20
「 まだかなァ」
シャチはビップ席から入口を見ながら呟いた。
「そろそろ来るだろ」
ローはグラスに入った氷をカランと鳴らした。
ーーピリリリリ
「キャプテン!電話!」
「どうした?」
シャチに急かされ携帯を取ると○○の名前がディスプレイに表示された。
『あの、お店まで来たよ』
○○は電話の向こうで戸惑い気味に声を出した。
「?入って来い」
ローは不思議そうにそう声を出す。
『……あのね、良いのかな?私一人じゃないの』
○○の要領を得ない言葉にローは段々苛立ちを覚えた。
「そこで待ってろ」
ローは乱暴に通話を切るとシャチを振り返る。
「今日は帰る。店長の奴にちゃんとやれよって行っとけ」
「アイアイ!キャプテン!」
シャチは冗談のように敬礼をするとローを笑顔で見送った。
「どうした?」
ローは傘を指さずに帽子の上からフードを被ると○○を見付けて近寄った。
「ロー君!良かった!私どうしようかと思って……」
○○は切羽詰まったような声を出しながらローに近付いた。
「何がだ?」
ローは眉間にシワを寄せながら重ねて聞いた。
「あのね、これ」
○○は傘をローとの間に差し、バッグを開いてローに中身を見せた。
「ニャー!」
「…………」
突然出てきた真っ白な子猫がローを見て笑うように鳴いた。
「この子の飼い主見つけないと追い出されちゃうの!」
○○は必死に訴えるようにローを見上げた。
「………………」
ローは○○を見た後に子猫を見た。
子猫はゴロゴロと楽しそうにローを見て喉を鳴らしている。
「私、就職も決まってるのに……。住む所無いと実家に帰らなきゃ……!」
どうしようかと○○は泣きそうな声を出した。
「……行くぞ」
「え?ろ、ロー君!」
ローは○○の手を取ると歩き出した。
「お邪魔、します」
再び連れて来られたローのマンションは相変わらず本で埋め尽くされていた。
「拭け」
「わっ!ありがとう」
ローからタオルを顔面に投げられ、慌てて受け取ると体を拭き始めた。
「ところでこいつの名前は?」
ローは子猫をバックから出すと○○に聞く。
「え?あ、まだ無いの。今日の帰りに拾ったから」
○○はローが立ったまま子猫を顔の近くに持っていっているのを不思議そうに眺めた。
「……なら、ベポだな」
ローは言うと穏やかに笑ってベポと名付けられた子猫を撫でた。
「ベポ?可愛い名前だね!良かったね、ベポ」
○○はベポに話しかけると嬉しそうにニャーと鳴いた。
「ここは動物禁止じゃねェ。ここにいれば良い」
ローはそう言うとベポを○○に預けてキッチンへと入った。
小さな皿とコンビニで買った猫用ミルクを持ってくる。
「ほら、飲め」
ローが差し出すとベポはぴちゃぴちゃとそれを飲み出した。
「わざわざ猫用のミルクを買ったんだ?」
○○はベポの前にしゃがみこむローの横に並んでしゃがむ。
「あァ。市販の牛乳は脂肪分が高過ぎて他の動物には不向きだ」
「ふーん」
○○はなるほどと頷いた。
「あ、そう言えばあそこの動物園にシロクマのベポっているよね!知ってる?この子あのベポに似てるかも!!」
○○はにこにこと思い出した様に話した。
「…………そうだな」
ローはそこから名前を取った事は言わずに○○を抱き寄せる。
「……あ、あの」
○○は急なローの行動に身を固くした。
「久々に会ったからな」
「ん……」
ローは○○の唇に自分のそれを重ねると急性に彼女を求めた。
「この俺を待たせたんだ。それなりの覚悟はあるんだろうな?」
「っ!!!」
ローはニヤリと笑うと○○はカーっと顔に熱が集まった。
「わっ!!」
ぽすんとソファーに押し倒され、○○はロー越しに天井を見上げた。
ローは口付けると舌を絡め呼吸を奪う。
「んっ!……はっ」
唇を離すと○○は空気を求めていた。
「ろ、ローく!」
○○の声を無視する様にローの長い指が○○の体を這う。
「ニャー」
「っ!!!」
お腹がいっぱいになったのか、ベポが遊んで欲しそうにソファーに近付いた。
「ろ、ロー君!ベポが見てる!」
○○は慌ててローを遠ざけようとする。
「相手は猫だ。気を楽にしろ」
ローはベポをちらりと見てから行為を再開する。
「ニャー」
「あ……で、で、ん、も!気になる!よ」
ローの手に反応しながらも○○は必死で懇願した。
「チッ。来い」
ローは舌打ちをすると○○の腕を引っ張った。
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