01

私は今まで恋愛らしい恋愛をした事がない。

恋愛って言うよりも恋かしら?

この年になるまで恥ずかしながら男の子にドキドキとした事もない。
最初はおかしいのかも知れないと思ったけど、「ローマの休日」や「サウンドオブミュージック」とかにはドキドキした。
恋愛もしてみたい気もするけど、現実の男の子にドキドキしないから、結局は恋もした事がなかった。

それに、誰からも告白もされた事などなかった。

だから一生恋愛なんて出来ないと思っていた。









大学では特にサークルにも入らず、男子とは接点がなかった。

サークルには入っていなかったが教育課程を取っていた。

教育課程は全学科が同じ講義を受けるので、夜の講義が多かった。


そんなある日。
○○は教育課程の講義を受ける為にその教室にやって来た。

「○○ちゃーん!」

同じ講義を取る別学科の友人が話しかけて来た。

「おはよー」

夜の講義に「おはよう」とは何だろうとは思うが、皆挨拶はだいたいそれであった。

「あの人が呼んでるよ?さっきからずっといるんだよね」

「ん?」

友人が指差す方を見ると○○が入ってきたのと別のドアの外に誰かがいた。

「何だろう?」

「行ってみたら?」

「……うん」

○○は渋々廊下へと出た。

そこにいたのは黒髪の目付きの悪い男だった。

「お前が○○か?」

低い男の声に○○はびくりとする。

「は、はい……」

○○は怖くなりながらも頷いた。
目付きの悪い男に頭から足先までじろりと見られた。

「……講義が終わったら用がある」

男はそれだけ言うと教室へと入って行った。

(……あんな人も教育課程取ってるのか……。子供が怯えそう……)

○○は不思議そうに彼の後ろ姿を見た。

(しかし、用ってなんだろう?私何かしたかな?ま、まさか決闘とか?……絶対勝てない……)

○○は大きくため息をついた。







先程の出来事と、これから起こるだろう出来事を恐怖に感じて講義には身が入らなかった。

講義が終わったらすぐに出てさっきの男にバレない様に逃げようと心に決めた。


「終わったな」

「……はい」

逃げようとしていたが、黒髪の男が○○の座っていた席まで迎えに来た。

「じゃあねぇ!」

(は、薄情もの!!)

友人達は怖そうな男に連れていかれる○○に笑顔で手を振った。

「俺はベックマン。教職がこんなに遅い時間だとは思わなかったな」

ベックマンは世間話をする様に、だがあまり関心なく聞く。

「え、いえ。あ、○○で
す」

○○は怯えながら頷いた。

「悪いが用があるのは俺じゃない」

ベックマンはそう言うと足早に歩を進めた。

「?え?ど、どう言う事?」

○○は混乱しながらベックマンの背を追った。


歩いて数分、校舎から裏口まで行くと、そこに麦わら帽子を被った男がいた。

「あの人が、用があるんだ」

ベックマンは麦わら帽子の男を指差した。

「悪いな、ベック」

「全くだ。じゃあ、俺は帰る」

ベックマンはそれだけ言うと○○に軽く頭を下げるとその場を後にした。

(……な、何?!これ)

○○は困った顔をしてベックマンの背中を見送った。

「悪いな、突然」

男の声に慌てて振り返ると麦わら帽子を被った赤髪の男がにかりと笑った。

「い、いえ」

○○は緊張気味に首を左右に振った。

「俺はシャンクス!宜しくな!」

赤髪の男ーーシャンクスはにかりと笑った。

「あ、……○○です」

初めて会うその男に○○はどうしようかと思いつつ、名を名乗った。

「じゃあ、取り合えず歩くか。駅だろ?」

シャンクスは駅の方を親指でさした。

「う、うん」

○○は訳が解らなかったが頷いた。

「しっかし、こんな遅くまで講義とか大変だなー」

シャンクスは軽く世間話をするように声を出す。先程の男と違って楽しそうな声だった。

「う、ううん。そんな事……」

何なんだろうと○○はチラチラとシャンクスを見上げた。


駅までの道も半分ほど来た。
シャンクスは特に特別な何かを言う訳でもなく世間話が続いた。

「あ、あの」

「ん?」

○○は意を決してシャンクスを見上げた。

「何か私に用があったんじゃないんですか?」

○○が核心に触れるとシャンクスの顔が引きつった。

「いやー……その……」

先程までの滑らかな舌の動きが嘘のようにシャンクスは言い淀む。

「…………まさか」

「いや!そのだな」

「決闘?」

「は?」

○○の真剣な顔にシャンクスは驚きに目を見開いた。

「私、腕っぷしには全く自信がないので、喧嘩しても楽しくないですよ」

○○は怖がりながらもしっかり声を出した。

「っ!!違う!違う!!勘違いってか、どんか勘違いだよ!!」

シャンクスは慌てて否定した。

「じゃあ、何の用ですか?」

○○は一層不安になりながらか聞く。

「いや、だから、その」

シャンクスは立ち止まると大きく息を吸い込んだ。

「○○さんの事が好きになったから、付き合ってくれ!」

「…………」

シャンクスは一気にそう言った。

○○は訳がわからず思わず固まった。

「…………いや、○○さんは今付き合ってる人とかいる?」

シャンクスは特にずれていない麦わら帽子を直した。

「え?ううん。いない」

○○は首を左右に振った。

「そっか!なら、良かった!」

シャンクスは心底安心したようにホッと胸を撫で下ろした。

「…………」

○○は不思議そうにしながらまた駅への道を歩き出す。

「なァ、帰りは一緒に帰らないか?」

シャンクスはにこにこ笑いながら○○に追い付く。

「えっと……。普段は友達と帰ってるから」

○○は困った顔をする。

「……そっか……」

シャンクスはがっくりと肩を落とした。

「あ、でも、教職の日なら大丈夫」

○○はあまりにもがっくりとするシャンクスを見て可哀想になった。

「ほんとか?!」

シャンクスは目をキラキラと輝かせながら顔をあげた。

「う、うん。火曜日と木曜日なら……」

○○はその変わり身の速さに少し引き気味になりながら答えた。

「そうか!なら、宜しく頼むな!」

シャンクスはにかりと笑うと駅についた。

「悪いな、送ってやるのはここまでだ」

シャンクスは改札の前で残念そうに笑った。

「あ、いえ」

○○は首を左右に振った。

「じゃあ、これから宜しくな!」

シャンクスは手を振った。

「じゃ、じゃあね」

○○はその場から逃げるように立ち去った。


シャンクスは○○の背中が見えなくなるまで見送った。

こうして○○はこれまであまり話した事無い存在である男ーーシャンクスと出会った。

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