6月生まれの方へ
「今日も雨、昨日も雨、一昨日も……」
○○はつまらなそうに窓を見上げた。
「おや、今日はやけに腐るじゃないかい」
レオナはキセルをふーっとふかした。
「私、6月って好きなんですよ」
○○はため息混じりで言う。
「そうには聞こえないぞ」
酒を飲んでいたビクトールが不思議そうに聞いた。
「でも、雨は続くとこたえるの。少しの雨は好きなんだけど……」
○○はふうともう一度ため息をついた。
「何か思い入れでもあるのかい?」
レオナは不思議そうに聞いた。
「誕生日なの、6月は」
「はっ?!誰の?」
○○の言葉に反応したのは最近恋仲に発展したフリック。
「私の」
○○は当たり前の様に頷いた。
ーーガタンッ
「い、いつだ?!」
フリックはテーブルを叩きながら肩を震わせた。
「△△日」
○○はフリックの反応に驚きながら、声を出した。
「って、今日ぉ?!」
「ほう!おめでとういくつになったんだ?」
ビクトールがジョッキを置いた。
「ひみつ♪」
○○はおどけて言った。
「そうかい、それなりの付き合いだが知らなかったよ!ほら、私の奢り」
レオナはにっこりと笑いながらグラスに高級なデザートワインを差し出した。
「わー!嬉しい!!これ、大好き!ありがとう、レオナ!!」
○○は嬉しそうにワインを受け取った。
「よしよし、俺からはこれな」
ビクトールは隣の席とつまんでいたおつまりを渡す。
「食べかけ……」
○○は口を尖らせながら席に座った。
「よし!なら、何が食いたい?」
ビクトールがにこりと聞いてきた。
「そうね。ケーキとか、苺の!」
○○は考えながら言う。
「レオナ、苺のケーキ!」
ビクトールはレオナに注文する。
「あいよ。○○、オーダー、苺のケーキ」
レオナはにこりと○○を見た。
「ですよねー」
○○はつまらなそうにグラスに口をつけた。
「……ところで、フリック。どうしたの?さっきから止まってるよ?」
○○は立ち上がったままのフリックを見上げた。
「お、お前、そう言う事は前もって言えよ!」
フリックはいじけながらそう言った。
「何で?」
○○は不思議そうにフリックを見た。
「何で?って、あのな!色々準備があるだろう!ぷ、プレゼントとか!」
フリックがあまりにも気にしない○○にイライラとする。
「いらないよ!フリックからは色々と貰ってるし」
○○はそう言いながらネックレスに触った。
「でも、それじゃ……」
「なら、『愛してる』って言って」
「なっ!」
○○の真剣な顔にフリックは顔を赤くして、恥ずかしさからか怒った様な顔をする。
レオナとビクトールはニヤニヤと事のなり行きを見守る。
「冗談よ。期待してないもの!」
○○はにっこりと笑うとワインを口に含んだ。
「っ!で、でも、それじゃあ……」
フリックは声小さく困った顔をした。
「じゃあね、フリックの作ったご飯が食べたい!」
「は?」
○○がにっこりと笑うと、フリックは驚いた顔をした。
「コックなんてやってると、人が作った物を食べたくなるの!」
「……あまり作った事ないから不味いぜ」
フリックは困りきった顔をした。
「良いわ!フリックが作ってくれるなら!」
○○が楽しそうに答えた。
「……」
フリックはおもむろに席を立つと、マントと剣を外した。
「レオナ」
「好きに使いな」
レオナはニヤニヤとフリックにキッチンを指差した。
「頑張ってね!フリック」
「……」
○○の笑顔に見送られ、フリックはキッチンに消えて行った。
「お前もやるね」
ビクトールがニヤニヤと○○を見た。
「あら?なんの事かしら?」
○○は綺麗な笑顔で笑った。
「……(女って怖ぇ)」
ビクトールは改めて女性の怖さを思い知った。
「ほら、出来たぜ」
フリックは汗を拭きながら、○○の前に料理が乗った皿を差し出した。
「美味しそう!これは?」
「あ?」
「名前」
「これのか?」
「うん」
「そんなもんねーよ。俺は剣士だ」
○○が料理を見て嬉しそうに笑った。
フリックは照れているのか、ぶっきらぼうだ。
フリックが作ったのは、鮭と茹でたホウレン草にミルクを入れたパスタだ。
「美味しい!!このフリックスペシャル!!」
○○は驚いた様にパスタを食べた。
「そ、そうか!」
フリックはホッとした様な、嬉しそうな顔をした。
「……本当に旨そうだな……。なあ、○○!一口」
ビクトールが手を伸ばすのに○○はパスタを皿ごと持ち上げ逃げる。
「ダメよ!これはフリックから私への誕生日プレゼントだもの!」
○○が口を尖らせながら言う。
「なんだよー!けちー!」
ビクトールも口を尖らせる。
「クスクス、キッチンにまだあったわよ」
レオナは笑いながらキッチンを指差した。
「っ!レオナ!!」
フリックは焦った様に声を出す。
「○○!行くぞ!」
フリックは焦りながら○○の手を捕った。
「まだ食べてる!ってか、仕事!!」
「持ってけ!」
「○○、今日は上がりで良いよ」
レオナの言葉にフリックは○○を連れて酒場を出た。
「……これ、全部不味いぞ……あいつ、失敗し過ぎだ!!」
ビクトールは残念そうに鍋を流し台に下ろした。
「あー!楽しい!!」
○○はパスタとワインで酔っていた。
「本当に弱いな」
フリックは苦笑した。
「ねぇ!フリック!私、こんなに楽しい誕生日久し振り!ってか、初めて?」
「そうか」
フリックは優しく笑うと、そっと○○を抱き寄せた。
「○○、誕生日おめでとう。ちゃんと幸せにしてやるよ。今度こそな」
フリックはそっと囁いた。
「……」
「○○?」
黙り込んだ○○をフリックが覗き込む。
「……今日だけは……」
「ん?」
「……今日だけは、私の為だけに言ってくれない?」
○○は恥ずかしそうにフリックの肩に顔を押し付けて言った。
「……そうだな」
フリックはふっと、優しく笑った。
「君を幸せにするよ、○○。愛してる」
フリックは甘く耳元で囁いた。
「っ!!ありがとう」
「誕生日おめでとう!」