冷たい水でもあなたとなら
よく晴れた1月のある日。
「こう、気持ち良く晴れた日の方が風が冷たくて寒いのよねぇ……」
○○は寒そうに図書館から診療所に帰る道を歩いていた。
そこへ、寒さも吹き飛ばす少年達の声が響いた。
「待て!チャコ!!僕の地図返せ!」
「ちょっと貸してくれてもいいだろ!」
「こら待て!俺のチーズケーキ返せぇぇ!!」
「うるせ!食っちまったよ!つーか、忍者の癖に隙だらけだぜ?!」
「このやろぉ!!」
テンプルトンとサスケに追いかけられ、チャコは「へへン!」と笑顔で逃げる。
後ろから迫る少年達の声を聞き、ふと○○は振り返る。
「うわっ!」
「なっ!」
チャコが後ろの2人をちょうど振り返った所だったのか、○○に突っ込んで来た。
そして……
ーードボーーン
「あっ!ごめんよ!」
見事に池に飛び込んだ○○に軽く詫びをしつつ足早に過ぎ去るチャコ。
「「待てぇぇぇ!!!」」
そしてそれを追いかける2人…。
「もーー!!冷たっ!」
池に入ったまま○○はため息をついた。
冷た過ぎる水に身震いしながら池から出た。
○○はトボトボと診療所へ入った。
「先生ー……」
「○○さん、こんにちは……どうしたのですか?」
びしょ濡れの○○を見て、ホウアンは驚きの表情を作った。
「ちょっと、池に落ちました」
「それは…災難でしたね。お風呂にでも入って来たらいかがですか?幸い今は患者もいませんし」
ホウアンは優しくそう言うと○○にバスタオルを渡した。
「はーい。行って来ます」
診療所を後にして、大浴場へと向かった。
「はぁ、最悪…。寒いよー」
○○がトボトボと歩いていると、マイクロトフが歩いて来た。彼女を見つけると足早に近付いて来た。
「……○○さん!どうしたんですか?!」
「あ、マイクロトフさん」
「びしょ濡れじゃないですか?!」
「……ちょっと色々ありまして…」
驚くマイクロトフに○○は少し情けなくそう呟いた。
マイクロトフと○○が会うのは久しぶりの事だった。あの、初詣のプロポーズ(?)以来ちゃんと話すのは初めてである。
「大丈夫ですか?」
「これからお風呂に行く……へくしっ!」
言葉の途中でくしゃみが出た。さすがに冷たい水のせいで風邪を引きかけている様だ。
「なっ!これを」
マイクロトフは着ていた騎士服を差し出す。
「いえ、大丈夫ですよ!くしっ!」
強がり笑顔を見せるが、くしゃみは出る。
「ダメです。くしゃみが出てるじゃないですか。着てください」
有無を言わせない口調でマイクロトフは○○の肩に騎士服をかけた。
「すみません。暖かいです」
騎士服の前を押さえ、照れながらマイクロトフを見上げ礼を言う。
「さぁ、本当に風邪をひかない内に行きましょう」
マイクロトフに促され、再び大浴場へと向かった。
「はぁー!生き返る!」
少し温目の湯に浸かり○○は思い切り手足を伸ばした。すると、先程まで冷えきっていた体が熱を持ち始めた。
真っ昼間と言う事もあり、浴室は貸切状態。○○は気分良く体も洗った。
(まさか、あそこまでずぶ濡れになるとはね。下着までびしょびしょ……)
「あーーー!!!」
「……はぁ」
「暖まりましたか?」
「ま、マイクロトフさん!まさか、待っていたんですか?!」
風呂を出て、廊下に出るとマイクロトフが○○を迎えた。
「はい、いえ。俺も訓練でかいた汗を流しました」
よく見ると、マイクロトフも
ほかほか状態で笑った。
「まだ寒いですか?」
「いや、あの……これは……」
マイクロトフは○○の格好を見て不思議そうに問いかけた。
○○はマイクロトフの騎士服をまだ着ているのだ。しかも先程よりきっちりと。
「あ……の、まだ借りていて良いですか?その、私の部屋まで」
歯切れ悪く○○はマイクロトフを上目遣いで見た。少し照れるように顔も赤い。
「?はい。では参りましょうか」
マイクロトフは不思議に思いながらも○○を促した。
「マイクロトフさんは訓練だったんですね」
○○はマイクロトフを見上げながら聞いた。
「はい。やはり体力が基本ですからね。鍛えないと。○○さんは何を?」
「私は図書館で医学書を読んでました。今はホウアン先生もいらっしゃいますけど、これから忙しくなって、私だけでも平気な様に」
「さすがですね」
「いえ。休憩時間にちょこちょこ読んでるだけですけど。その帰り道に池に落ちてしまいました」
照れ笑いを浮かべながら○○は先程の事を思い出す。
「寒くて「最悪だー」って思ってましたが、マイクロトフさんにも会えたし、結果オーライかな?」
「!!ええ!」
照れながら話す○○を驚きながらも嬉しそうにマイクロトフは見た。
「と、ここが私の部屋なんですが……あの……着替えるので、ここで待っててくれますか?」
「?はい。分かりました」
疑問符を読んでましたも○○の言葉を聞き素直に待つマイクロトフ。
(着替え?)
風呂に入って来たのにと不思議に思いながらマイクロトフは思い返した。○○はびしょ濡れでバスタオル一枚を持っていた。
くしゃみをするくらいなのだから相当濡れていたのだろう。
(あれは下着まで濡れて……)
そこまで考えてマイクロトフはふと気付いた。
(まさか、あの騎士服の下ははだ…か……)
マイクロトフは慌てて自分の口元を片手で隠した。真っ赤な顔を隠す為に。
(いや、まさか)
ーーガチャ
「お待たせしました」
○○はワンピース姿で現れ、マイクロトフを部屋へと促した。
「マイクロトフさん、助かりました!実はこの服がなかったら、また濡れた服を着るか裸で歩く所でした」
○○は照れながらマイクロトフに騎士服を差し出した。
「は、はだ…」
マイクロトフは狼狽える様に顔を真っ赤にする。
「ええ。あ、素肌に着た服は嫌ですか?それなら洗ってから返します!」
○○は慌ててマイクロトフから騎士服を取ろうとするが、それより早くマイクロトフが騎士服を届かない所まで上げる。
「い、いえ!大丈夫です!むしろこのままが!」
マイクロトフは慌てながら騎士服を着た。ほんのり甘い石鹸の匂いがした。
「本当に助かりました!ありがとうございます!このお礼は必ずしますね」
○○はにっこりと笑うと丁寧にお辞儀をした。
「はい!あ、いえ!気にしないで下さい!では俺はここで!失礼します!」
マイクロトフは慌てて部屋を出た。
「……甘い…匂い……って!俺は違っ!!変態じゃないぞ!」
マイクロトフは頭を左右に激しく振りながら再び訓練に向かった。
「ぬおおおぉぉぉ!!!!!!」
夕方の訓練にはいつも以上に厳しく激を飛ばす青騎士元団長がいた。
「これは……○○さんと何かあった…かな?」
彼の親友である元赤騎士団長のカミューは不思議そうに彼を見ていたと言う。