貴方とクリスマスを3
腕を組み、クリスマスイブの街中を歩くのはまるで恋人同士のようだ。
しかし2人は恋人同士ではなく、同じ会社の上司と部下だ。
それでも○○は楽しそうにカミューにエスコートされるままに高級ホテルへと連れて来られた。
「ここに会員制のバーがあるんですよ」
カミューは専用エレベータに乗り込むと、専用のカードキーを挿し込みボタンを押す。
「へぇ」
少し酔いの覚めた○○はそっとカミューから手を離した。
「……」
カミューはそれを少し残念そうにした事に○○は気付かずにいた。
ーーチーン
エレベータが止まり扉が開く。
「どうぞ」
カミューが自然な動作で○○の手を取ると、エスコートする。
「カミュー様。お待ちしておりました」
素早く案内役の男がカミューに近付く。
「今日は彼女と2人で」
カミューが○○を見る。
それが優しい顔付きで○○は自然と顔を赤くした。
「お名前を」
案内役の男が○○にうやうやしく頭を下げる。
「え?」
「会員制ですので」
「あ!○○です」
カミューに促され○○が名乗る。
「カミュー様、○○様。どうぞこちらへ」
案内役の男は2人を店内に案内した。
通されたのは窓際の静かな席だ。
テーブルが窓に付き、外に向かって上品な革張りの2人掛けには大きなソファーがあった。
2人は並んで腰を掛けた。
「今日はいかがいたしますか?」
案内役の男がカミューに聞く。
「○○さん、お酒は?」
カミューが○○に聞く。
「あ、あまり強いのは苦手で。さっきも飲んできましたし……」
○○は申し訳なさそうにわたわたと答える。
「彼女には軽い物を。私は赤ワインを」
「かしこまりました」
「後は軽くつまめる物を」
カミューはメニューも見ずに答える。
「本日はスイス産のチーズが入りました」
「なら、それを」
「かしこまりました」
案内役の男が頭を下げ、下がる。
「……高いですね」
○○は外を眺めかがらポツリと呟いた。
既に酔いは覚め、少し青ざめている。
(私は調子に乗って何故ここに!)
○○はプチパニックを起こしかけ、萎縮していた。
「ええ、最上階ですからね」
カミューはにこりと笑った。
「……あの、すみません」
○○は小さく声を出す。
「何がですか?」
カミューは不思議そうに聞く。
「その、こうしてのこのこ付いてきてしまって」
○○は眉を八の字にする。
「いえ、誘ったのは私ですから」
カミューは苦笑しながら言う。
「いえ、でも」
「お待たせいたしました」
○○の言葉を遮る様にワインとカクテル、可愛く盛り付けられたチーズとつまみが運ばれて来た。
「乾杯でもしましょう」
カミューがにこりと笑ってグラスを持ち上げる。
「……」
○○が戸惑いにきょろりと目を動かす。
「私とでは嫌ですか?」
「い、いえ!」
カミューの少し寂しそうな問いに○○はグラスを持ち上げた。
「メリークリスマス」
「め、メリークリスマス」
カチャンと軽い音を立ててグラス同士が重なった。
2人はとりとめのない話で盛り上がる。
まさか、カミューと2人きりで飲めるとは思ってみなかった○○は嬉しくてついつい酒が進んだ。
「あ、もうこんな時間なんですね!」
○○は腕時計を見て驚いた。
もう、終電ギリギリの時間だ。
「ありがとうございました!お陰で夢のような時間が過ごせました」
○○はにこりと笑うと立ち上がる。
「……?」
立ち上がった○○の手をカミューの手が捕らえた。
「実は」
カミューが懐からカードキーを取り出す。
「部屋を用意しているんです」
カミューは真剣な顔で言う。
「………………」
○○は酔いの回った頭で少し考えてから、すとんとソファーに腰を沈めた。
その姿にカミューは体を寄せる。
「っ!!」
腰に腕が回され、びくりと体が跳ねた。
「行きましょう」
カミューの声に○○は頷くしか出来なかった。