19
「終わったー!!!」
○○は教授に卒論を提出すると
大きく伸びをした。
「終わったね!明日は卒業コンパがあって、卒業式か」
友人がやれやれと声を出した。
スキー旅行から2週間が経ち、卒論発表、最後の試験も終わり、ようやく卒論も提出した。
「徹夜続きで辛い……。もう帰って寝る!」
○○は大あくびと目を擦りながら宣言する。
「あの旅行が響いたみたいだね。でも終わって良かったじゃない!」
旅行は一泊二日だったが、やはりその間実験などはストップしてしまう。
「でも!行って良かったから!」
○○は嬉しそうに笑うと帰り支度を整えた。
「あ、雨」
「降ってきたわね」
2人は傘をさした。
「じゃあ、また明日!」
「うん!バイバイ!」
校門で別れると○○はふらふらと家路についた。
ようやく重い荷物を下ろし、○○は寝不足ながらも気分爽快で歩いていた。
「やる事やったし!後は引き継ぎと卒業決定が主なところかな?」
○○は気を抜くと寝てしまいそうで、声を出しながら歩いた。
「ニャー」
「ん?」
ザーザーと雨が降り続ける中、何かが聞こえた。
「気のせい?」
「ニャーニャー」
「っ!!」
○○は猫の鳴き声を聞いた。
キョロキョロと探すとそこには薄汚い小さな子猫がいた。
子猫は○○に気付くと弱々しく「ニャー」と鳴いた。
「……うちの部屋飼ってあげられないの……」
○○は心を鬼にして子猫に背を向けた。
「……」
それでも気になりそろりと振り返ると子猫は力なく倒れた。
「っ!!!」
○○は慌てて子猫に近寄り抱き上げる。
「冷たい。ずっと雨に濡れてたんだ」
○○はダメだと思いつつ子猫を抱き上げると家に帰った。
「まずは体を拭かなきゃ」
暖かい濡れたタオルを用意して体をマッサージする。
すると汚れも取れ白いふかふかの毛が見えた。
「次は……」
牛乳を人肌に温めて小さな皿に入れる。箱にタオルを入れて子猫を入れた。
「……駄目だ。眠い、少し……だけ」
子猫が牛乳を飲み始めたのを見ると○○は安心して眠りについた。
ーードンドン!!
ーー□□さん!!
ーードンドン!!
かなり熟睡していたらしい○○はドアを激しくノックされる音で目が覚めた。
「あ、はい!」
○○は慌てて寝ぼけ眼でドアを開けた。
「あら?寝てたの?ごめんなさいね」
「大家さん……」
○○は驚いて大家を見た。
「あの、猫飼ってる?苦情出てるのよ、うるさいって」
「……え?」
そんなはずは無いと呆然とする。そして自分の部屋を振り返ると真っ白な子猫が自分のいた所でスヤスヤと眠っていた。
「……何で?…………っ!!!」
何故部屋に子猫がいるのかを思い出すと頭が真っ白になった。
「す、すみません!」
○○は慌てて頭を下げた。
「悪いけど、うちでは動物禁止。金魚すら禁止にしてるのよ」
大家は困った顔を○○に向ける。
「あ、はい!すぐに飼い主を見つけます!」
○○はこくこくと頭を上下させる。
「出来れば今日中に」
「きょ、今日?!」
「出来なければ更新時期だから、ねぇ?」
大家は「例外は許さない」と強い意思で○○を見た。
「わ、分かりました!」
就職先はこちらで決まっており、地元である田舎には戻らないので、契約は更新したい。○○は冷や汗を滴ながら頷いた。
「そ?じゃあ、宜しくお願いね」
大家はそれだけを言うとパタンとドアを閉めた。
「…………ど、どうしよう?」
○○は青ざめながら眠る子猫を見た。
「……そ、そうだ!」
○○は携帯を取るとすぐにダイヤルをした。
ーープルルルル
『どうした?』
すぐ耳元で聞こえる久しぶりのローの声に 胸がきゅんと高鳴る。
「あ、あのね!ロー君に相談したい事があるんだけど……」
○○はときめきを感じながらも「それどころではない!」と声を出した。
『……店に来い』
「う、うん!わかった!」
ローはそれだけ言うと電話を切った。
「……よし!」
○○は子猫をバッグに入れると部屋を出た。
外はまだ雨が降っていた。
「○○来るんっすか?!」
「あァ」
「やった!卒論あげたんだなー!」
「何でお前が喜ぶんだ?」
「だってキャプテン!○○面白いじゃないっすか!」
「……まァな」
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