8月生まれの方へ
真夏
日差しも強く、気温も高く、雨も少ないこの時期は熱中症患者も多い。
普段から鍛えている戦士たちはさほど苦にはならないようだが、このアシタノ城では、女や子供、非戦闘員も数多くいた。
「熱中症は甘く見ないでください。これにより死者も出ます」
優しい声と顔で厳しく言うホウアン。患者はうんうんと頷いていた。
「では、水分と塩分を摂ってくださいね」
ホウアンはそう締め括った。
「こう、暑くては怪我以外の患者さんも多いですね」
○○は薬などを背の高い棚に戻す。
すでに日も落ちている。
「そうですね。医者としては、どちらも心苦しいのですが」
ホウアンはそう苦笑した。
「それでもホウアン先生は治してしまうんですから、凄いです!!」
トウタは嬉しそうにホウアンを尊敬の眼差しで見た。
「そうですか?ありがとうございます」
ホウアンはにっこりと笑うとトウタを撫でた。
「それより○○さん、そろそろ行かなくて大丈夫ですか?」
ホウアンはチラリと暗くなった窓の外を眺めた。
「……そうですね。トウタくん、後良いかしら?」
○○はエプロンを外しながら聞く。
「はい!早く行かないと大きな声で迎えに来てしまいますからね」
トウタはにっこりと笑った。
「……はは」
「コラ、トウタ」
○○は乾いた笑いをし、ホウアンはトウタを笑顔で叱った。
「では、行ってきます」
○○はにっこりと手を振った。
トウタはふと疑問に思った事を口にする。
「○○さんて、マイクロトフさんの事が好きなんですか?」
「○○さん!」
マイクロトフは○○の姿を見付けるとにっこりと笑った。
「お待たせしました!」
○○はにこりと笑い、近付いた。
「いえ、忙しいところすみません」
「いえいえ」
「では、行きましょう」
マイクロトフはにこりと笑うと手を差し出す。
○○はくすりと笑うとその手を取った。
騎士と言う者は、自然とエスコートを出きるらしい。
恋愛下手で女性を前にすると緊張しがちなマイクロトフでさえ、ごく自然にエスコートをする。
同じ騎士でも、赤騎士カミューはそれに加え、キザな台詞のひとつやふたつ吐くが。
「エレベータですか?」
○○は不思議そうにマイクロトフを見上げる。
「はい」
マイクロトフは迷わずエレベータへと入る。
初めて使うそれは、不思議な感覚だった。
「まだ上に行きます」
マイクロトフはずんずんと進んで行く。
ここまで上がるのはさすがに初めてだった。
城の上に行けば行くほど要の人物の部屋なのだ。
正軍師であるシュウや、リーダーU主などの部屋だ。
あまり、一般人の入る場所ではない。
恐る恐るマイクロトフの後に着いて先を進む。
「ま、マイクロトフさん……」
不安になり声を出す。
「ここです」
マイクロトフはドアを開ける。
「っ!!」
○○は急に強い風に煽られ、驚く○○。
「お、屋上?」
○○が外に出ると、夏だと言うのに強い涼しい風が吹いていた。
「あまり行くと危ないですよ!」
マイクロトフは慌てて○○の手を握る。
「っ!!高ーーい!!」
○○は楽しそうに笑った。
「マイクロトフさん!フェザーがいますよ!行ってみます?」
○○は風に負けないように声を出した。
「え?は、はい」
マイクロトフは大丈夫なのか?と頷いた。
「高ーーい!!」
すでに辺りは暗くなっていたが、○○は楽しそうに身を乗り出した。
「あまりそちらに行くと危ないですよ!」
マイクロトフが慌てて○○を追う。
「マイクロトフさん!ありがとうございます!こんな所まで普通来られないですもの」
○○は楽しそうに笑った。
「っ!!喜んで貰えて光栄です」
マイクロトフは○○の笑顔に照れながら真面目な顔で言う。
「ーー」
ーーひゅーん
ーーッドン!!
「わぁ!!」
突然の音に振り返ると夜空には真夏の大きな花が咲いた。
「……始まりましたね」
マイクロトフは出鼻を挫かれながら、花火を見上げた。
「え?マイクロトフさんは知っていたんですか?」
○○は不思議そうにマイクロトフを見上げる。
「ええ、U主様の提案で花火大会だそうです。他の者には内密にと」
「ああ、だから知らされていなかったのね。私、花火って初めて!!」
○○は嬉しそうに花火を見上げる。
「カミューも駆り出されています」
「カミューさんが?流石烈火の赤騎士様」
○○はクスクスと笑った。
○○の笑顔が自分に向けての笑顔ではないのに、少し複雑なマイクロトフ。
「今日、私の誕生日なんです。こんな素敵なプレゼントを見られるなんて思いもしませんでした」
○○は嬉しそうに花火を見上げる。
「え?」
マイクロトフはハッと気が付いた。
ーー丁度良かった。○○さんも喜んで貰えるね
カミューはそう、日付を聞いてマイクロトフにニヤリと笑ったのだ。
「○○さん、カミューに誕生日の事言いましたか?」
「え?ええ。確か前に……」
マイクロトフの言葉に○○は頷いた。
まさか、こう言う事だったとは。
「……お誕生日おめでとうございます。俺、誕生日だなんて知らなくて……」
マイクロトフは情けなく頭を抱えた。
「いいえ!偶然でも素敵なプレゼント受けとりましたよ。ありがとうございます。それに、こんな特等席で」
○○はにこにこと笑った。
「それでも、特別な日をちゃんと……」
マイクロトフは頭を下げたままだ。
○○は苦笑しながらマイクロトフへ近付き、並んだ。
「マイクロトフさん。貴方は前に私を幸せにしてくれると言いました」
「っ!!え、ええ」
マイクロトフは意外に近い○○の顔にドキドキと顔を赤くする。
「私、今幸せですよ?誕生日に貴方とこうして2人で一緒に花火が見られて」
○○は柔らかい笑顔だ。
「○○さん……」
「プレゼント、おねだりして良い?」
「もちろん!なんでも!!」
「じゃあ」
勢い込むマイクロトフに○○は手を出す。
「来年の誕生日も一緒にいてください」
○○はにこにこと笑った。
「え?それだけ?」
「いいえ!来年も再来年も、その次もずーっとです」
○○はマイクロトフに両手を出した。
「っ!!も、もちろんです!!!」
マイクロトフは嬉しそうに驚きながら○○の手を握った。
ーー○○さんて、マイクロトフさんの事が好きなんですか?
「……好きです、マイクロトフさん」
○○は初めてマイクロトフへの気持ちを言葉にした。
「っ!!俺も、○○さんの事が好きです!!!」
マイクロトフは勢い良く嬉しそうに頷いた。
「お誕生日おめでとうございます!!!これからも、ずっと一緒にいましょう!!!」