城壁の影で
「あ、カミューさんだ」
乾いて畳んだ洗濯物を持って歩いていると、窓の外にカミューの姿を見付けた。
「はぁ、カッコイイなぁ。どうしたらお近付きになれるのかな」
ここアシタノ城には流れ着いた難民もかなりいる○○もその内の一人だ。
そんな中、約束の石盤に刻まれた108星達は一目置かれていた。
中でも女性に人気のあるフリックやカミューなどはよく女性に囲まれていた。
心に決めた人がいるフリックとは違い、騎士の務めとして女性に優しくするカミューは競争率が高かった。
「はぁ、顔は良い、性格も良い、強いその上優しい。そんなんじゃ、私みたいに勘違いしちゃう子は多いのに」
○○はため息をつくとその場を離れた。
「え?パーティ?」
同じ洗濯係の女の子が興奮気味に捲し立てた。
「そう!しかもよ!ドレスとか貸してもらえるんだって!」
女の子はワクワクと笑った。
そして、夜。
皆浮かれながらドレスを選んだ。
「○○さんも可愛いよ!」
○○に向けて他の女性が笑った。
「ありがとう」
○○は照れながらも笑った。
パーティが始まりやはりカミューの回りには人だかりが出来ていた。
「……まぁ、しかたないか」
○○は仕方無くジュースやつまめる食事をかごに入れるとパーティ会場を離れた。
「ご苦労様です。差し入れです。お酒はありませんが」
「おぉ!これはありがたい!!」
門番をしていた兵士に笑顔で差し入れをした。
各兵士の場所を回り、かなりの時間が過ぎていた。
「これで最後」
○○はパーティ会場へは帰らずに星空を眺めた。
こんなに平和を感じるのにそれは仮染めで、ここから戦いに出る戦士達はいつも死と隣り合わせなのだ。
「……あの人も」
○○はギュッと自分を抱いた。
「こんばんは」
「っ!!」
驚いて振り返ると○○の想い人カミューが立っていた。
「こ、こんばんは」
○○は顔を赤く染めながら声を出す。
「こんな時間にこの様な場所を通るのは感心しません」
カミューは美しい顔に笑顔を乗せた。
「す、すみません!兵の方たちに差し入れをと思いまして」
○○はわたわたと答えた。
「そうでしたか」
カミューは一歩○○に近付く。
「貴女を視界の端に捕らえていたはずなのに、いつの間にか姿が見えず。誰かと会瀬でもしているのかと心配しました」
カミューは白手袋をはめた手で○○の手を取る。
「っ!ま、まさか。相手もいないのに……」
○○は困った様に笑った。
「そうですか?それは良かった」
カミューはにこりと笑うと○○の手を離した。
「……」
○○はどう答えたら良いか解らずに黙った。
顔には熱が集まっていた。
「しかし、こんな時間にお一人で歩いていたら何があるか分かりませんよ?」
カミューは一歩○○に近付く。
「まさか!アシタノ城の中で何かが起こるなんて……」
○○の言葉にカミューはまた一歩近付く。
「貴女の前にいるのは誰ですか?」
カミューは笑顔だがその顔が○○には怖く感じた。
また一歩近付く。
「え?か、カミューさんです」
○○は近付くカミューを恐れて一歩下がる。
「いえ、男です」
カミューが一歩近付くと○○は一歩下がる。
気付けば○○の背は城壁に付いていた。
「あ、あの、カミュー、さん?」
○○はおずおずとカミューを見上げた。
「はい?」
カミューは黒い笑顔で○○を間近から見下ろした。
「なんか、近」
「貴女が好きだからです」
「っ?!」
カミューの近さと言葉に○○は顔を真っ赤に染める。
「なのに貴女ときたらこんな夜遅い時間に他の男の所に」
カミューは右手で○○の頬を撫でた。
「え?あ、の」
「○○さん」
「は、はい!」
○○の声は裏返る。
「貴女が好きです。私のものになってください」
城壁の影で
「そ、その。私で良ければ」
「ありがとうございます。では」
「んっ」
「貴女の唇も私のものです」
「…………はい」