追跡

「○○」

「はい」

「これだが……」

「わかりました」

「……」



「○○」

「はい」

「次の会議の資料は?」

「そこの茶封筒です」

「……これかよい」

「……」

「……」



ミミはあの日から真面目に業務をこなしていた。
マルコの質問には簡潔に答え、前のような冗談は一切無い。
特に気まずい空気もないが、専務室は冷えきっている様に思えた。



「なァ、○○」

マルコは煙草を持つとミミを振り返る。

「次の予定の事だけどよい」

「はい?」

ミミはマルコを振り返る。

「キャンセルで」

「……わかりました」

マルコの言葉にミミは言い返す事無く、頷いた。

「…………はぁ」

マルコは盛大にため息をついた。

「何なんだよい」

マルコはだんっと煙草を持つ手でミミのデスクを叩いた。

「何がですか?」

ミミはチラリとマルコを見上げると名刺ケースを開けて次のキャンセルのむねを伝えるために電話番号を探した。

「何がですか?ってよい、もう少し何か、こう!」

マルコの言葉にミミは苛立たし気にデスクを叩いた。

「あのですね?私は失恋したんですよ?!何ですか?何なら傷口に塩を塗り込む事します?奥さんどんな方ですか?写真くらいあるでしょ?見せてください!それから、キャンセルしませんよ?したらハワイに寄れなくなるでしょ?!仕事してください!してるの解るけど、 私は!!!」

ミミは溜まっていた鬱憤を晴らすために早口で捲し立てた。最後の方は涙が出ていた。

「……悪ィ……よい」

マルコはミミの泣き顔に動揺して頭を下げた。

「すみません。そんなにすぐに立ち直れなくて……大丈夫になりますから!」

ミミは乱暴に目元を拭った。

「こーんな良い女振ったんですからね!後悔したって知りませんよ!!」

ミミはマルコを見てニヤリと笑った。

「……そうだねい。あ、写真だよい」

マルコは少しホッとした様な表情をすると手帳から写真を取り出す。

「うわ、本当に傷口に塩を塗れと」

「まァ、ねい」

嫌そうなミミにマルコは写真を渡した。

「……綺麗な人ですね」

「まァ、よい」

ミミの言葉にマルコは嬉しそうに笑った。

「うわ、ムカつくわ、その顔」

「上司だよい、俺」

「知ってますわ」

ミミはくすりと笑った。そのミミの笑顔にマルコはふと、表情を和らげた。

「で、キャンセルしませんからね」

「……そいつは残念だよい」

マルコはさほど残念そうではなく笑った。







「あ、すみません!」

フラフラと歩いていたら、綺麗な女の人に当たった。

「っ痛いわ!まぁ、良いわ!行きなさい!」

綺麗な女の人はミミをシッシッと手で払った。

(何この人!ぶつかったのはお互い様でしょ?!謝って損した!)

ミミは女の人をチラリと見ると見た事のある顔だった。

(この人!ま、マルコ専務の……)

嫌な人と結婚するんだなぁ。と思いながらその場を離れようとすると「待ったぁ?」と甘ったるい声がした。

(マルコ専務とデートかな?)

ミミは何気なく振り返るとそこには知らない男が……。

(え?どう言う事?)

ミミは知らぬ間に2人の後を追った。






高級なバーに入ると席につく2人。ミミはそのすぐ近くに座ると携帯のボイスレコーダーをオンにした。

「ねェ、この後どうする?」

女はねっとりと甘い声で男の腕に指を這わせた。

「マルコに見付かったらヤバイのは君だろ?」

くすりと男は笑うとグラスを傾けた。

「もう!私は貴方しか愛してないわ!あの人はお金の為に結婚するの」

「っ!!!」

女の言葉にミミは自分の口を塞いだ。叫びそうになる。

「悪い女だな、君は」

クスクスと男は女の唇を指で撫でる。

「嫌ね……。貴方がそうさせてるんでしょ?」

女は男の指を甘噛みしながら言う。

「君は僕しか愛してないものね」

クスクスとそんな話を一時間ほどすると、バーを出た。

入って行くのはホテル。

「…………もしもし?専務?非常召集!!え?今すぐ来て!!」

ミミは怒りに任せてマルコに電話を掛けた。

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