03

「キャプテーン!連れてきましたよー!」

シャチに案内されるまま○○は奥へと進んだ。
カーテン越しに区切られた場所は一番高級感が漂っていた。
シックな内装、黒い革張りのソファーに硝子のローテーブルがあり、いかにもVIP席と言った出で立ちの部屋だった。

「遅い」

「酷っ!!」

そこに深く腰を下ろしたローが低い声を出した。

シャチは反応にケラケラと笑った。

「何飲む?コーラ?」

シャチは楽しそうに○○を見た。

「それはお前の趣味だろ」

ローが呆れた様にシャチを見る。

「じゃあ、オレンジジュースか?」

シャチはうーんと考える。

「お前だ、○○」

「え?あ!」

ローに名前を呼ばれようやく気付いた。

「じゃ、じゃあコーラで」

「だろ?やっぱりコーラだよな!」

シャチはうんうんと頷くと部屋から出て行った。

「いつまで突っ立ってる」

「あ、うん」

ローに言われソファーへと近付く。
だが、ローテーブルと大きなソファーが一脚有るのみ。

「し、失礼します」

○○はおずおずとローから出来るだけ距離を置いて座った。

「……ふざけてんのか?」

「滅相もない!!!」

ローの低い声とギロリと睨む目に驚いて声を出した。

「何だ?それは」

呆れながらローがくくっと喉をならした。
その笑う様子に○○は思わず見とれた。

「こっちに来い」

「っくわっ!」

「……色気のねェ声」

ローに急に引っ張られ、○○は可笑しな声を出した。

「あ、あのね、トラファルガーくん」

「長ェ」

「は?」

訳が解らず○○は固まる。

「長いって言ったんだ」

ローはコップを手に取った。

「え?何が?」

○○は何だろうと首を捻る。

「…………なら、良い」

ローは眉間にシワを寄せた。

「あ!名前?」

○○はようやく思い当たり嬉しそうに声を出した。

「……」

「良いの?好きに呼んで?」

ローは疲れたように頭を押さえた。
どうやらテンポがかなりずれるらしい。

「……あァ」

「じゃ、じゃあ、ロー君でも良い?」

○○はおずおすそわそわとローを見る。

「……あァ」

ローは手の甲に顎を乗せながらニヤリと笑った。

「ロー君」

「なんだ?」

「えへへ、何でもない!」

○○は嬉しそうに笑った。
それを見てローは口許を掌で隠した。口がニヤリと弧を描いていた。

「コーラお待たせー」

シャチが合図もなしに入って来るとローテーブルにコースターを置き、コーラの入ったグラスを置いた。

「あ、ありがとうございます」

○○はシャチに頭を下げた。

「良いって!そんな敬語とか堅苦しい!気軽にシャチ様と呼んでくれ!」

「ありがとう!シャチ様!」

「素直!」

シャチは楽しそうにケラケラと笑った。

「シャチ」

ローの低い声にシャチは振り返る。

「そうだ!キャプテン、何か女の子達が」

シャチの言葉を遮る様に仕切りのカーテンが開いた。
○○はコーラにストローを刺して飲み始めた。

「あー!ロー君ー!」

ニコニコと笑いながら入って来たのはいつかボニーと動物園で会った可愛らしい女達だった。

○○は(同じ学科の子だ)としか認識がなかった。ある時期に同じ班だったので、普通に話す程度だった。

「○○さんがどうしても付いて来てって言うからー」

クスクスと笑うと○○とローの間に座り込んで腕をローに絡めた。

「……?」

○○が不思議そうな顔をするのにローが気付いた。

「そうでもねェって」

ローはニヤリと笑うと立ち上がる。

「え?ロー君どこ行くの?」

「シャチ、何か出してやれ」

「アイアイ!」

シャチは「何が良い?」と愛想良く彼女達に聞く。

「行くぞ」

ローは女を無視して○○の腕を引いた。

「ねぇ!ロー君!□□さんなんて放って置いて一緒に飲みましょうよ!」

女は○○を押し退けようと笑った。


ーーパシッ


「痛っ?!」

ローは乱暴に女の腕を振り払った。
○○もそれには驚いた。

「俺の女に触んじゃねェ」

ローな女を冷たい目で睨み付けると○○の腕を掴み直して部屋を後にした。

「くー!キャプテンカッコイイ!!!」

愕然とする女達を他所に、シャチは一人嬉しそうにローの背中を見送った。

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