10
「確か思い出を作るために旅行すると言ってたな」
ローは静かに声を出した。
「そうです!みんなで最後に騒ぎましょう!」
シャチが嬉しそうに笑った。
「で、お前はこいつを連れて行くのに反対なんだな?」
ローは確認を取るようにボニーを見る。ボニーは不機嫌そうに頷いた。
「なら、お前達だけで行け」
「え?」
ローの言葉にシャチは固まる。
「それじゃあ意味がないです!!」
シャチは叫ぶ。ペンギンもうんうんと頷いてシャチに同意していた。
「そうだよ!キッド君達が一緒に行けないからこれ以上減ったら……」
優子も寂しそうに声を出す。
「俺はお前達とはたくさん思い出を作った。なら、こいつとはまだ作ってねェ。別に一生の別れじゃねェんだ」
ローは○○を親指で差しながら静かに言った。
「ろ、ロー君!」
○○は感動で鼻の頭がツーンとなった。
「……ローお前」
エースが本気で驚いて声を出した。
自分が優子と出会った気持ちがローにも生まれたのか?そんな疑問がエースの胸に生まれた。
「わかった。○○だっけ?お前も来い」
「エース!」
「テメェ!!」
エースの言葉に優子が喜びボニーが睨む。
「優子が皆で行きたいって言うんだ。仕方ねェだろ?俺は2人で良いのに」
エースは不機嫌そう言う。
「ここまでローが言うんだ。大丈夫だろ。いざとなれば俺が優子を守るそれで良いだろ?」
エースは優子の肩に手を置いた。
「エース!ありがとう!」
優子は嬉しそうにエースに笑った。
「と、言う訳だ。ボニーも良いだろう?」
ペンギンが最終確認をするようにボニーを見る。
「……わかったよ!ただし!変な動き見せたら問答無用でしめる!」
ボニーが○○を睨む様に宣言する。
「わ、わかりました!」
○○はコクコクと頭を縦に振った。
「でも、本当に良いのかな?」
○○がこっそりとペンギンに確認する。
「あァ。○○は堂々とキャプテンの隣にいろ」
ペンギンは柔らかく○○に笑った。
「うん!ありがとう、ペンギン!」
○○も嬉しそうににこりと笑った。
「じゃあ、人数は俺だろ、キャプテン、ペンギン、エース、優子、ボニー、そんで○○7人か」
シャチが確認するように言う。
「場所はスキー場でペンション借りた。後から一人増やしておくな!ペンギンの車で7人乗れるから夜出発!スタットレスも履き替えたからオーケーな。後はー」
幹事のシャチとペンギンで決まった事がどんどんと言い渡された。
「で、いきなり旅行行くの?」
友人が呆れた様に声を出す。
「うん!これを気にボニーさんとも仲良くなりたい!」
○○は気合いを入れてちらりとボニーが座る方を見た。ボニーは爆睡をしていた。
「スキーか、した事あるの?」
「小学生の時に」
「……」
友人はくすりと笑った。
「楽しそうで良かったわ。でも、あのメンバーって凄そうよね」
友人が指折りメンバーを数える。
「頑張って仲良くなってらっしゃい!」
「うん!」
○○は嬉しそうに笑うと実験の続きをするために立ち上がった。
卒業を控え、卒論を書くための実験を日夜していた。
実験を終えると時刻は午後10時近かった。
研究棟を出ると寒さが身に染みた。
「寒い……あ!ペンギン?!」
○○は見た顔を見付けて駆け出した。
「あァ○○か。今帰りか?」
ペンギンはふと表情を和らげて○○を振り返る。
「うん!追い込みだからね。終夜するほどでもないから今日は帰るよ」
○○は新しい友人が出来て嬉しそうに話す。
「そうか。俺も終わって帰るところだ」
ペンギンと○○は家が近い事が判明して一緒に帰路についた。ペンギンは自転車を押して帰る事にした。
「キャプテンには連絡をしたのか?」
「あ!そうだね!一応しとこう!」
○○は嬉しそうに携帯を取り出すとメールを送る。
「そうだ!私、スキーとか小学生以来で、ウェアとか無いんだけど、借りられる所なのかな?」
○○は思い出した様にペンギンを見上げながら聞く。
「あァ。板とウェア、ゴーグルとグローブは借りられる。下に着るインナーやレッグウォーマー、靴下は用意すると良い」
ペンギンは静かな声で白い息を吐きながら答える。
「……そっか、色々必要なんだね!」
○○は携帯でメモを取りながら頷いた。
「キャプテンに聞けば良い。詳しいからな」
ペンギンは楽しそうに笑うと前方を指差した。
「え?」
○○は不思議そうにそちらを見ると不機嫌そうにローが立っていた。
「え?ロー君?」
○○はローの姿を見て驚いた。
「じゃあな」
ペンギンは自転車に跨がると走り出した。
「あ!ペンギン!お休み!」
○○が手を振るとペンギンは片手を上げた。ローの横を通り過ぎる時に頭を下げていた。
「ロー君!」
○○は嬉しそうにローに近付いた。
「……」
「っ?!」
突然腕を引っ張られ引き寄せられた。そして触れるだけのキスをされる。
「俺以外の男にヘラヘラするな」
冷たい唇の感触に○○は心臓が高鳴った。
「ろ、ロー君のお友達でしょ?私も新しい友達が出来て嬉しいよ!」
○○は嬉しそうにローを見上げた。
「それでも、お前は俺のモノだ」
ローの射抜く様な視線にびくりとするが、妬き餅と取れば自然に体が熱くなった。
「う、ん。じゃあロー君も私のモノ?」
○○は差し出された手を自然に取った。
「それは無いな」
「えぇ?!」
○○の驚いた声にローはクククと楽しそうに笑った。
「……ペンギンの家から本当に近いな」
○○の家の前に着くとローがポツリと漏らした。
「そうなの?」
「あァ。あそこの灯りがついてる部屋だ」
アパートの一室を指でさした。
「本当に近い!」
○○は驚いて声を出した。
「じゃあな」
ローは部屋には入らずに手を離した。
「え?入らないの?」
「誘ってんのか?」
「……ち、違」
間髪入れずに聞くローに○○は顔を赤くした。
「悪いがこれから少し用がある」
「そ、そっか」
ローの言葉に○○は残念そうにした。
「……」
ローはそんな○○に自然と手を伸ばした。
「……」
「じゃあな」
ゆっくりと唇が重なると、すぐに離れた。
「ロー君、おやすみなさい」
○○は嬉しそうにローに手を振った。
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