7月生まれの方へ
季節は夏7月。
ここ、##NAME4##城でもそれは変わらず、暑くなっていく日々だ。
子供達は池に集まり、水遊びにいそしむ。
雨が降っても蒸し暑い。
そんな季節。
「暑い…………」
○○はふらふらと外を歩いていた。
たくさんのジャガイモをトニーから貰い、酒場へ帰る所だ。
「あー!もー!無理!ちょっと休憩……」
○○は大きな木の根元に座り込みジャガイモを投げ出した。
「うー、気持ち良い!」
○○は木陰から漏れる光と爽やかな風を楽しんでいた。
「おー?○○じゃねーか?何してるんだ?」
通りかかったのはビクトール。
彼は星辰剣を携えて○○に近付いて来た。
「あ、ビクトール」
○○は笑顔で手を振った。
「今ね、休憩中」
○○はクスクス笑うと目を閉じる。
「休憩?」
ビクトールはこの暑い青空を見て、○○の隣に転がるジャガイモを見て、目を閉じる○○を見た。
「相変わらず体力ねーな」
ビクトールは苦笑しながら○○の隣に腰を下ろす。
「ビクトールが有り余ってるのよ」
○○は悔しそうに目を開けて口を尖らせた。
「はは、そうかい」
ビクトールは軽く笑うと静かに口を閉ざした。
○○はもう一度目を閉じる。
聞こえて来るのは木のざわめきと、遠くから聞こえる子供達のはしゃぐ声。そして戦士達の訓練する声だ。
○○は手を動かすとビクトールの手と当たった。
「……どうした?」
○○がビクトールの指に自分の指を絡ませる。
「…………別に」
○○はクスクスと笑いながら今度はビクトールの肩に頭を預けようとしたが、体格差のせいで、ビクトールの腕に頭を寄せた。
「おいおい、今日はずいぶんと積極的だな」
ビクトールは驚いた顔をしてから、ニヤリと笑った。
「…………甘えてるだけ」
○○は目を開けて、ビクトールと繋がった手を見る。
「ビクトールは今まで、この手で何人の人を守って来たの?」
○○は小さく聞いた。
「あー?さあな」
ビクトールは○○のされるままだ。
「この手で何人殺して来たの?」
「……さあな」
○○の指に少し力が入る。
「…………この手で何人抱いて来たの?」
「………………さあな」
ビクトールは穏やかな顔で呟くと、○○と繋がる手をぎゅっと握り締めた。
「…………ビクトールの事はいつになっても分からないなぁ」
○○はクスクスと笑った。
「……何があったんだ?」
ビクトールは○○の顔を見ずに繋がれた手を見ていた。
「あのね、ビクトール……」
「あん?」
「私、またひとつ年を取ったの」
「…………あ?」
○○は真剣な顔をする。
「あー、また無駄に年を取ってしまったわ!」
「…………」
○○の困った顔をビクトールが呆れながら見た。
「なんだよ、たまにシリアスに言うから、何かあったのかと思ったじゃねーか!!」
ビクトールは呆れきった声を出す。
「なっ?!重要よ!もうこんな年よ?!」
○○はこの世の終わりな様な顔をする。
「友達はもう結婚とかしてさ、早い子なんかもう子供もいるのよ?」
○○は子供のように頬を膨らませる。
「そうか、そいつは残念だったな」
ビクトールはニヤリと笑うとまだ繋がる手を見た。
「どうしよう……このまま行き遅れたら……」
○○はため息をついた。
「お前まだフリックとかくらいだろ?」
ビクトールは呆れたように○○を見る。
「あの人はあの姿形、中身、容姿があるけど、私にはないもの……」
「同じ事二回言ったぞ……」
○○の言葉にビクトールは突っ込む。
「大事な事だからね」
○○はクスクスと笑った。
「で?誕生日はいつなんだよ?」
ビクトールが呟く。
「△△日」
「今日じゃねーか」
○○は離れていた頭をもう一度ビクトールにくっ付けた。
「プレゼントは?」
○○は甘えた様に声を出す。
「あ?何にも持ってねーよ」
ビクトールは空を見上げた。
「………………別に目に見える物じゃなくて良いよ?」
○○はクスクスと笑いながらビクトールを見上げる。
「あ?………………何が欲しいんだよ」
ビクトールは○○を見る。
「約束……かな?」
「約束?」
ビクトールは訝しげに繰り返す。
「ずっと私と一緒にいるって約束」
○○はビクトールを正面から真剣な顔で見つめる。
「私、ビクトールのこ」
「待て待て」
○○の言葉を遮り、ビクトールが○○の口を手で塞ぐ。
「お前、大事な事を言おうとするな」
ビクトールはため息をついた。
「…………」
○○はビクトールの言葉に落ち込む。
○○はビクトールに助けて貰ってから、ずっとビクトールの事が好きだった。
だが、やっと勇気を出してここまで言うが…………告げる事さえも許されない。
「はぁ、私、行くね。レオナにジャガイモ届けなきゃ」
○○は無理矢理笑顔を作るとジャガイモの入った袋を持ち上げた。
気持ちは沈む。最悪な誕生日。
「……○○」
「ん?なに」
○○が振り返るとビクトールは驚くほど近くにいて、とっさに離れようとしたが、そのまま唇を奪われる。
「っん」
手から袋が離れ、ジャガイモが落ちる。何個か足の甲に当たって痛かったが、終わらない深い口付けにクラクラとする。
「……好きだ」
ビクトールはようやく唇を離すと、静かに告げた。
「…………お、遅いよ」
○○は真っ赤になって言った。
「悪いな。待たせたのか?」
ビクトールは○○を抱き締める。
「……うん」
○○は頷いた。
「俺はてっきりお前はフリックの事が好きだと思ってたぜ」
ビクトールはバツの悪い顔をする。
「まさか!私は会った時からビクトール一筋だよ」
○○はにっこりと笑った。
「そうか」
ビクトールは○○の耳元に口を近付ける。
「誕生日おめでとう、○○。これからは俺が一緒にいてやるから、安心して年寄りになろうぜ」