14
「うわー!人が居ない!」
リフトを何度か乗り継いで頂上までやって来た。
天候も良く、あまり風もなく、視界も良好。
「……急だね」
優子は怯えながらエースの腕にしがみついた。
「まァ、大丈夫だ。エッジ利かせて降りてきな」
エースは優子から離れるとスムーズな動きで優子の前に立つ。
「ほれ、こっちだ」
エースの手に導かれる様に優子がゆっくりと走り出した。
「うわっ!!!」
叫び声と共に大きな衝撃音。
「おーい、ボニー大丈夫かー?」
シャチがボニーが衝突した木の側に滑る。
「うるせェ!早く助けろ!」
ボニーは恥ずかしさを隠すために叫ぶ。
「はいはい、お嬢様ー」
シャチはニヤニヤと笑いながらボニーを引き上げる。
「ゆっくりで良いからなー」
「離すなよ!」
「はいはい」
シャチとボニーは憎まれ口を叩きながら滑り始めた。
「じゃ、俺も」
ペンギンはそんな2人を追って行った。
「よし、行くぞ」
ローが言うとスーっとかなりの距離を滑る。
「へ?」
遠いローを見ると来いと手招きをした。
「ど、ドSだ……」
○○は覚悟を決めるとゆっくりと滑り出した。
「うわー!ここまでどれくらいかかった?!」
ようやく滑り慣れた初級コースまで来るとホッと○○は息を吐いた。
「まァまァ、だな」
そう言いながらローは満足そうに口許を上げた。
「……あいつらまだあそこか」
ローに習って○○も斜面を見上げると優子はエースと半分くらい、ボニーはシャチと3分の1くらいだった。
と、そこへ颯爽と滑るボーダーがいた。
「うわー!!……あれ?」
その滑りに魅入られていると自分達の近くで止まった。回りから感嘆の声が上がる。
「ペンギン!」
○○は驚いてペンギンを見上げた。
「○○はなかなか筋が良いんだな」
ペンギンは感心した様に笑った。
「凄いね!ペンギン!あんなに滑れるんだ!」
○○は興奮したようにペンギンを見上げる。
「そうか?キャプテンの方が凄いぞ」
「え!見たい!」
ペンギンの言葉に○○がローに詰め寄る。
「……」
「ね!私ここで見てるからロー君滑ってよ!」
○○は真っ直ぐにローをキラキラと期待に満ちた目で見た。
「……」
ローは唇を真一文字にすると○○の頭をポンと叩きリフトへと向かった。
「……ロー君嫌だったのかな?」
○○はローの去ったリフトを見る。
「……いや」
(あれは、照れてた……のか?)
ペンギンも不思議そうにリフトを見た。
「あ、ジュエリーさん転んでる」
○○は目を細めてゲレンデを見る。
「だいぶ転ばなくなったがな」
ペンギンも○○に並びながらそれを見た。
「シャチ様とペンギンのおかげだね!教え方も上手いんだ!」
○○はにこにことペンギンを見上げる。
「……そうでもない。ボニーの努力の賜物だ」
ペンギンは柔らかく笑いながら○○を見た。
「そっか!」
○○は納得した様に頷いた。
「あ、ポートガスさんと優子さん。仲良いね」
次に○○はもう少し下にいるエースと優子に目を向けた。
「あァ。あの2人を見てると恋人が羨ましくなるな」
ペンギンが軽口を言う。
「そうなんだ!……ペンギンはいないの?」
「ん?」
「その、彼女とか?」
○○はちょっと踏み込み過ぎたかなぁと思いながらも思い切って聞いてみた。
「生憎と俺はモテないんでね」
ペンギン肩を落としながら言う。
「え?!嘘だ!」
○○は驚いてペンギンを見る。
「嘘じゃないさ。まァ、近付いて来るのはキャプテン目当ての女ばかりだからな」
ペンギンは「残念だ」と笑った。
「…………」
自分もシャチとペンギンはローのお供としか見ていなかったと反省する。
「あの」
「ほら、来たぞ」
「え?」
○○はペンギンの指差す方を見た。
「っ!!!」
斜面の颯爽と滑り降りてくる人が目には入った。
○○は息をするのを思わず忘れてそれに魅入った。
その人の滑りを他の人も見始めた。皆、その滑りに魅了されていた。
ズサッと軽快に○○の目の前でローは止まった。
周りからは「わっ!!」と歓声が起きた。
「っ!!!ろ、ロー君!凄い!!!カッコ良かった!!!」
○○は興奮し、顔を赤く染めて息荒くローを見上げた。
「……そうか」
「わっ!!ちょ」
ローは○○の顔を自分の手で覆った。
「うるさい、黙れ」
ローはもう片方の手で自分の口許を覆った。
「……」
「……うるせェ」
「何も言ってません」
ペンギンの視線をうるさそうにして睨んだ。
「……行くぞ」
ローは○○の顔から手を離すと○○の手を掴んだ。
「え?どこ行くの?」
○○は不思議そうにローを見る。
「あいつらまだだろ。もう一度滑るぞ」
ローはぶっきらぼうに言う。
「あ、うん!」
○○は嬉しそうに笑った。
「行くぞ、ペンギン。遅かったら置いていくからな」
ニヤリとローは○○に意地の悪い笑顔を向けた。
「っ!意地悪だ」
○○はその顔に見とれながらも思わず呟いた。
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