後編
坂城は船の近くで鼻歌混じりで洗濯物をしていた。
「ずいぶんとご機嫌だな、坂城」
「ベック!」
坂城が振り返るとベックマンが船から降りてきた。
「聞いた?」
坂城は嬉しそうな顔のままベックマンを仰ぎ見た。
「何をだ?」
ベックマンは煙草に火をつけながら坂城の隣に腰を下ろした。
「シャンクス!マキノさんと上手く行ったみたいよ!」
坂城は頬を赤く染めて興奮しながら声を出した。
「それはそれは……御愁傷様だな」
「何?」
「いや」
ベックマンの最後の言葉が聞き取れずに坂城は聞き返したが、ベックマンは何でもないと首を振った。
「お祝いしなきゃね!ベックは何が良いと思う?」
坂城の疑わない笑顔にベックマンはシャンクスが少し哀れに思えてきた。
「お頭が一人で言っているだけで、マキノさんが承諾していなかったらマキノさんに迷惑がかかる」
「…………」
ベックマンの言葉に坂城は真剣にベックマンを見た。
「まさかと思うけど……」
坂城は言いにくそうに言葉を選びながら声を出す。
「ベックもマキノさんが?……でも、シャンクスが」
「……」
坂城の勘違いっぷりにベックマンは思わず言葉に詰まる。
それを肯定と取った坂城は泡を洗い流した。
「ベック。失恋は辛いと思うけど、ここは親友をお祝いしよう」
坂城は辛そうな顔をしたままベックマンを励ますように声を出す。
「…………なら」
ベックマンは真剣な顔をすると坂城を抱き寄せた。
「慰めてくれるのか?」
自分の膝へと股がらせるように坂城を座らせると向き合うように抱き締めた。
「っ!!!ベックマン!!これじゃ!」
坂城は突然の事にあたふたとして、顔には熱が集まり顔を真っ赤にさせた。
足を開いた事によりスカートが捲り上がるので、慌ててそれを押さえた。
「坂城」
「べ、ベック!く、首くすぐったい」
ベックマンの口が坂城の首筋に付いたまま開く。
「お前の中では女にフラれた可哀想な男なんだろ?」
ベックマンは坂城の背中に指を這わせながら口を開く。
「うう……」
坂城はくすぐったく、恥ずかしく、どうして良いか分からずにベックマンから逃げようとする。
「なら、慰めてくれても良いだろう」
「んっ!」
ベックマンは坂城の首筋を人舐めすると少し離れ顔を見つめた。
「良いだろ?」
ベックマンは坂城の顎を固定する。
「……べ、ベック……」
坂城は体全体が心臓になったかのように脈打った。
鈍い坂城にもベックマンが自分に何を求めているのかが分かると戸惑いと緊張で体が動かなくなった。
ベックマンの顔を近付いて来るのを感じて坂城は慌てて目をぎゅっと瞑った。
「坂城、目を開けるな」
シャンクスの声がして、坂城は目を開けそうになる。それを制したのはベックマンの手のひらだった。
「取り込み中だ、お頭」
ベックマンは静かな声を出す。自分の首筋にシャンクスの剣が触れていてもだ。
「こればっかりは俺も譲れねェからな」
シャンクスはベックマンに剣を向けたまま坂城に近付いた。
「うわっ!」
シャンクスが坂城の手を取り、ベックマンの上から立たせる。
目を閉じたままの坂城は驚いて叫んだ。
「譲れないのは俺も同じだ」
ベックマンは立ち上がると坂城のもう片方の手首を掴む。
「……あ、あのー……もう目開けても良い?」
坂城は自分の頭上で繰り広げられている出来事に怖々と声を出した。
「なァ、坂城」
シャンクスは坂城の顎に指を添えると自分の方へ向かせた。
「しゃ」
坂城はそれを合わせて目を開ける。
「お前が好きだ」
シャンクスの真剣な顔に坂城の心臓は飛び跳ねた。
「坂城」
今度はベックマンに呼ばれて坂城はそちらを振り返る。
「俺はお前が好きだ」
ベックマンの力強い言葉に坂城の顔には熱が集まった。
どちらかひとつを決める時「なァ坂城」
「坂城」
「む」
「「む?」」
「無理ぃぃぃ!!!」
「あ、おい!」
「…………」
「逃げられたー」
「そうだな」
「お前、迫りすぎだろ」
「あれくらいしないとあいつは解らねェさ」
「だっはっはっ!確かにな!」
「どうする?」
「諦める訳はないさ」
「だな」
「ベックにも譲れねェ」
「俺もだ」
「坂城に選ばせるしかねェか」
「恨みっこ無しって奴だな」
「そうだな」
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