になついたエースは家には帰らず、ここに住み着いている。
一応大学には行っている様だが、詳しくは知らなかった。
「エース?もー」
○○は諦めて寝室から毛布を持ってくる。
「全く。風邪引いても知らないよ?」
○○はそう言うとエースの肩に毛布をかける。
「っ?!」
急に手を引かれ、○○はあっさりとエースに押し倒される。
「なら、暖めてくれよな?」
ニヤリと熱の籠る目でエースは○○を見る。
「あーあ、わんこが飼い主に牙を剥いたよ」
○○はわざとらしくため息をつく。
「何たって中身は狼だからな」
悪びれもせず、エースはニヤリと笑う。
「全く……」
わんこな君「眼鏡かけたままもありだなー」
「…………変な趣味」
「そんな事ねェよ!」
「わんこ君は家に帰らなくて良いの?」
「……こんな飼い主ほっといて帰れないだろ?」
「まったく、この狼わんこは……」
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