03
「んん……」
眩しい朝日が顔に当たり、カーテンを閉めて眠らなかった事を○○は悔やみつつ目を開けた。
「っ!こんな時間!!」
隣にある暖かいものには目もくれず、○○は急いで仕事へ行く準備を始めた。
シャワーを浴びる時間もなく、着替え、顔を洗い、歯磨きをし、髪を結い上げると身支度を整えた。
「シャンクス!行ってくるから!お留守番宜しくね!」
○○はカーペットの上で眠る‘猫’にそう呼び掛けると慌てるように外へ出て鍵を閉めた。
「……うー……痛ェ……。飲み過ぎたか……」
シャンクスは頭を押さえながら○○が出て行った方へと顔を向けた。
「……酔ってた。……酔ってたな、俺、飼われてるな。そんで、ご主人様はそれを受け入れてる。何とも心の広いご主人様だ」
シャンクスは痛む頭を押さえながら仰向けに寝転がると再び目を閉じた。
「しまった!!!」
○○の叫び声にオフィスの従業員達がそちらへ顔を上げた。何か仕事でへまをしたのではないか?こちらに皺寄せが来るのではないかと。
「……うん」
○○は向けられた視線にこほんと一つ咳払いをすると、椅子に座り直した。周りもそれを見て何も言わずに仕事へ戻った。
「何?どうしたの?」
同僚がこそこそと声をかけてきた。
「いや……ね、そう!猫を拾ったんだけど。餌の準備を忘れちゃったなぁーって」
○○はシャンクスを猫と表現した。
「猫?子猫だとお水とか大丈夫?餌は夜まで我慢出来ても、お水とトイレは用意してあげなきゃ!」
同僚がアドレスをしてくる。
「あぁ、大人だから水とかトイレは大丈夫だと思う」
○○はシャンクスの顔を思い浮かべながら声を出す。電話やメールをして確認を取りたいが、何せシャンクスのアドレスも知らなければ、家に固定電話もない。
○○は時計をチラチラと見ながら業務に差し支えが出ない程度に焦っていた。
昼休みのチャイムと共に○○は財布を手に立ち上がる。
「あ!○○!一緒飯行かないか?」
「すみません!カバジさん!急いでるんでまた!」
声をかけてきた同僚に駆け出しながらそう叫んだ。
コンビニで弁当と飲み物を買い込み、自分の部屋へと急ぐ。
「ん?汗だくじゃねェか」
ドアを開けると日向でシャンクスが○○の女性ファッション誌を読んでいた。
「こ、これ、おひ、……る……」
ぜいぜいと肩で息をする○○。
「お、おォ。悪ィな」
シャンクスは恐る恐ると言う感じで○○の差し出したコンビニのビニール袋を受け取る。
「じゃ、私は……戻る、から」
「お、おい!」
息つく間もなく出て行こうとする○○をシャンクスが止める。
「?何?」
「もう行くのか?」
「うん!仕事だもの!ペットを飼うならヒモジイ思いなんてさせられないでしょ?じゃあね!」
○○はそれだけ言うと苦しそうに部屋を出て鍵を閉めた。
シャンクスは窓からそっと○○の様子を伺った。
「……うむ。良い飼い主だ」
シャンクスは○○の姿が見えなくなるとコンビニの開けた。
「……酒を頼んだらさすがに怒られるのか?」
シャンクスは缶コーヒーを開けながら空を見上げた。
「良い天気だな」
シャンクスは満足そうにコーヒーを飲んだ。
貴方を飼います。「ちょっと、○○。汗だくだよ?」
「ぜぇぜぇぜぇね」
「ん?」
「ねこ、に……ごは、ん」
「は?家に帰ってたの?」
「……も、むり」
「だろうね。でも、ほら、始業のチャイム」
「……」
無情に鳴るチャイムを○○は軽く呪っていた。
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