02
それから火曜日と木曜日の駅までの道のり20分を2人は歩いた。
限られた時間の中2人は緊張しながらも色々な話をした。
好きな曲(○○はシャンクスの言う曲はあまり知らなかった)、高校時代の話、家族の話や友人の話(シャンクスが一番ノリノリで話していた)等々。
それほど大きな盛り上がりは見せなかったが、何となく時間は過ぎて行った。
○○はシャンクスの事を友人に話していなかった。
何となく気恥ずかしいと言う気持ちもあったが「どうせすぐに別れるだろう」とどこか頭の中で思っていたからだ。
最初こそシャンクスの事を全く知らなかったので質の悪い悪戯か、何かのバツゲームかと思っていたが、それにしては長く続くなと思っていた。
まだまだ○○にとってシャンクスは知らない他人であって、自ら近付こうとはしなかった。
1ヶ月が過ぎた頃。
○○は友人と楽しく昼食を学食で取っていた。
話は弾み、やはり気の合う仲間の大切さを実感していた。
「やァ!」
突然シャンクスが○○に近付いた。
○○はどきりとした。まだシャンクスの事を友人には言ってなかったのだ。
○○は嫌な汗が全身から出ていた。
「前に会ったベックマン覚えてるか?あいつらと遊んできたんだ!良かったら友達とどうぞ」
シャンクスはにかりと笑うと○○に『海へ行ってきました』と書かれた箱菓子を差し出した。
「……ど、どうも」
○○は冷や汗と友人の視線を感じながら箱菓子を受け取った。
心臓は嫌な速さで鳴っていた。
「じゃあ!」
シャンクスは満足そうにその場から離れた。
「ちょっ!今の何?」
友人1が身を乗り出す。
「え、えっと……つ、付き合って、る?」
○○はパニックになりながら声を出す。
「そうなの?!いつから?」
友人2がシャンクスの方を見ながら聞く。
「……い、1ヶ月くらい前?」
○○は目眩を覚えた。
「えぇ?!全然知らなかった!!」
友人3がにやにやと笑う。
「…………ど、どうしよう」
○○は机に突っ伏した。
「どうしたの?」
友人2が気遣し気に聞いてくる。
「解んないの。あの人の事殆ど知らないし、好きではないんだよね」
○○は混乱しながら言葉を紡いだ。
「え?好きじゃないのに付き合ってるの?」
友人1が聞いてくる。
「…………うん」
○○は困った顔をして頷いた。
「でも、生理的に嫌では無いんでしょ?」
友人3がにやにやと笑う。
「……うん。それは、そう」
○○は頷いた。
「ならさ、お財布だと思って付き合えば?好きになるかも知れないし。案外付き合うってそんなものよ?」
友人3がクスクスと笑った。
「そうなの?」
友人2が不思議そうに聞く。
「だって、知らない人にコクられて、全部は蹴らないでしょ?まぁ、○○が嫌なら早めに別れる事ね」
友人3が優雅にお茶を飲む。
「為になるね」
友人1は呆れた様に笑った。
翌日は教育課程のある日だった。
○○は午後の講義が終わるとシャンクスにメールをした。
『今から話せないかな?』
返事はすぐに来た。
『じゃあ、掲示板の所で』
○○の心臓は壊れるんじゃないかと言う速さで鳴っていた。
「どうした?○○さんからメールなんて珍しい」
シャンクスは嬉しそうに現れた。
「あ、あの……」
講義の始まった時刻。他に人影はいなかった。
「あのね、わ、別れて欲しい」
○○は大きく息を吸うとそう小さな声で言った。
「…………」
シャンクスは驚いた顔をして、それから無言になった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………なんで?」
重たい沈黙を破ったのはシャンクスだった。
感情を深く隠した声だった。
「……しょ、正直貴方の事を知らなくて、その、私今まで付き合うった事もないし。良く解らなくて。あ、貴方の事も好きでは、ないし」
○○はなんと言ったら良いか解らずにポツポツと喋る。
途中から泣きたくなってきた。
「…………泣くほど嫌い?俺の事」
シャンクスは麦わら帽子を深く被った。
「……ううん。そうじゃなくて」
○○は必死に言葉を探す。相手を傷付けないように。
「じゃあ、嫌いじゃないのな?俺の事知らないから付き合えないって事?」
シャンクスは○○を確かめる様に聞く。
「……うん、ごめんなさい」
○○はシャンクスの顔を見れずに頭を下げた。
「…………」
シャンクスは麦わら帽子被り直した。
「つまり、俺の事をちゃんと知ったら好きになるかもって事だろ?」
シャンクスはうーんと考えながら声を出す。
「え?」
○○は顔を上げながら思わず聞き返す。
「長期戦?望むところだ!」
シャンクスはにかりと笑った。
「え?あ、あの」
○○は慌てた。何か、話が変な方へ行く。
「だ、だって、私が貴方の事をちゃんと好きになるかもわからないんだよ?」
○○は「申し訳ない」と困った顔をする。
「それを言うなら俺を好きになる可能性もあるって事だろ?」
シャンクスは不敵な笑顔を浮かべる。
「…………」
○○はとうとう押し黙った。そうかも知れないと。
「よし!今日は教育課程だろ?それまでまだ時間あるし、どこか座ろう!」
シャンクスはポンッと手を叩いた。
「え?え?」
「結論を急がなくても良い。ゆっくりでも良い。だから俺をもっと良く知ってくれ」
シャンクスは切なそうに笑った。
その顔に胸が狭くなる。
「…………うん」
○○は気付いたら頷いていた。
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